米CPI鈍化でインフレ懸念が後退

日経平均は順調に戻りを辿り、TOPIXは史上最高値を更新中だ。まさに「株は上がるもの」を地で行く展開だが、足元のマクロ環境が株式相場が特に上がりやすい状況になってきたという、大きな構図がある。

昨日発表された7月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.4%の上昇と、6月の3.5%から伸びが縮小した。原油高の影響で、5月には4.2%と2023年4月以来の高水準を付けていたが、落ち着いてきた。ポイントは、エネルギー価格の低下だけでヘッドラインが下がったのではない点だ。コア指数も前年比では鈍化基調にある。サービス価格には依然として粘着性が残るものの、ざっくり言えば米国のインフレのピークは過ぎた。これはFRBの金融政策の行方、ひいてはテックを中心とするグロース株の先行きを占ううえで極めて重要なファクターである。

中国が原油価格を抑制、米金融政策は現状維持へ

もっとも、市場には慎重な見方も根強い。米国とイランの確執が解消されていない以上、原油価格が再び急騰し、インフレが再燃するリスクを警戒する声だ。しかし、僕はその可能性は極めて低いと考える。鍵を握るのは中国である。

英エコノミスト誌(8月9日号)が「中国はいかにして世界の石油大国となったか」と題する興味深い分析を載せている。イラン戦争でホルムズ海峡が封鎖され、史上最大級の供給ショックが起きたにもかかわらず、原油価格は多くのアナリストが予想した1バレル150ドルに達しなかった。その最大の理由は北京の決断だったという。中国は2月から6月にかけて原油輸入を日量550万バレル、実に半分まで削減し、これだけでブレント価格を30ドル以上押し下げたと推計される。コロナ禍で世界の需要が日量900万バレル減った時の半分以上に相当する削減を、経済を失速させることなくやってのけたのである。

それを可能にしたのは、10億バレルに達する潤沢な備蓄の取り崩し、製油所への輸出停止命令、そして燃料価格の引き上げ容認による国内需要の抑制という三つのレバーだ。EVや鉄道網といった代替インフラや再生可能エネルギーへの長年の投資が、石油需要の「オン・オフ」を低コストで切り替えることを可能にした。世界最大の石油輸入国が、需要側から価格を制御する力を手にしたのである。同誌はこれを「中国は新たなOPECだ」と評している。UAEの離脱で結束が緩んだOPECが減産で価格を吊り上げようとしても、中国が輸入を絞れば相殺されてしまう。供給側の有事に対しても、需要側の調整で数カ月にわたり市場を単独で安定させられることを、中国は今回実証した。

つまり、米・イラン関係が再び緊迫しても、原油価格の基調的な高騰が起きる可能性は極めて低い。原油発のインフレ再燃リスクは、市場が織り込んでいるよりも小さいのではないか。インフレのピークアウトが確認され、原油のテールリスクにも「上限」が付いた。

米国の雇用が景気と株式市場のカギを握る

ただし、だからといってFRBが一気に利下げモードに転じると考えるのは早計である。ウォーシュ議長は、あれだけインフレ・ファイターのポーズをとって議長デビューを飾ったのだ。就任早々にそれを翻すような真似はすまい。インフレが収まる以上、利上げはない。しかし、利下げを急ぐ必要もない。当面の金融政策は「動かない」ことが基本線となろう。

そうなると、鍵を握るのは雇用である。先月の非農業部門雇用者数(NFP)は想定外のマイナスとなったが、それが基調として続くのかは、まだ判然としない。雇用が崩れれば、さすがのウォーシュも利下げに追い込まれる。逆に雇用が持ち直せば、景気の底堅さが確認され、企業業績への安心感が広がる。で、雇用はどうなるか。これもいろいろなファクターを考慮すると、現状維持で横ばい推移が基本線だろう。

ぱっと思いつくのはAIによる人員削減だが、これはまだ新卒の採用抑制レベルにとどまっている。背景には移民抑制などによる構造的な人手不足があるからだ。そしてAIが人の仕事を奪うとは言え、AIに代替されない仕事 - 物資の輸送や建設現場などは、データセンター建設でかえって人手が要るようになっている。結局、AIで減る仕事と増える仕事が相殺されるような格好だ。

こうして整理すれば、見えてくる絵は明らかだ。原油には中国という「天井」が付き、インフレは鈍化。雇用はプラス要因とマイナス要因が相殺され大きく変わらず、景気は熱すぎも冷たすぎもしない。したがって金融政策は当面現状維持 - すなわちゴルディロックスである。そして経験則が教えるところでは、株式相場がいちばん上がりやすいのは、まさにこのような環境なのである。