2035年に市場規模5兆円へ、「戦略17分野」に位置づけられた造船業の国策ロードマップ
政府が造船業の復活に向けて注力し始めている。高市政権は戦略17分野の1つに造船を位置づけ、7月に決定した日本成長戦略の官民ロードマップでは、2035年に建造量を1800万総トン(2024年比倍増、市場規模約5兆円)とする目標を掲げている。
日本の造船業の世界シェアは1970年代には約5割を占めたが、価格競争力で勝る中国や韓国の台頭で徐々に低下し、現在は1割弱にまで低下しているという。なお、1940年代は米国が首位だった。
日本が民間企業単独で競争していくことが困難となる中で、政府が後押しする格好だ。政府資料によれば日本は貿易量の99.6%を海上輸送に依存しているため、業界の再興が不可欠となっている。一方、世界の海上荷動き量は年率平均で3.5%増加と拡大傾向にある。
支援の対象として「次世代船舶」、「船舶修繕」、「LNG(液化天然ガス)運搬船」を示した。次世代船舶では2034年度までに官民合わせて1兆円を投資する。環境対応などの次世代船舶は中長期的に海上輸送量の増加に伴って建造需要が増加する見通しだ。温室効果ガスを出さないゼロエミッション船は、従来の船と設計などが異なるため、日本が造船市場の勢力図を塗り替えるゲームチェンジャーになる可能性が高い。
経済安保と「国立ドック」構想:今治・JMU・名村グループ等への助成で動く官民6000億円
資源を海外に頼る日本だが、LNGは輸入しつつもLNG船の建造は行われていない。経済安全保障上も、LNG輸送船の建造技術を保持することが重要になる。こうした中で、政府は2025年12月に、経済安全保障推進法に基づく特定重要物資である「船舶の部品」の対象に、新たに「船体」を追加した。これにより、国が造船所の建設・整備を主導する「国立ドック」構想も動き出している。これは防衛生産基盤強化法や経済安全保障推進法の規定に基づいて国が造船施設を建設・取得し、民間に運営を委託するもの。国が建設費用を拠出することで企業の設備投資や償却負担が抑えられ、採算性や国際競争力が高まる。具体的な動きも出ている。
国土交通省は9月4日に、国内の船舶建造量を現行から倍増させるため、国内造船最大手の今治造船(愛媛県)、同社子会社のジャパンマリンユナイテッド(JMU、神奈川県)、名村造船所(7014)による設備投資計画を認定したと発表している。これが造船再生に向けた国による支援の第1号案件となる。今後約10年間で、官民合計で総額6000億円規模の投資を実行する。
このうち、報道によると国交省の造船業再建基金を通じ、2026年度以降9年間で3件(今治グループ、JMUグループ、名村グループ)に最大2131億円を助成する。各グループは主力造船所での大規模な設備投資を実施。政府は省力化対応の溶接ロボット、クレーンの導入などの支援を行うという。3グループの建造能力は現行から5割増しになる見込みとされる。
ゼロエミ・水素・塗料…、注目の造船関連6銘柄
名村造船(7014)
造船の準大手。2008年に函館どつく、2014年に上場企業だった佐世保重工業をそれぞれ子会社化している。大型タンカーからバラ積み船、小型タンカーまで幅広く手掛けている。艦船などの修繕船にも展開。
ジャパンエンジンコーポレーション(6016)
船舶用ディーゼル機関の専業。同社や川崎重工業などが9月8日に、世界で初めて大型商船向け水素エンジンを開発したと発表した。温室効果ガスの排出量を従来比で95%以上削減したとしている。また、工場での運転では水素混焼率(燃料に占める水素の割合)95%以上も達成した。同社ではアンモニア燃料エンジンの開発も行っている。2025年にアンモニア燃料エンジンの初号機が完成。アンモニア混焼95%で、温室効果ガス排出量の90%以上の削減を実現した。
岩谷産業(8088)
産業・家庭用ガスの専門商社。水素事業を将来の柱として育成中。燃料電池車用の水素ステーションは全国50ヶ所以上に設置。
水素燃料電池船「まほろば」を手掛ける。燃料電池船とは「燃料電池」で発電した電気と「プラグイン電力」のハイブリッドで航行する船のこと。燃料電池システムでは、水素と空気中の酸素のみを使い、運航時のCO2はゼロ。エンジン駆動の大きな振動や燃料のにおいもなく、快適な乗り心地を実現している。「まほろば」は2025年の大阪・関西万博で「動くパビリオン」として実際に運航。水素ステーションも設置した。
川崎重工業(7012)
総合重機大手。自衛隊の潜水艦、航空機なども担う。船舶の建造、船舶用機器の製造で実績が豊富。環境対応ではLNG船やLPG船のほか、液化水素運搬船を手掛けている。26年1月には同社が世界最大の4万立方メートルの液化水素運搬船の造船契約を結んだと発表している。
三井E&S(7003)
旧三井造船。船舶用ディーゼルエンジン製造で国内首位。港湾クレーンでも世界有数。造船そのものからは22年に撤退し、船舶エンジン事業やクレーン事業に経営資源を傾注している。
中国塗料(4617)
塗料の大手。船舶用は国内シェア6割。世界でも第2位の規模を誇る。世界20ヶ国で事業を展開している。日中韓の3ヶ国では新造船向けとみられる。英文表記は「Chugoku Marine Paints」。

