クラウドビッグ3が他を寄せつけない投資競争を加速

独のデータプラットフォームStatistaによると、2024年第1四半期の世界のクラウドインフラ市場のシェアはトップがアマゾン・ドットコム[AMZN]の31%で、前年の32%から低下した。次いでマイクロソフト[MSFT]がアマゾン・ドットコムを追い上げており、Azureの市場シェアは過去最高の25%まで拡大した。アルファベット[GOOGL]傘下のGoogle Cloud11%と合わせると、この3社でクラウド市場の3分の2を占めている。

2024年1-3月(第1四半期)の世界のクラウド・インフラ・サービスへの支出額は約760億ドルと、前年同期に比べて135億ドル、率にして21%増加した。通年で見ると、クラウド市場の売上高は3000億ドル規模に達することが予想されている。クラウド市場の成長は依然として力強く、前年比の成長率は2四半期連続で再加速しているという。

【図表1】クラウドサービスを手がける企業の世界シェア(2024年第1四半期時点)
出所:Statistaのデータより筆者作成

4月26日付けの日本経済新聞の記事「MicrosoftとGoogle、異次元のAI投資 覇権争いはや佳境」は、AI(人工知能)という新たなテクノロジーの覇権を巡る争いにおいて巨額の投資競争が始まり、早くも佳境に入りつつある。クラウド3強が他を寄せつけない投資競争に入った。巨額の先行投資で顧客を囲い込みながら、収益化で先行を狙うと指摘している。

例えば、マイクロソフトは日本に2年間で29億ドルを投資すると発表した。マイクロソフトが日本で事業を始めた1978年以来で最大規模になるという。マイクロソフトは首都圏と関西圏にデータセンターを持っているが、今回の投資により最新のGPU(画像処理装置)を導入し、データ処理機能を拡充する計画だ。

アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は2027年までの5年間で日本に約2.3兆円を投資すると発表した。クラウドの基幹設備であるデータセンターの増設や運営体制強化に充てるという。また、グーグルは日本と米国を結ぶ海底ケーブル敷設に10億ドルを投資する。新たに2つの海底ケーブルを敷設する他、既存の海底ケーブルを拡張する。

調査会社のIDCが3月29日に発表したレポート「Spending on Shared Cloud Infrastructure Continues to Lead the Way in Enterprise Infrastructure Investments, According to IDC Tracker(IDCトラッカーによると、共有クラウドインフラへの支出が企業インフラ投資をリードし続けている)」によると、2023年第4四半期に支出が増加した地域は、アジア太平洋地域(日本と中国を除く)が前年同期比48.2%、米国は40.6%、日本は10.5%だった。また、この成長の大半は大規模なハイパフォーマンス・コンピューティングとAIベースのプロジェクトに関連しているとのことである。

生成AI関連の力強い需要を取り込んだクラウドビッグ3

クラウドビッグ3が4月末に発表した2024年1-3月期の決算は、いずれも生成AI(人工知能)関連の需要を取り込んだクラウドコンピューティング事業が好調だった。各社の決算をそれぞれ振り返っておこう。

アマゾン・ドットコム[AMZN]

アマゾン・ドットコムの2024年1-3月期の決算は、売上高が前年同期比13%増の1433億1300万ドル、純利益は3.2倍の104億3100万ドルに拡大した。生成AI(人工知能)に関連した需要が根強く、クラウドコンピューティング事業(AWS)の増収率が回復した。AWSはアマゾンの営業利益の6割を稼いでいる。クラウド事業の売上高は17%増の250億3700万ドルとなり、年換算では1000億ドルに達する見通しだ。

【図表2】アマゾン・ドットコムの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成

マイクロソフト[MSFT]

次にマイクロソフトの2024年1-3月期の売上高は前年同期比17%増の618億5800万ドル、純利益は20%増の219億3900万ドルだった。生成AI(人工知能)関連の需要を取り込んだクラウドコンピューティング事業が好調で5四半期連続の増収増益となった。

【図表3】マイクロソフトの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成

アルファベット[GOOGL]

