2026年9月8日(火)8:30発表
日本 毎月勤労統計調査2026年7月分速報
【1】結果:実質賃金は7ヶ月連続でプラス 名目賃金の伸びがけん引
2026年7月の名目賃金は、前年同月比4.7%増となり、前回6月(改定値)の同4.0%増から伸びが加速しました。基本給にあたる所定内給与は同4.1%増と、前月の同3.5%増から伸びが拡大したほか、ボーナスなどにあたる特別に支払われた給与も同6.3%増(6月:同4.7%増)となりました。一方、サンプル替えの影響を除いた共通事業所ベースの所定内給与は同3.0%増と、前月から横ばいでした(図表1)。
実質賃金の算定に用いられる物価指標(持家の帰属家賃を除く消費者物価指数)は前年同月比2.2%上昇と、前月の同1.9%上昇から伸びが加速しました。それでも名目賃金の伸びが物価上昇を上回ったことで、実質賃金は同2.4%増と7ヶ月連続でプラスとなり、2021年5月以来の高い伸びとなりました。
また、ヘッドラインの消費者物価指数(総合指数)を用いて試算された実質賃金は同2.6%増でした。物価上昇が続く中でも、賃上げを反映した所得環境の改善が一段と明確になったと評価できる結果です(図表2)。
【2】内容・注目点:実質雇用者報酬はコロナ前のピーク圏を回復、消費を支える所得基盤は改善
今回注目したいのは、経済全体の労働所得の購買力を示す実質雇用者報酬の回復です。2026年4-6月期の実質雇用者報酬は前期比1.1%増の289.3兆円(季節調整済み年率)となり、これまでのピークだった2019年4-6月期の288.1兆円を小幅ながら上回りました。コロナ禍とその後の物価高によって落ち込んだ実質ベースの雇用者所得は、約7年を経てようやくコロナ禍前の水準を取り戻した格好です(図表3)。
実質雇用者報酬は、一人当たりの賃金だけでなく雇用者数の増減も反映するため、家計部門全体の所得環境を見るうえで重要な指標です。7月の実質賃金が7ヶ月連続でプラスとなり、基本給にあたる所定内給与も前年同月比4.1%増へ伸びが加速したことを踏まえると、所得環境の改善は賞与などの一時的な要因にとどまらず、毎月の収入にも広がりつつあると考えられます。
もっとも、4-6月期の実質民間最終消費支出は前期比横ばいにとどまっており、所得環境の改善が消費の力強い増加に直結しているわけではありません。長引く物価高などを背景に、家計の支出姿勢はなお慎重とみられます。ただし、賃上げが継続し、恒常的な所得増として家計に認識されるようになれば、消費の下振れを抑える効果は徐々に強まるでしょう。消費の急回復を見込む局面ではないものの、中長期的には賃金増が個人消費を底支えするとの見方を維持しています。
【3】所感:賃金モメンタムの維持は日銀の追加利上げを後押し
7月の賃金統計は、日銀が追加利上げを検討するうえで前向きな材料になったと考えます。サンプル替えの影響を除いた共通事業所ベースでみると、一般労働者の所定内給与は前年同月比2.7%増となり、総合ベースの消費者物価指数の同1.9%上昇を上回りました。賞与などに左右されにくい所定内給与が物価上昇を上回っていることは、家計の実質的な購買力が改善方向にあることを示しています(図表4)。
図表4では、生鮮食品を除くコアCPIではなく、総合指数と所定内給与を比較しました。生鮮食品などの価格は短期的な変動が大きい一方、家計が実際に直面する生活コストの一部です。そのため、賃金が家計の体感に近い物価上昇を上回っているかを確認するうえでは、総合指数との比較にも意味があると考えます。
もちろん、日銀が金融政策を判断する際に重視するのは、一時的な価格変動を除いた基調的な物価上昇率であり、総合CPIとの単月比較だけで利上げの是非が決まるわけではありません。ただし、賃金上昇が所定内給与に定着し、物価上昇に負けない状態が続けば、賃金と物価の好循環が維持される確度は高まります。
日銀自身も現在の金融環境を緩和的と評価しています。賃金モメンタムが相応に堅調ななかでは、追加利上げは景気に急ブレーキをかけるというより、これまで踏み込んできたアクセルを徐々に緩める対応と捉えるのが妥当でしょう。今回の結果は、日銀による追加利上げを後押しする内容だったと評価します。
マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 山口 慧太

