高市政権の目玉である戦略17分野の官民投資
株式市場には「政策に売りなし」という格言があります。時々の情勢に応じて政府が予算を充て、政策に関連した業種・銘柄に公的資金の流入が期待されるほか、規制改革を通じて産業育成を進めるなど、政策に関連する企業では、中長期的な需要拡大を背景に、株価上昇への期待が高まることが背景にあります。もっとも、政策テーマに該当するだけで株価上昇が約束されるわけではありません。政策による投資が、実際にどの企業の受注や売上高、利益に結びつくのかを見極める必要があります。
国内では高市政権の積極財政が注目される中で、2026年7月に決定された日本成長戦略では、AI・半導体、デジタル・サイバーセキュリティ、情報通信、量子、防衛、航空・宇宙、造船、GX、創薬、コンテンツなど17の戦略分野が示されました。
さらに、62の主要製品・技術について官民投資ロードマップが策定され、2040年度までに国内投資額は官民合わせて累計370兆円超と見込まれる内容でした。選定された分野で日本が競争優位を確立することを目的とし、同政権の目玉政策と位置付けられます。
**シェアは参考値で420.6兆円に対する各分野の割合。
出所:内閣官房よりマネックス証券作成
注意したいのは、官民合わせてとあるように370兆円が政府の財政支出だけで構成されるわけではないという点です。民間企業による設備投資や研究開発投資を含む官民合計の想定額であり、既存の投資計画も含まれる考えられます。
実際に、キオクシアホールディングス(285A)は、2026年8月27日に、メモリーを共同開発する米サンディスク[SNDK]と、2032年までに国内で約5兆円を投じ、三重県四日市市と岩手県北上市の生産基盤を強化する方針を発表しました。
北上工場では第3製造棟(K3棟)の建設準備に入り、2029年度中の稼働を目指すとされています。このニュースのほかにも民間企業による生産設備拡大の発表などが散見され、既に国内における設備投資拡大の兆しがうかがえます。
370兆円は相応のインパクトであり、足元の設備投資需要も旺盛とみる
2040年までに370兆円という規模が、どれほどのインパクトをもたらすのか簡単な推計をしてみます。前述のとおり、既に設備投資拡大の兆しはみられ、2026年からの15年間で370兆円が均等に振り分けられると想定すれば、1年あたりの投資額は24.7兆円と試算されます。
もちろん均等に振り分けなければいけないルールはありませんが、この規模を各種マクロデータと比較すると、2024年度の民間企業設備投資の約21%、総固定資本形成の約14%、2025年度の名目GDPの約4%に相当し、無視できない規模であることがイメージできるのではないでしょうか。
※24.7兆円は発表された370兆円を2026年~2040年の15年間で単純に均した数値
直近2026年4~6月期GDP統計の2次速報では、民間企業設備は実質で前期比0.9%減でした。足元では伸び悩みがうかがえる一方、日銀短観における2026年度のソフトウェア・研究開発を含む設備投資計画は、全規模・全産業で前年度比8.8%増が見込まれています。また、製造業の設備投資判断DIを確認すると、中堅・中小企業を中心に低下基調であることが見て取れます。
こうしたマクロ面での構造的な背景から企業の投資意欲は旺盛と言えるでしょう。企業にとって政策の継続性が見通しやすくなれば、大型設備投資に踏み切る際の不確実性が下がると考えられます。補助金、政府調達、規制改革などを通じて民間投資を呼び込むことが、今回の政策の重要な役割と言え、戦略17分野の政策支援はこうした投資計画を実行段階に移す後押しとなる可能性があります。
銘柄選びのヒント:政策に売りなし、「戦略17分野」2つの仮想ポートフォリオのパフォーマンスを検証
ここまで見てきたように、対象のセクターでは政策による需要喚起と、それに伴う業績拡大が期待され、戦略17分野は魅力的な投資候補を見つけるための足掛かりとなるでしょう。広範な分野にまたがることから、本稿では1つ1つの分野を掘り下げて調査するのではなく、関連性の高い3社を選び、仮想ポートフォリオを作成し、今日までの動向を概観します。採用銘柄は、流動性などを考慮したうえで、定性的な観点から選定し、370兆円の設備投資でも資金の重複が見られたように、分野間で重複する銘柄も許容しています。
具体的には各分野を均等配分した「17分野ポートフォリオ」と、重複銘柄を除いた「ユニーク銘柄ポートフォリオ」の2つを作成します。
17分野ポートフォリオ(同額配分、銘柄均等)
一つ目の「17分野ポートフォリオ」は、17分野にそれぞれ同額を配分したうえで、各分野の関連銘柄にも均等に投資する設計です。複数の戦略分野に該当する企業は分野ごとに組み入れられるため、複数政策の恩恵を受ける企業ほどポートフォリオ全体に占める実質的な比率が高くなります。これは政府の実際の投資配分を再現するものではなく、「17の政策テーマを均等に保有した場合」の値動きを捉えることを目的としています。
ユニーク銘柄ポートフォリオ(分野ごとの重複を除いた全銘柄に均等配分)
一方、「ユニーク銘柄ポートフォリオ」では、複数分野に該当する企業を一社として集約し、重複を除いた全銘柄に均等配分します。政策分野を横断する一部の大型銘柄への集中を抑え、戦略投資に関連する企業群全体へ幅広く投資した場合のパフォーマンスを確認するものです。
2つのポートフォリオとTOPIXを同じ時点を基準に指数化して比較することで、戦略投資に関する17分野の関連銘柄が市場全体を上回って推移したかを確認できます。さらに、17分野ポートフォリオとユニーク銘柄ポートフォリオの差を見ることで、相対的な高パフォーマンスが複数分野にまたがる少数の中核企業によってもたらされたのか、それとも関連企業群全体に広がっていたのかを切り分けて確認します。
※各ポートフォリオは政策テーマと株価の関係を確認するための試算であり、政府の実際の投資配分を再現したものではないことに注意
関連銘柄群がTOPIXをそろって上回る
同報道がなされた2026年6月19日を100として株価推移を確認すると、9月7日時点では、17分野ポートフォリオとユニーク銘柄ポートフォリオがともにTOPIXを上回っています。なかでも、重複銘柄を一社に集約して均等配分したユニーク銘柄ポートフォリオの上昇率が最も大きい結果となりました。ユニーク銘柄ポートフォリオが優位となったことから、政策テーマを巡る株価上昇が少数の重複銘柄だけに集中せず、周辺企業を含む幅広い銘柄に波及した可能性が示唆されます。
もっとも、両ポートフォリオの差は9月7日時点で約1ポイントにとどまり、優位性が明確になったのも主として7月下旬以降です。このため、短期間の株価推移だけから政府の戦略投資による効果と断定することはできないものの、それでも、関連銘柄群がTOPIXをそろって上回った点は、「政策に売りなし」という相場格言と整合的な初期反応として注目できるでしょう。
「政策に売りなし」は、政策関連銘柄を無条件で買うという意味ではありません。投資家が確認すべきなのは、政策との距離、業績への波及経路、利益への転換力、そして現在の株価にどこまで期待が織り込まれているかです。
加えて、例えば工場建設などの設備投資需要に注目すれば、戦略17分野の銘柄以外にも、建設や工作機械といったセクターの銘柄にもプラスの影響が出てくると想定されます。戦略17分野に関連する銘柄は中長期的に注目していきたい銘柄群といえますが、上述した銘柄以外にもチャンスがあり、最終的な投資判断には企業ごとの精査が欠かせないことにご注意ください。

