潮目が変わった米ドル/円相場
2026年の米ドル/円相場は160円を超える円安・米ドル高が進行し、日米の通貨当局が協調介入を実施するほどに市場の警戒を招く事態となりましたが、足元では流れが一変。米ドル/円相場は一時152円台にまで円高・米ドル安が進行しています。
実はトランプ米大統領が就任した2025年を100として主要8通貨のインデックスを比較すると、9月4日時点で最も弱いのは米ドルです。米国への信認低下で米ドルも売られているのですが、それよりもさらに弱いのが円、というわけで米ドル/円相場は上昇を続けてきました。この背景にあるのが「円キャリー取引」です。低金利の円を借りて高金利通貨で運用する取引は、投機筋にとって恰好の収益源でしたが、これが巻き戻されています。
円高のトリガー:日銀、ベッセント発言、GPIF
背景の一つには、日銀の利上げ期待が高まっていることがあります。高田創審議委員は9月2日の札幌での講演で、機動的に利上げを進めるべきだと述べ、連続利上げの可能性にも言及しました。9月の日銀会合での利上げ織り込みは100%近くまで上昇しました。さらに、年内の12月にももう一回の利上げを織り込むまでに期待は上昇しています。
また9月に入り、ベッセント米財務長官が「日本はもうアベノミクスの終焉に達した」「円高につながる措置をとると信じている」などと発言したことが伝わりました。利上げと財政健全化の双方に注文をつけた格好ですが、米国からの圧力も米ドル/円市場の潮目を変える一助となった印象です。
さらにGPIFの資産配分変更への思惑も円買い材料として指摘されています。GPIFは夏休みシーズンの8月には会合をもたないのが通例ですが、8月21日に会合をもった、との報道がありました。日本国債への投資比率が引き上げられるとの思惑が広がり、足元の円高をもたらしている可能性も否めません。
円キャリーからスイスフランキャリーへ?
スイスの政策金利は0%、さらにマイナス金利導入の可能性も
現在、日本の政策金利は1.00%、スイスは0%です。調達通貨としてはいまやスイスフランのほうが円より安く借りられるのです。スイスのインフレ率は主要国の中でも圧倒的に低く6月CPIは0.5%でしたが、7月に0.4%へと低下しており、SNB(スイス国立銀行)のチュディン理事は8月21日、必要になれば金利をゼロより下に引き下げると明言しています。マイナス金利導入もあり得る、というわけです。
円キャリーからスイスフランキャリーへ。7月末の協調介入で円ショートへの介入リスクが意識されて以降、調達通貨を円からスイスフランへ移す動きが指摘されるようになりました。CFTCの通貨先物市場の建玉でも、スイスフランのネットショートは9月1日時点で2.29万枚と、前週(8月24日週)の1.99万枚から拡大しています。
通貨インデックスにも表れるスイスフランの弱さ
通貨インデックスにもそれは表れています。トランプ米大統領就任後、スイスフランは最強通貨でした。リスク回避時にはスイスフランが買われる、いわゆる避難通貨だったのです。ところが、2026年の年初来でみると、スイスフランは-3.2%と8通貨で最も弱い通貨です。同じ期間の円は-0.6%ですから、2026年に限ればスイスフランは円よりも弱い。首位を明け渡したのは、この7月から8月にかけてのことです。
現状でも、市場には円売りのポジションが相応に残っているとみられます。JPモルガンは、市場に円売りポジションが16兆~17兆円残っていると推計しています。これが完全に巻き戻された場合、米ドル/円は理論上142~146円まで下落する可能性があるという試算で、155円を突破すると巻き戻しが加速するとレポートしています。長らく続いた円キャリー取引がまだ続くとみて、下がったところを買い向かう個人投資家も多いようですが、潮目が変わってキャリー通貨がスイスフランにシフトしている可能性もあります。
米・日・スイスの金融政策に注目
9月15~16日にFOMC(米連邦公開市場委員会)、9月17~18日に日銀の金融政策決定会合、9月24日にSNBの金融政策評価が控えています。日本とスイス、双方の中央銀行がキャリー取引の前提を動かし得るイベントのため、注目しています。

