期待と不安が交錯するAI相場、「コアウィーブ・ショック」の波紋

米国時間の2026年10月14日、AI向けデータセンターを手がける米国のクラウド企業「コアウィーブ」[CRWV]の社債価格が急落し、巨額の借り入れに頼るAI関連ビジネスの財務リスクが意識されました。いわゆる「コアウィーブ・ショック」です。この影響は日本市場にも波及し、翌15日の日経平均株価は前日比3,318円安と急落。20日には6万4,075円まで下落しました。

AI向けデータセンターは巨額の設備投資が必要であり、資金調達や金利負担への懸念は今後も相場の不安材料となりそうです。一方で、AI半導体やデータセンター関連ビジネスは、将来に向けた高い成長が期待される分野でもあります。こうした期待と不安が交錯するなか、株価が大きく変動する場面は今後も続くとみています。

そこで重要になるのが、市場心理です。投資家が強気のときには、AI関連ビジネスの成長期待に注目が集まり、株価が上昇しやすくなります。反対に、弱気のときには資金調達や金利負担などのリスクが意識され、株価が下落しやすくなります。つまり、同じ企業や事業であっても、市場心理によって投資家が注目する材料が変わり、株価の動きも大きく異なる可能性があるのです。

では、現在の投資家はどの程度強気なのでしょうか。それとも、弱気に傾いているのでしょうか。そこで今回は、株価の動きから市場心理を数値化する独自の指標「市場心理温度計」を使い、足元の株式市場の心理状態を探ってみたいと思います。

株価の動きから投資家の強気・弱気を読み解く「EMSI」

それでは、「市場心理温度計」の仕組みを解説しましょう。

先ほど独自の指標と紹介しましたが、その基本となるのは、米国マサチューセッツ大学の金融研究者、アリンダム・バンドパディヤヤ氏とアン・リア・ジョーンズ氏が2006年に発表した「EMSI」という指標です。EMSIは「Equity Market Sentiment Index(株式市場心理指数)」の頭文字を取ったもので、株価の動きから投資家の強気・弱気を捉えようとするものです。

株価の「値動きの激しさ(リスク)」に注目

EMSIの基本的な考え方は、株式市場でリスクの高い銘柄と低い銘柄のどちらが相対的に買われているかを見るというものです。ここでいうリスクとは、過去の株価の値動きの大きさを指します。統計的には、株価の騰落率の「標準偏差」で測ります。標準偏差が大きい銘柄ほど値動きが激しく、リスクが高い銘柄と考えます。

EMSIでは、対象となる銘柄について、ある日の株価騰落率と、それぞれの銘柄の過去の騰落率の標準偏差を計算します。そして、騰落率と標準偏差をそれぞれ大きい順に並べ、その順位がどの程度一致しているかを調べます。このときに使うのが、統計学で「順位相関係数」と呼ばれる指標です。

「順位相関係数」で投資家の強気・弱気を判定

順位相関係数は、マイナス1からプラス1までの値を取ります。リスクの高い銘柄ほど株価騰落率も高い傾向が強ければ、両者の順位が似た並び方になるため、順位相関係数はプラス1に近づきます。これは、投資家が積極的にリスクを取ろうとする「リスク選好」の状態であり、市場心理が強気に傾いていると考えられます。

反対に、リスクの低い銘柄ほど株価騰落率が高い傾向が強ければ、両者の順位は逆の並び方になり、順位相関係数はマイナス1に近づきます。これは、投資家が値動きの大きい銘柄を避け、比較的安定した銘柄を選ぼうとする「リスク回避」の状態であり、市場心理が弱気に傾いていると考えられます。

市場全体ではなく「買われる銘柄の特性」を見る

この関係を分かりやすく示したのが図表1です。左側は、市場心理が良いときのイメージです。高リスク銘柄の上昇率が低リスク銘柄を上回っており、投資家が積極的にリスクを取っている様子を表しています。一方、右側は市場心理が悪いときのイメージです。低リスク銘柄の上昇率が高リスク銘柄を上回り、投資家がリスクを避けている様子を表しています。

【図表1】市場心理の強気・弱気と銘柄のリスク・リターンの関係(イメージ)
出所:マネックス証券作成

つまり、EMSIは株式市場全体が上昇したか下落したかだけではなく、どのようなリスク特性を持つ銘柄が相対的に買われているかという点から、市場心理を捉えようとする指標なのです。図表1には、EMSIの考え方をもとに独自に開発した「市場心理温度計」も簡単に示しています。

市場心理を「温度」で見える化!足元はわずか0.8度

市場心理温度計は、投資家の強気・弱気の度合いを0~100度で表したものです。市場心理が極めて悪い状態を0度、反対に極めて良い状態を100度とし、その中間にあたる50度を中立としています。つまり、50度を上回るほど投資家のリスク選好が強く、下回るほどリスク回避の傾向が強いと判断します。

