金利差からかい離した投機主導の「円売りバブル」

日米の長期金利、10年債利回り差米ドル優位・円劣位は、最近でも2023年までのピークほどに拡大していない。にもかかわらず、米ドル高・円安は、2022、2023年と2年連続で記録した151円を大きく上回り、一時は160円に達した。2023年までの両者の関係を前提にすると、160円までの円安は金利差で説明できる範囲を大きく超えた動きになっている(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円と日米10年債利回り差(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

では金利差で説明できる範囲を大きく超えた円安をもたらしたのは何か。2024年に入り、それまでとの顕著な変化の1つが投機筋の円売り急増だ。ヘッジファンドなどの取引を反映しているとされるCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋のポジションは、最近にかけて円の売り越しが急拡大した(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円とCFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成 

2007年との類似点

円売り越しの過去最高記録は、2007年6月の18万枚だったが、先週はそれにほぼ肩を並べるほどに拡大した。2007年6月に円売り越しが過去最大規模に拡大した主因は、日米の大幅な金利差円劣位だったと考えられる(図表3参照)。当時、日米の政策金利差円劣位は5%程度にも拡大していた。足下の日米政策金利差円劣位も、2007年以来の5%程度に拡大している。大幅な金利差円劣位は、円売りにとって圧倒的に有利な要因だろう。そうした中で、投機筋の円売りが急増しているという最近の状況は、かつて2007年に見た構図と基本的に同じではないか。

【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジションと日米政策金利差(2005年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成 

過去にも経験した範囲

ではこのように大幅な金利差円劣位を背景とした円売りは、すでに未体験の円安をもたらしているかと言えば、決してそうではない。米ドル/円を過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)との関係で見ると、足元で3割程度上回ってきた。過去にも、1998年や2015年、そして最も近いところでは2022年に、米ドル/円は5年MAを3割以上上回るまで上昇したことがあった(図表4参照)。その意味では、ここまでの円安は過去にも経験した範囲内の動きと言えるだろう。

【図表4】米ドル/円の5年MAかい離率(1980年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

人間の感覚は、過去に経験した範囲の限界を超えそうになると、新たな動きが始まっているのではないかと感じやすくなるようだ。少なくともこれまでのところでは、160円までの円安は未体験の「円クライシス」ではなく、過剰な投機的円売りの影響が大きかったのではないか。