政府の今年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に、いわゆる「資産所得倍増プラン」が盛り込まれた 。その詳細は年末までに策定される予定だが、どんな中身になるのだろうか。我々はどんな投資戦略をとるべきなのか。

家計の資産残高と所得の現状

家計の金融資産は、昨年初めて2000兆円を上回り、今年3月には2023兆円に達した。そのうち、有価証券は332兆円となっており、 預金はその3.3倍の1092兆円に上る。投資利回りが変わらないと仮定すると、資産所得を2倍にするには、332兆円、つまり預金の3割を有価証券にシフトする必要がある。

これまで個人は有価証券への投資をどの程度増やしてきたのか。実は、リーマンショック以降の実績は芳しくなく、活況を呈した昨年でも金融商品(債券+株式+投資信託+対外証券で計算)への純投資額は5.8兆円程度だった(図表1) 。もちろん、その間、株価等の資産価格は総じて上昇しているので、時価ベースの個人資産はもっと増えているが、預金から投資資産への資金シフトは簡単ではなかったことがわかる。リーマンショック前の年間の資金フロー10兆円超が再現されるとしても、330兆円を動かすには30年間続かなければならない。自然体ではかなりハードルが高い目標である。

 

今後期待される政策は?

自然体では達成が厳しいとなると、相当思い切った資金流入策が必要になるだろう。では、今後どのような政策が打たれる可能性があるだろうか。骨太の方針では以下の大きな方向性が謳われている。

● NISA・iDeCoの拡充
● 預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組みの創設
● 金融リテラシーの向上
● 年金額等の見える化
● 情報提供の拡充
● 金融商品取引業者等による適切な助言や勧誘・説明を促す制度整備

このうち、市場で話題になっているのは、NISA、iDeCoの拡充である。2020年にNISAの制度変更で投資可能期間は2028年まで延長されることになった。しかしまだ、期間限定であることに変わりはない。これに対して、5月16日に自民党の金融調査会は岸田総理にNISAの恒久化を提言している。NISA恒久化は相応に実現する可能性があるだろう。

iDecoについても、今年5月に加入可能年齢が65歳未満までに引き上げられた(従来は60歳)。しかし、就労年齢の延長とともに、更に70歳まで引き上げられる可能性が考えられる 。

一方、上記で2番目に挙げられている「新しい仕組み」の中身は不明である。これについて、例えば日本総研は、脱炭素やデジタルなど政策課題に合致した投資については、所得税から税額控除することなどを提案している。  NIRA総合研究開発機構は、有価証券を相続した場合の相続税減免を期待するとしている 。どちらもかなり大胆な案であり、もちろんマイナスもあるので、実現性は全く不明だ。しかし、いずれにしても相当思い切った施策が出て来る可能性は十分ある。

具体的な投資戦略は?

仮に思い切った施策が発表されれば、個人からの資金流入が大きく増える可能性が高く、資産価格は押し上げられる可能性がある。資産価格の上昇を見て、更に投資が促進されるという好循環が生まれる可能性もある。では、これに備えて、どの程度、金融資産に振り向けるべきだろうか。

過去20年間の市場リターンと価格変動率(投信は過去9年)から、以下のようなシナリオを考える(図表2)。ケース①では、株式を20%、バランス型投信を10%とする。ケース②では、それぞれ30%、20%、ケース③では、50%、30%とする。

まず現状のままのポートフォリオを維持した場合、預金も含めた金融資産全体に対する年率リターンは平均1.7%となる。リターンは低めだが、その代わり、資産全体の価値が1年で10%以上下落してしまう確率も0.2%程度と極めて低い。預金が金融資産全体の77%と極めて高いためだ(保険・その他は、換金性が低いため計算から除いている。因みに、これらすべての資産を加味した個人総資産に占める預金の割合は54%)。

では、投資を増やした場合のリスク・リターンはどうか。ケース①の平均リターンは2.3%、ケース②は3.8%、ケース③は6.2%となる。

株式や投信を増やせば増やすほど、予想される年率リターンは上昇する一方、マイナスになる可能性も高くなるので、リターンの分布(図表3の横軸)は、ケース①<ケース②<ケース③と次第に広くなる(図表3)。それでも、仮に、ケース②を選んだ場合、年率3.8%のリターンで、資産が1割を超えて下落する確率は6.2%と相応に低い。銀行預金の利回りに比べればはるかに高いし、インフレ率が上昇しても、(その場合各種利率は上昇するのが通常だが、それが変わらないとしても)、資産が目減りしないで済む。

 

ケース②や③では、個人のリターン、即ち資産所得は、政府の目標通り2倍以上になる。つまり、冒頭にも述べた通り、預金の割合を3割以上引き下げ、これを株式や投信といった投資商品に振り向ければ、「資産所得倍増」を達成することができる。もっとも、これに伴い、資産の価値が下落するリスクも上昇するため、これらのどのパターンを選ぶかは、預金の絶対額や、どの程度支出の予定があるのかによって決めるべきだろう。

足元では、米国のリセッション懸念も払しょくできず、株式市場は不安定である。しかし、逆に言えば、昨年よりは値ごろ感が出ている。これまでも市場はサイクルを繰り返して成長してきた。「国策に売りなし」の相場格言通り、政府方針に期待しつつ、改めて現預金から投資への振り分けを考えてもよいだろう。