具体的な温度と市場心理の関係を示したのが図表2です。50度を超えて75度未満を「やや強気」、75度以上85度未満を「強気」、85度以上を「超強気」としています。一方、25度を超えて50度未満を「やや弱気」、15度を超えて25度以下を「弱気」、15度以下を「超弱気」としています。

【図表2】市場心理温度計の水準と足元の市場心理(2026年10月20日時点)
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成

注目したいのは、10月20日時点の市場心理温度計が、わずか0.8度となっていることです。これは「超弱気」に該当し、投資家のリスク回避姿勢が極めて強い状態にあることを示唆しています。先ほど触れたコアウィーブ・ショックなどを背景に、株式市場では成長期待よりもリスクへの警戒が強まっていると考えられます。

なお、市場心理温度計は、TOPIX500採用銘柄を対象に、各銘柄の過去10営業日の株価騰落率の標準偏差と当日の騰落率から順位相関係数を計算し、その5営業日移動平均を0~100度に変換したものです。計算方法の詳細については、文末の(参考1)にまとめています。

超弱気の後には反騰も?過去のデータが示す意外な傾向

それでは、市場心理温度計は、その後の株価の動きを予測するうえで役立つのでしょうか。

過去のデータを使って検証したところ、市場心理温度計が50度を超える「強気圏」にあるときは、3営業日後や5営業日後に日経平均株価が上昇する確率が高い傾向が見られました。一方、50度を下回る「弱気圏」にあるときは、その後の株価が下落する確率が高くなる傾向が確認されました。つまり、市場心理が強気のときには株価が上昇しやすく、弱気のときには下落しやすいという、直感的にも理解しやすい結果です。

ただし、興味深いのは、市場心理が極端に悪化した場合です。図表2で示したように、市場心理温度計が15度以下となる「超弱気」の局面では、むしろその後に株価が反騰する確率が高くなる傾向が見られました。

これは、投資家の不安が極端に高まると、株価が短期間に大きく売られ、売られ過ぎの状態になりやすいためと考えられます。こうした局面では、悪材料への警戒がいったん和らぐだけでも買い戻しが入り、株価が反発することがあります。いわゆるリバウンドの動きです。

足元の市場心理温度計は10月20日時点で0.8度と、極めて低い水準にあります。もちろん、AI関連企業の資金調達や金利負担に対する懸念が解消されたわけではなく、相場の不安定な動きには引き続き注意が必要でしょう。それでも、過去の検証結果を踏まえると、現在は市場心理の極端な悪化を背景に、日経平均株価のいったんのリバウンドを期待したい局面と考えています。

参考1:市場心理温度計の計算方法

市場心理温度計は、Bandopadhyaya and Jones(2006)が提案したEMSI(Equity Market Sentiment Index)の考え方をもとに、日本株を対象として独自に加工した指標です。具体的な計算方法は以下のとおりです。

① 分析対象銘柄
TOPIX500採用銘柄を対象とします。各時点の採用銘柄を用いることで、日本の主要企業の株価動向から市場心理を捉えます。

② 株価のリスク(標準偏差)の計算
各銘柄について、過去10営業日の日次株価騰落率の標準偏差を計算します。標準偏差が大きい銘柄ほど株価の値動きが大きく、リスクが高い銘柄とみなします。
なお、当日の株価騰落率とリスクの関係を調べるため、リスクの計算には前営業日までのデータを使用します。

③ EMSIの計算
各営業日について、対象銘柄の当日の株価騰落率と、②で求めた標準偏差の順位相関係数(スピアマンの順位相関係数)を計算します。
順位相関係数はマイナス1からプラス1の範囲を取り、リスクの高い銘柄ほど当日の騰落率が高い場合にはプラス、リスクの低い銘柄ほど騰落率が高い場合にはマイナスとなる傾向があります。

この順位相関係数を100倍したものを、日次のEMSIとします。

④ 市場心理温度計への変換
日次のEMSIについて5営業日移動平均を求め、短期的な変動を平滑化します。さらに、シグモイド関数と呼ばれる変換方法を用いて、0~100度の範囲に収まる市場心理温度計を算出します。
市場心理温度計は50度を中立とし、50度を上回るほどリスク選好が強く、50度を下回るほどリスク回避が強い状態を表します。

計算式は以下のとおりです。

市場心理温度計 = 100 ÷ {1 + exp(-EMSIの5営業日移動平均 ÷ 5)}

ここで、expは指数関数を表します。

なお、この計算式によって算出される市場心理温度計は、理論上0度に近づくほど極端な弱気、100度に近づくほど極端な強気を示します。

参考2:市場心理温度計と日経平均株価の関係

【図表3】市場心理温度計と日経平均株価の推移(2026年5月26日~10月20日、100営業日)
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成

※参考文献
Bandopadhyaya, A. and Jones, A. L.(2006), “Measuring Investor Sentiment in Equity Markets,” Journal of Asset Management, Vol. 7, pp. 208–215.