9月の振り返り=一時協調介入でも割れなかった「鉄壁の155円」割れに
152円まで円高に=主導役はヘッジファンドの円買いか
米ドル/円は、7月末の日米協調円買い介入でも155円割れには至りませんでしたが、9月に入るとその155円を割れて一時152円台まで一段安となりました。その後はふたたび159円まで米ドル高・円安に戻りました。それにしても為替介入が行われた形跡のない中で、一時大きく米ドル安・円高に向かったのはなぜだったのでしょうか(図表1参照)。
9月の米ドル安・円高のピークである152.8円を記録したのは8日でした。ちょうどこのタイミングで、ヘッジファンド(以下ヘッジF)の取引を反映するCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションはそれまでの売り越し(米ドル買い越し)から買い越しに転換し、さらに買い越し幅を大きく拡大させていました(図表2参照)。以上からすると、一時152円台までの米ドル/円急落を演出したのは、ヘッジFなど投機筋の円買い積極化が大きな役割を果たした可能性が高かったのではないでしょうか。
ヘッジF、120日MA割れで円買いの拡大に転じたか
それにしてもなぜヘッジFは円買い急拡大に動いたのでしょうか。ヘッジFの円売りと円買いの分岐点の目安は120日MA(移動平均線)という見方があります。7月末の日米協調介入などを受けた米ドル/円の急落局面では、一時的にこの120日MAを割り込みましたが、間もなく120日MAまで戻す展開となりました(図表3参照)。こうした中で、ヘッジFは円売りを続けたのではないでしょうか。
一方で、9月に入ると米ドル/円は120日MAを大きく割れる展開となりました。こうした中で、ヘッジFは円売りから円買いに転換、さらにそれを積極化したことが、あの日米協調介入でも割れなかった155円を割り込む米ドル安・円高を主導した大きな要因だったのではないでしょうか。
日米の金融政策発表を受けて金利差が拡大=159円まで円安に
ただその後、9月16日、18日の日米それぞれの利上げ発表を受けて、米ドル/円は上昇に転換すると、一時159円まで米ドル高・円安に戻りました。日銀の利上げでも円安が広がったわけですが、日米金利差(米ドル優位・円劣位)は、日米の金融政策発表を受けて急拡大しました(図表4参照)。こうした中では、ヘッジFもさらなる円買いの手掛かりを失い、むしろ円買いの修正を余儀なくされたということだったでしょう。
ただ、その米ドル高・円安への戻りも、159円で一段落しました。このきっかけは、9月22日の日米首脳会談が大きかったようです。片山財務大臣はその後、この会談でトランプ米大統領から円安への懸念が表明されたことを明らかにしました。また、9月25日、城内経済財政政策担当大臣は、「アベノミクス的な意味でのリフレーション政策局面は終わっている」、「(高市政権の経済財政政策は)リフレ政策ではない」などと述べましたが、これらが円売りを一服させる材料になったと考えられます。
日米首脳会談が円安一巡のきっかけに=「高市リフレ=円安」からの転換が始まる?
上述の城内大臣の発言は、最近のベッセント米財務長官の発言と似ているでしょう。ベッセント長官は、「アベノミクスは成功した。高市政権は新たなサナエノミクスを始めるべき」などと語っていました。この本意は、高市政権に対してアベノミクスのリフレ政策からの転換を要請する意味と受け止められてきました。
一時163円まで進んだ米ドル高・円安は、基本的に日本の長期金利上昇と連動し、このため日本の財政規律への懸念を受けた債券売り・円売りの結果との見方が広がっていました(図表5参照)。この財政規律への懸念の目安が、足下ではアベノミクスの継承を自認してきた高市政権のリフレ政策だったでしょう。
これまでの展開は、米国からの外圧を受けて、高市政権がついにリフレ政策の否定を余儀なくされたということだと思います。そうであればこの先は、「高市リフレ=円安」が本当に転換するか試される局面に移る可能性が高いということではないでしょうか。
10月の注目点=「高市リフレ」への懸念を受けた円安は転換するか
米国の関与が一段と大きくなった円安阻止
9月は一時152円まで円高になりましたが、その後159円まで円安に戻すなど荒っぽい値動きが展開しました。この中では、改めてベッセント米財務長官の関与の大きさが印象に残ったと思います。
これまで見てきたように、152円までの円一段高では、ヘッジFの円買い積極化の影響が大きかったと思います。ただ日米金利差はなお米ドル優位・円劣位である中で、なぜヘッジFは金利差では不利な円買い積極化に動いたのでしょうか(図表6参照)。それは、普通に考えたら円高への確信があったためではないでしょうか。
8月末以降、ベッセント長官から「日本へ円高になる政策を期待」などの発言が相次ぎました。ヘッジF業界出身のベッセント長官のこうした発言がヘッジFの円買い拡大の手掛かりになった可能性はあるでしょう。
その後米ドル高・円安に戻したものの、それに一区切りを付けるきっかけになったのはすでに見てきたように日米首脳会談でした。この後の、城内経済財政政策担当大臣の「高市政権の政策はリフレではない」などの発言は、それまでベッセント長官が繰り返してきたことと重なる感じのあるものでした。
10月の米ドル/円は152~160円で予想
以上のように見ると、ベッセント長官を中心に、円安阻止へ米国も官民を挙げてかなり強く関与し始めているようです。その背後には、円安が日本経済への悪影響にとどまらず、世界的な主要通貨の1つである円の信認維持という観点で米国など世界経済への悪影響となりかねないという問題意識が高まってきたのではないでしょうか。
円の信認維持ができるかというテーマが、10月も続きそうです。円の信認が維持されると考えた上で、10月の米ドル/円は152~160円のレンジで予想したいと思います。
10月第1週の米ドル/円は155~160円で予想
今週(9月28日週)は木曜日から10月に入り、9月分の米経済指標の発表が始まります。10月2日には9月の米雇用統計発表が予定されていますが、10月の次回FOMC(米連邦公開市場委員会)で連続利上げが行われるかの手掛かりになりそうです。
米利上げ観測などを材料に米ドル買いも入りそうですが、これまで見てきたようにヘッジFの円買い戦略を維持するべく、損益分岐点と見られる159円を大きく超える円安は米ドル売り介入再開なども含めて阻止に動く可能性が高いのではないでしょうか。以上を踏まえ、今週(9月28日週)の米ドル/円は155~160円で予想します。

