高市総理は円の過小評価を問題視せず?

現在の円相場が「過小評価」なのか否かは、何を基準にするかで違う。例えば、購買力平価との関係で見ると、近年の円安は、「空前の過小評価」だろう(図表1参照)。ただ、高市総理が「一般論として」と前置きしていることを考えると、「円の過小評価が問題なのはあくまで一般論であり、私が問題視しているかは別だ」と言っているようにも聞こえるのではないか。

【図表1】米ドル/円の購買力平価かい離率(1973年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

そうであるなら、高市総理は現在「過小評価されている可能性のある円」について、なぜ問題視していないのか。それは、高市総理が継承を自認してきたアベノミクスとの関係からすると当然のようにも感じられる。

大幅な円安を最後まで容認し続けたアベノミクス

2012年12月に発足した第2次安倍政権の経済政策であるアベノミクスでは、日銀による大胆な金融緩和と機動的な財政政策など「3本の矢」で日本経済のデフレからの脱却を目指した。その中軸が、日銀の金融緩和を受けた円安の容認だった。このため、アベノミクスの下で、米ドル/円は2012年12月の80円台から、2015年には120円台まで大幅な円安が進行した。

これを過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)との関係で見ると、120円を超えた円安は、5年MAかい離率が3割以上に拡大したものだった(図表2参照)。このように、5年MAを3割以上上回るまで進んだ米ドル高・円安に対して、円安阻止の為替介入に動かなかったのは、唯一「アベノミクス円安」だった。

【図表2】米ドル/円と5年MAかい離率(1990年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

そのアベノミクスの継承を自認し続けた高市総理からすると、「円の過小評価は一般論として問題」と「一般論」にこだわる姿勢は、本人的には「円の過小評価の何が悪い」という言葉の裏返しのように感じられる。

アベノミクスでは達成できなかった脱デフレ=むしろ大幅円安のきっかけに

問題はアベノミクスが、果たして成功だったか否かということに戻るのではないか。アベノミクスの目標は日本経済をデフレから脱却させることだった。ただそれは安倍政権時代には達成できず、実現したのは2022年以降の世界的インフレ局面においてであった。

こうしたことからすると、「アベノミクスは金融緩和と財政拡大を総動員したものの、脱デフレを達成できなかった」、「むしろアベノミクスの異次元緩和や積極財政による財政規律の緩みが、現在に至る大幅円安のきっかけになった」という評価が基本になるのではないか。

そうであるなら、アベノミクスを継承する「高市インフレ」を進めることは良いのだろうか。結局、アベノミクスへの総括が曖昧なまま、アベノミクスの後継者に日本経済を託すという状況になっているように感じられる。