米グーグルの持ち株会社アルファベット。売上高は805億4000万ドル(前年同期比15.4%増)と市場予想を上回った。純利益は236億6200万ドル(前年同期比57%増)と、四半期ベースで過去最高を更新した。

アルファベットの事業の中核である広告売上高が前年同期に比べて13%増加したのに加え、インターネット経由でIT(情報技術)インフラを提供するグーグル・クラウドの売上高が約3割増加した。決算説明会でスンダー・ピチャイCEO(最高経営責任者)は、「検索、YouTube、クラウドの好調な業績に牽引され、素晴らしい四半期になった」と述べた。

【図表4】アルファベットの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成

アルファベットのピチャイCEOは「グーグルは年間売上高が1000億ドルに達するまで15年以上かかったが、この6年で年間の売上高は1000億ドルから3000億ドルを超えた」と述べ、検索、YouTube、クラウドを合わせた現在の事業ポートフォリオについて、「成功する新しい成長事業への投資と構築の実績を示すものだ」とグーグルの成長の歴史を振り返った。

アルファベット[GOOGL]は初の配当を実施、成長企業から成熟企業への転換か?

今回のアルファベットの決算発表で注目すべき点は2点。1つは設立以来初となる1株当たり0.20ドルの配当を実施すると発表したことである。同時に発表した自社株買い(最大700億ドル)と合わせ、今後は定期的に四半期配当を続けていく方針を示した。

米テック企業の多くは、稼いだ利益を研究開発やM&A(合併・買収)などの投資に優先して配分して
きた。日本経済新聞の4月27日付けの記事「アルファベット、2兆ドル企業確実 初配当、株主重視にカジ」は、巨大化した米テクノロジー企業は急成長のみを追い求める路線から、投資と株主への利益配分を両にらみで進める戦略に転換しつつあると指摘している。

2024年2月にはメタ・プラットフォームズ[META]が初となる配当を実施すると公表した。フェイスブックのサービス開始から20年の節目を迎える年だ。一方、グーグルがカリフォルニアで設立されたのは1998年、2023年に25周年を迎えた。前述の日本経済新聞の記事は、巨大テックの経営が巨額の利益をどう配分するかを慎重に見定める新たなステージに入ったことを示唆すると論じている。

2つ目は、この第1四半期(1-3月)の設備投資額が120億ドルと前年同期比で9割増とほぼ倍に膨らんだことである。データセンター向けサーバーなどが中心となるが、企業側は、この急増についてAIがもたらす機会への自信のあらわれとしている。AIへの巨額投資が本格化していることを表す事象だ。

【図表5】アルファベットの設備投資額と研究開発投資額(2024年1-3月期)
出所:日本経済新聞のデータより筆者作成

決算説明会においてアルファベットのピチャイCEOはクラウドやAIについて次のように述べている。

われわれが運営するデータセンターは、世界で最も高性能で、安全で、信頼性が高く、効率的です。最先端のAIモデルをトレーニングするために構築され、前例のない効率向上を達成するように設計されています。私たちは、1年半前と比べて100倍以上効率的な新しいAIモデルとアルゴリズムを開発しました。

私たちは、技術インフラの最先端を維持するために必要な投資を行うことを約束します。それは、資本支出の増加からもお分かりいただけるでしょう。これはクラウドの成長を促進し、AIモデルの最前線を押し進めるのに役立ち、当社のサービス全体、特に検索におけるイノベーションを可能にします。

パブリッククラウドに絡む投資はデジタル化の推進に大きく寄与する社会の重要インフラであり、クラウド事業の成長は他のIT事業の成長を大きく上回っている。AIゴールドラッシュの流れはまだまだ続きそうだ。

石原順の注目5銘柄

アマゾン・ドットコム[AMZN]
出所:トレードステーション
アルファベット[GOOGL]
出所:トレードステーション
マイクロソフト[MSFT]
出所:トレードステーション
メタ・プラットフォームズ[META]
出所:トレードステーション
エヌビディア[NVDA]
出所:トレードステーション