新年に際し、2024年の投資戦略の考え方について、マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆のインタビュー取材を、株式会社NTTドコモが運営するdmenuマネーと合同で行いました。前編では2024年の経済見通し、中長期視点で日本の経済・企業が変革していくと考える理由を、後編では中長期視点で新NISA成長投資枠を活用する考え方をお届けします。

2024年は日本の経済と企業が変革する気運が一層高まる

――2024年の日本の経済の見通しを教えてください。

2024年の日本は、経済、そして企業が大きく変貌すると考えています。

まず、経済の変貌ですが、デフレからの脱却が完全なものになり、マイルドなインフレが定着し、価格転嫁も行いやすくなるでしょう。価格転嫁が進めば、企業収益も増えやすくなり、消費も活発化します。企業の設備投資も増えることが予想されます。2024年の春闘で賃上げが進めば、いまお伝えしたいい雰囲気がさらに醸成されやすくなる。デフレからインフレへの転換によって、日本経済が本格的に動き出すと考えています。

次に企業の変貌ですが、近年、企業の改革が進んでいます。例えば、日本では、取引先との関係維持などを目的に、株式の持ち合いが広く行われてきましたが、海外の投資家などからは資本効率やコーポレートガバナンス(企業統治)の観点から、厳しい目が向けられています。その中で、2023年11月29日にトヨタ自動車がデンソーの株式を売却するなどグループ間の株式持ち合いの解消を進めることを発表しています。かつての日本では考えられなかったような企業の変貌が感じられる出来事ではないでしょうか。

日本企業の構造改革やコーポレートガバナンス改革など、企業自らの変わろうとする姿勢が、海外の投資家にも浸透していけば、外国人投資家による日本株への投資もさらに増えるでしょう。それは、日本株の上昇につながります。

2024年からは新しいNISA(新NISA)も始まります。非課税投資枠が拡大したことで、日本株にも個人投資家の新たな資金が入ってくるでしょう。

このように、2024年はファンダメンタルズ(企業業績)の伸びやバリエーションの拡大を後押しすることにつながる日本経済変革の機運が一層高まると考えています。

2024年末の日経平均は4万2000円と予想

――日本株相場の見通しはどうでしょうか?

日本株は、緩やかな業績の伸びに加えて、成長への期待によってバリュエーションが拡大すると考えています。

企業のEPS(1株あたり純利益)は2024年3月期の予想が13%増益(日本経済新聞の集計)となっています。半年後の本決算は、控えめに見積もっても15%増益程度の着地になりそうです。2025年3月期の予想EPSは、年前半に2%増益、年後半に7%増益が市場のコンセンサスでしょう。QUICK企業価値研究所による、金融を除く主要245社の業績予想は、今期予想が11%増益、来期予想は8%増益となっています。

前期(2022年3月期)のEPS(実績)は2,070円なので、今年度の増益予想が15%ならばEPSは2,380円になる計算です。来期は7~8%増益だとすればEPSは2,547円~2,570円。ここから2,550円としましょう。

日経平均株価の今期の予想PER(株価収益率)は15倍程度です。2024年は日本の経済と企業が大きく変貌し、成長することを考えれば、株価の上昇も期待できます。ここから25年3月期のPERは16.5倍程度を予想しています。

予想EPSが2,550円で予想PERが16.5倍とすると、2025年3月末の日経平均株価は4万2075円という計算になります。日本の経済と企業の成長でバリュエーションが拡大することを考えると、2024年末に日経平均株価が4万2000円という予想も無理な数字ではないといえるでしょう。

経済と企業の変革によって長期投資がしやすくなる環境へ

――新NISAでは、制度が恒久化され、非課税保有期間も無期限になったことで、非課税保有期間が5年だった従来の制度に比べて、個人投資家が中長期投資をしやすくなると思います。中長期投資をする際のポイントを教えてください。

先ほど話した通り、日本の経済と企業には、前向きな変革が起きています。この動きが逆戻りしないことを、一人ひとりがアンテナを高く張って、常にチェックしておくことが重要だと思います。世の中で起きていること、変化に対して感度を高くするのです。
これは投資に限らず、情報収集全般について言えることですが、特定の人の意見だけを聞くのではなく、世の中の変化や論調について幅広く、できるだけいろいろな意見を集めたうえで、最終的に自分はどう考えるかが重要になるということです。

日本はいい方向に変わっている、だから長期投資もしやすくなっている。これは間違いないと思います。だからと言って、これまでは日本株の長期投資がやりにくかったというわけではないでしょう。1990年のバブル崩壊を知っている世代は、1989年末に日経平均株価が3万8957円をつけたことを記憶しているため、日本株は何十年も右肩下がりが続いていると感じるのかもしれません。

以下図表の通り、2012年12月から2023年11月末までの日経平均株価の上昇率は、米国のS&P500指数の上昇率と比較しても、1%の差にとどまります。この期間には、新型コロナウィルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻などさまざまな出来事がありました。それを全部乗り越えて、S&P500はいまも最高値近辺にあるし、NYダウは最高値更新を続けています。これが資本主義の持つ力です。それを信じて長期投資を検討するべきだと私は考えています。日本も経済と企業が変わり始めたことで、その軌道に乗り始めました。中長期投資がしやすくなっているのは、間違いないでしょう。

【図表】日経平均とS&P500の値動き
出所:Bloomberg

国の政策の変化や、経済と企業の改革の動向にも注意

――では、中長期投資をする際に、気をつけることはなんでしょうか?

国の政策が変わらないかどうかや、経済と企業の変革が逆戻りしていないかをチェックすることが大切だと思います。

先日、ニュースを見ていたら、中国では道路などの標識から英語表記がなくなり、中国語だけになったことが取り上げられていました。同国では、1978年に経済の改革開放路線を開始して以来、外資を導入し、産業構造を変化させてきました。ところが、最近、その政策が変わり、内向きになっているというのです。1997年にイギリスから中国に返還された香港は、自由都市であり、世界の主要金融センターでもありましたが、ここ数年ですっかり変わってしまっています。国の政策が変わると、方向感が大きく変わってしまう。アンテナを高くはり、感度を上げることで、世界や日本の動向を確認することが大切です。

また、2023年3月に、東京証券取引所は、上場企業に対して、企業価値向上や株価への意識改革の必要性を指摘し、経営改善を要請しました。なぜなら「収益性が低くて株価も評価されていない企業」が、日本の株式市場の半分以上を占めている状態だからです。これでは、海外の投資家からはもちろん、日本国内の投資家にとっても魅力的な株式市場とはいえないでしょう。株主還元の重視や、ROE向上という点では、日本企業はまだまだ世界レベルには達していません。この状況を打破するために、東証は改革を進めているのです。

また、岸田政権では、資産運用立国の実現に向けたプランを進めています。新NISAもそのひとつと言えるでしょう。ですが、政権が変わって、政策が変わったら、資産運用立国という方針が変わらないとも限りません。海外の投資家は、政策がコロコロ変わるようでは、日本に長期投資などできないと考える可能性もあります。当然、日本株のパフォーマンスにも影響が出るでしょう。そういった変化も敏感に感じ取ることが必要だと思います。

次回は、新春企画広木隆特別インタビュー後編【日本株】中長期視点で新NISA成長投資枠を活用する考え方~成長株・高配当株~をお届けします。

※本記事は2023年12月7日に実施したインタビューを後日、編集・記事化したものです。

写真:竹井 俊晴