大株主の保有が多いのは株価にプラス?それともマイナス?
企業の株主構成は、その後の株価にも影響を与える可能性があります。
例えば、企業にとって大株主は重要な存在です。保有株式が多いほど、配当や株価上昇による恩恵も大きいため、経営を監視し、企業価値を高めようとする動機も強くなります。こうした大株主による監視は、一般の株主にもプラスに働くことがあります。
一方、大株主の影響力が強いことは必ずしも良いことばかりとは限りません。例えば、大株主が経営陣を長期的に支える安定株主となっている場合、業績が振るわなくても経営改革を求める外部株主の声が届きにくくなる可能性があります。また、株主還元の拡充や収益性の低い事業の見直しなど、株価や資本効率を意識した経営を求める圧力が弱まることも考えられます。
こうした問題は経営学では、「エントレンチメント効果」と呼ばれることがあります。エントレンチメントとは「地位を固める」という意味で、経営者や大株主の影響力が強まり、その地位が固定化されることを指します。つまり、大株主の存在には、経営を監視するというプラスの面がある一方、影響力が強くなりすぎることによるマイナスの面もあります。では実際の株式市場では、大株主による株式の保有割合と、その後の株価にはどのような関係があるのでしょうか。
そこで今回は、筆頭株主と大株主の保有割合に注目し、その後1年間の株価パフォーマンスとの関係を調べました。
筆頭株主と大株主の保有比率で4つに分類
「誰に株が集中しているか?」で企業を4つに分類
実際の分析方法を紹介しましょう。今回は、企業の株主構成を見るために、筆頭株主と、原則10位までの大株主の保有比率に注目しました。
これらに注目したのは、株式が一部の大株主に集中しているのか、それとも多くの株主に分散しているのかを見るためです。特に筆頭株主の保有比率を見ることで、特定の一人の株主に株式がどの程度集中しているかを捉えることができます。一方、大株主全体の保有比率を見ることで、上位の株主に株式がどの程度集中しているかを捉えることができます。
ただし、大株主の保有比率には筆頭株主の保有分も含まれています。そこで、筆頭株主の影響と、それ以外の大株主の影響を分けて見るため、「筆頭株主の保有割合」と「筆頭株主を除く大株主の保有割合」の2つに分けて分析しました。
分析対象は、各年6月末時点のTOPIX構成銘柄のうち、3月期決算企業としました。株主の保有状況は有価証券報告書で広く開示されていますが、3月期決算企業では有価証券報告書が原則として6月末までに出そろうため、各年6月末を株主構成を確認する時点としました。そこで、各年6月末時点で確認できる「筆頭株主の保有割合」と「筆頭株主を除く大株主の保有割合」を使って分析します。
なお、ここでいう大株主とは、QUICK Workstation Astra Managerで定義されている原則10位までの大株主です。
分類した4グループの「その後の株価」を徹底比較
そして、「筆頭株主の保有割合」と「筆頭株主を除く大株主の保有割合」について、それぞれ各年の中央値を基準に「高い」「低い」に分けました。この組み合わせによって、対象銘柄を「ともに低い」「筆頭株主は低く、その他の大株主は高い」「筆頭株主は高く、その他の大株主は低い」「ともに高い」という4つのグループに分類しました。
それぞれのグループについて、6月末から翌年6月末までの1年間の配当込みリターンを調べました。各年について4つのグループの平均リターンを基準として、それぞれのグループが平均をどの程度上回ったか、あるいは下回ったかを「超過リターン」として計算しています。
今回は、2016年6月末から2025年6月末までの10年間について同じ方法で銘柄を分類し、それぞれ翌年6月末までの株価パフォーマンスを調べ、その超過リターンを10年間で平均しました。
分析結果は図表に示しています。
注2:「大株主の保有割合」は、QUICK Workstation Astra Managerで定義されている大株主(原則10位まで)の保有比率。「筆頭株主を除く大株主の保有割合」は、大株主の保有割合から筆頭株主の保有割合を差し引いて算出
注3: 各年6月末時点で、「筆頭株主の保有割合」と「筆頭株主を除く大株主の保有割合」をそれぞれ中央値で高・低に分け、4つのポートフォリオに分類
注4: 各ポートフォリオについて、6月末から翌年6月末までの配当込みリターンの単純平均を算出。各年の4ポートフォリオの平均リターンを基準に各ポートフォリオの超過リターンを求め、その値を過去10年間で平均
注5: 集計期間は2016年6月末~2025年6月末に銘柄を分類し、それぞれ翌年6月末までの1年間のパフォーマンスを集計
出所: QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
「株式の集中度が低い」企業の株価が好成績
結果から次のことがわかります。
最も株価パフォーマンスが高かったのは、「筆頭株主:低」「筆頭株主を除く大株主:低」のグループで、超過リターンは+1.8%でした。反対に、最も低かったのは、「筆頭株主:高」「筆頭株主を除く大株主:高」のグループで、-1.8%となりました。
一方、どちらか一方だけが「高」のグループでは、超過リターンは+0.2%と-0.1%で、いずれもほぼ0%でした。
つまり、今回の分析では、筆頭株主とそれ以外の大株主の保有比率が、両方とも低い場合と両方とも高い場合に、株価パフォーマンスの違いがはっきりと表れる結果となりました。
この背景には、大株主への株式の集中度によって、経営に対する規律の働き方が異なることがあるのかもしれません。大株主の保有比率が高いことには、経営を監視するというプラスの面があります。一方で、筆頭株主だけでなく、それ以外の大株主の保有比率も高い企業では、安定した大株主に支えられることで、外部の株主から経営改善を求める圧力が弱くなる可能性もあります。
反対に、両方の保有比率が低く、株式の保有が比較的分散している企業では、幅広い株主から経営を評価されるため、株価や資本効率を意識した経営への圧力が働きやすいとも考えられます。こうした違いが、その後の株価パフォーマンスの差につながった可能性があります。
ただし、大株主の保有状況を見る際には注意も必要です。大株主には信託銀行の信託口が並んでいるケースも多く、名義上の保有比率だけでは、実際に誰が投資判断を行っているのか分かりにくい場合があります。
筆頭株主比率、筆頭株主を除く大株主比率の目安は?
そのため、特に筆頭株主については、保有比率だけでなく「誰が筆頭株主なのか」も確認したいところです。個人や創業家など、特定の株主であることが明確な場合には、その保有比率が高いほど経営への影響力も大きいと考えられるためです。一方、筆頭株主を除く大株主については、個々の株主の顔ぶれにこだわりすぎず、合計の保有比率から株式の集中度を機械的にチェックする方法でもよいでしょう。
では、実際の銘柄選びでは、どの程度の保有比率を目安にすればよいのでしょうか。今回の分析では、筆頭株主とそれ以外の大株主の保有比率を、それぞれ中央値より高いか低いかで分類しました。直近の中央値を参考にすると、筆頭株主比率は15%、筆頭株主を除く大株主比率は30%程度が一つの目安になります。まずは、この2つの比率がともに目安を下回っているかをチェックしてみるのもよいでしょう。

