S&P500は週間で3.58%上昇し最高値更新、重たい空気が晴れた米国株
先週(8月3日週)の米国株は、ここ数ヶ月の相場を覆っていた重たい空気が一気に晴れた1週間と言えます。S&P500は週間で3.58%上昇し、史上最高値で週を終えました。ナスダック100は5.12%高となり、テクノロジー株の戻りが鮮明になりました。
重要なのは、単に指数が上がったことではなく、前週(7月27日週)まで相場を押し下げていたポジション解消の圧力が弱まり、好調な企業業績、AI投資の広がり、原油価格の下落、そして金利低下が同時に株価を支え始めたことです。
前週(7月27日週)の下落局面では、値下がりそのものが次の売りを呼ぶような展開が見られました。モメンタム取引の巻き戻しや機関投資家のデレバレッジ、つまり「リスクを落とすために売らなければならない売り」が重なり、個々の企業のファンダメンタルズ以上に株価が押し下げられていました。
先週(8月3日週)はその流れが一巡しました。売り圧力が弱くなったところに、決算の強さとAI需要の継続が確認され、投資家が再びリスクを取れる環境へ戻ったのです。
この変化は、市場が悪材料に対して以前ほど脆くなくなったことにも表れています。大型テクノロジー銘柄の一部に利益確定売りが出ても指数全体は崩れず、金融やヘルスケアなど別のセクターが下支えしました。相場が一部の人気株だけで動くのではなく、複数の業種が交代で市場を支える形になってきたことは、今回の上昇を考えるうえで非常に重要です。
S&P500の第2四半期(4-6月)期の業績成長率は、前年同期比50.4%増
今回の上昇の土台にあるのは、やはり企業業績です。決算シーズン前にはS&P500の第2四半期(4-6月)期の業績成長率は25%程度とみられていましたが、発表が進むにつれて実績はそれを大きく上回りました。
現時点では第2四半期の業績は前年同期比50.4%増、特殊要因の大きいアルファベット[GOOGL]とアマゾン・ドットコム[AMZN]を除いても32.0%増となっています。しかもAI関連企業では、単に将来の期待が膨らんでいるのではなく、設備投資、受注、売上高、利益という実際の数字が伴っています。
パランティア・テクノロジーズ[PLTR]が示した「異次元の成長」
先週(8月3日週)の決算で象徴的だった銘柄の一つは、1週間で株価が40%上昇したパランティア・テクノロジーズ[PLTR](以下パランティア)です。
同社は、企業や政府機関が保有する膨大なデータをAIで分析し、意思決定や業務効率化につなげるソフトウエアを提供しています。もっとも、ここ最近の株価は必ずしも順調ではありませんでした。市場ではソフトウエア株全般に対して、AIが既存のSaaSビジネスを脅かすのではないかとの懸念が広がっていたほか、パランティア自身も高い成長期待をすでに織り込んだ割高なバリュエーションが意識されていました。そのため、好業績を発表しても、期待値の高さが株価の重しになりやすい状況が続いていました。
そうした中で、今回の決算は市場の懸念を一気に吹き飛ばすほど強い内容となったのです。売上高は前年同期比93%増となり、会社側は通期の売上高見通しを5億ドル引き上げました。パランティアのマネジメントは、今回の決算発表については「まさに異次元の成長だった(otherworldly)」とコメントしています。
今回の決算が示したのは、AIがパランティアにとって脅威ではなく、むしろ成長を加速させる強力な追い風になっているということです。これは同社だけでなく、先週(8月3日週)のソフトウエア株全体の評価を見直すきっかけにもなりました。
キャタピラー[CAT]が好調、インフラ・資本財へ波及するAI需要
もう一つ見逃せないのがキャタピラー[CAT]です。データセンター需要を背景に、発電関連の販売が直近3ヶ月で48%増加しました。これはAI投資の波がエヌビディア[NVDA]のような半導体メーカーだけにとどまらず、電力、発電設備、冷却、ネットワーク、建設などへ広がっていることを示しています。
AIの設備投資は巨大な裾野を持ち始めており、米国製造業の回復にもつながっています。7月のISM製造業景況指数は55.6と、2022年5月以来の高水準まで上昇しました。
「AI関連」だけで買われない半導体株、銘柄選別が厳格化
また、フィラデルフィア半導体指数(SOX指数)は週間で約9%上昇しましたが、AI関連株全体を見れば、すべての銘柄が買われたわけではありません。むしろ、AI需要そのものは依然として強い一方で、高い成長期待をすでに株価に織り込んでいる銘柄ほど、決算や見通しが少しでも期待に届かなければ売られるという、銘柄選別の色合いが強まった1週間でした。
SOX指数では、コヒレント[COHR]、エヌビディア[NVDA]、インテル[INTC]などメモリー専業ではない半導体株が大きく上昇し、指数を押し上げました。その一方で、AI向けデータセンター需要の恩恵を受ける銘柄としてこれまで人気を集めてきたメモリー企業のウェスタン・デジタル[WDC]は週間で約20%下落し、シーゲイト・テクノロジー・ホールディングス[STX]も下落しました。
AI関連企業の業績そのものは引き続き好調ですが、株価にはすでに高い成長期待が織り込まれている銘柄も少なくありません。そのため、決算が良いだけでは十分ではなく、市場の高い期待をさらに上回れるかどうかが株価を左右する局面となっています。
つまり先週(8月3日週)は、「AI関連なら何でも上がる」相場ではなく、業績や将来見通しによって銘柄が選別される傾向が一段と鮮明になった1週間でした。
AI投資は「第2段階」へ、クラウドやソフトウエアへ広がる恩恵
その一方で、ソフトウエアやクラウドでは「AIがコスト要因ではなく、売上を伸ばす追い風になる」という見方が広がり始めました。アトラシアン[TEAM]やトゥイリオ[TWLO]など、好材料を発表した企業向けクラウド・ソフトウエア銘柄には大きな買い戻しが入りました。先週(8月3日週)の値動きは、AI相場の主役が「半導体だけ」から、クラウド、ソフトウエア、電力、資本財へと広がり始めていることを示しています。
これは投資家にとって重要な変化です。これからは「AI関連」というラベルだけでは十分ではありません。AIを導入することで売上が増えるのか、利益率が改善するのか、受注が伸びるのか。市場はその具体的な成果を見始めています。AIブームが終わるという話ではなく、むしろAI投資が第2段階に入り、勝ち組の選別が厳しくなってきたと考えるべきでしょう。
スペースX[SPCX]のロックアップ解除、悪材料を跳ね返す市場の底力
先週(8月3日週)、決算発表で特に注目されたのがスペースX[SPCX]です(「スペースX上場後初の決算発表、数字は良かったが株価が下落した理由。スターリンクが生む利益をスターシップとAIの未来へ再投資」参照)。
同社は上場後初めての決算を通過した直後に、今度は8月6日にロックアップ解除という大きな需給イベントを迎えました。ロックアップとは、上場前から株式を保有していた従業員や初期投資家などが、一定期間は株を売れないようにする仕組みです。解除されると市場で売却可能な株式が増えるため、一般的には株価の重しになりやすい材料です。ところが実際は、数百万株が売却可能になる日にスペースX株が上昇しました。
解除を前に警戒されていたにもかかわらず株価が崩れなかったということは、潜在的な売り圧力がある程度事前に織り込まれており、ロックアップ解除を機会にこれまでの空売りの買い戻しが起きたか。あるいは、新たな買い需要がそれを吸収した可能性があります。今後も段階的なロックアップ解除は短期的なボラティリティ要因になりますが、先週(8月3日週)は悪材料織り込み済みという、強い相場でよく見られる動きが確認されました。
マクロ面の追い風、原油安と雇用減速による金利低下
先週(8月3日週)の株高を企業業績だけで説明することはできません。マクロ面では、原油価格と金利の低下が大きな追い風になりました。中東情勢では米国とイランの交渉進展への期待が高まり、ブレント原油は5営業日で約8%下落しました。原油安は企業の物流・エネルギーコストを抑えるだけでなく、インフレ再燃への懸念を和らげるため、株式市場にとって二重のプラスになります。
そして、8月7日(金)朝8時30分(NY時間)に発表された7月雇用統計が、金利低下をさらに後押ししました。非農業部門雇用者数は2.3万人減となり、市場予想の9.5万人増を大きく下回ったほか、5月と6月分も下方修正されています。景気のニュースとしては悪い数字ですが、株式市場はこれを「米連邦準備制度理事会(FRB)が追加利上げを急ぐ必要が薄れた」と受け止めたのです。米国債利回りが低下し、金利に敏感なグロース株、特にテクノロジー株への買いが強まりました。
ただし、「雇用は弱ければ弱いほど株に良い」と考えるのは危険です。今は雇用の減速が金利低下という形でプラスに働いていますが、雇用悪化が消費の落ち込みや企業利益の下方修正につながれば、同じ弱い数字でも市場の反応は逆になります。現在の相場にとって理想なのは、景気が壊れない程度に雇用とインフレが落ち着き、金利だけが下がることです。
もちろん、先週(8月3日週)の上昇にはショートカバーも含まれています。しかし、好決算、金利低下、原油安、ポジション正常化が同時に起きたことで、単なる一時的な買い戻し以上の動きになりました。先週(8月3日週)の最大の特徴は、「相場が上がったこと」よりも、「下げの連鎖が止まり、好材料を評価できる市場に戻ったこと」だと考えています。
今後の展望、焦点はCPIと上昇相場の持続性の条件
今週(8月10日週)の最大の焦点は8月12日に発表される予定の7月の米消費者物価指数(CPI)です。その後には米生産者物価指数(PPI)、小売売上高の発表も控えています。8月7日の雇用統計で金利が低下しただけに、CPIが落ち着いた数字になれば、インフレ鈍化により利上げ懸念後退、そして金利低下という流れがさらに強まる可能性があります。
8月3日公開の本コラム「【米国株】S&P500、2026年の年末8,000ポイントへ上方修正。ただし、上昇は一筋縄ではいかないか」で、S&P500の年末の目標をこれまでの7,700ポイントから8,000ポイントへと引き上げました。インフレ懸念がここからも後退すると8,000ポイントへの到達は確実性が増すだけでなく、年末前に達成する可能性すら起きます。ただ、先週(8月3日週)だけでS&P500は3.58%、ナスダック100は5.12%上昇しています。短期的には利益確定売りが出ても不思議ではありません。
ここから注目したいのは、指数が毎日上がるかどうかではなく、下げた場面で買いが入るか、そして上昇銘柄の裾野がさらに広がるかです。金融、ヘルスケア、資本財が底堅さを維持し、そこにテクノロジー株の上昇が加わるのであれば、今回の上昇相場の持続性は高まります。
企業決算では今週(8月10日週)、シスコシステムズ[CSCO]、アプライド・マテリアルズ[AMAT]などに注目です。特に半導体では、AI需要が強いこと自体はすでに市場の共通認識です。今後は「需要が強い」だけでなく、その強さが売上、受注、利益率、来期見通しにどこまで反映されているかが問われます。ソフトウエアでも同じで、AIを収益化できる企業と、AI投資がコストだけ増やす企業との選別がさらに進むでしょう。

