8月の振り返り=米ドル/円は協調介入で155円、ただその後は160円まで戻す
円安への戻りを正当化したのは日本の長期金利上昇
8月の米ドル/円は、7月末に日本の通貨当局が米ドル売り・円買い介入を再開し、さらに1998年以来の日米協調円買い介入が行われたこともあり、一時155円台まで急落しました。その後の発表によると、これらの日本の介入額は15兆円に達しました。ただ介入一巡後はほぼ一本調子で160円まで米ドル高・円安に戻りました(図表1参照)。
日米協調介入などを受けた円高が、その後円安に戻った動きを正当化したのは、日本の長期金利上昇でした。長期金利、10年債利回りはこの間の高値を更新。一時2.9%以上に上昇し、米ドル高・円安への戻りはそれに連動したように見えました(図表2参照)。
介入で円高に=ただ財政規律への懸念で円安に戻す
このように長期金利上昇が続いたのは、財源が曖昧なまま消費税減税を進める高市政権の動きなどに対して、財政規律への懸念が強まった結果との見方が基本だったでしょう。その意味では、長期金利上昇と連動した円安も、財政規律への懸念が円売り材料になった可能性があるでしょう。
日米協調介入などで円安から円高へ反転させる一方で、日本の財政規律への懸念から円安が再燃したということになります。以上からすると、さらに円安が広がるかどうかは、日本の財政規律への懸念を受けた長期金利上昇が続くかが、大きな目安になりそうです。
米財務省が長期金利上昇阻止策=一時米ドル/円急落
8月にもう1つ注目されたこととして、米財務省が買いオペ(バイバック)の倍増を発表し、事実上の長期金利上昇阻止策に動いたことがありました。この発表があった8月19日、米ドル/円は159円台後半から158円割れ寸前まで急落しました。
ただこれを、米金利低下を受けた日米金利差(米ドル優位・円劣位)縮小への反応と考えるのは違うかもしれません。米ドル/円と日米金利差の関係は、1年以上前から大きくかい離してきたからです(図表3参照)。
米金利上昇阻止で円高へ反転の「正しい理解」とは?
日本の長期金利、10年債利回りは基本的に米10年債利回りに連動します(図表4参照)。そして日本の長期金利と米ドル/円は、1年以上前から「金利上昇=円安(または金利低下=円高)」という関係が続いてきました(図表5参照)。
以上からすると、米長期金利の上昇阻止策に米ドル安・円高という反応となったのは、「米長期金利低下→日本の長期金利低下→円高」との連想が基本だったのではないでしょうか。ただこの米長期金利上昇阻止策が成功するかについても、なお懐疑的な見方が少なくありません。
以上のように、8月は日米などで世界的な長期金利上昇問題が現実味を増し、それに歯止めをかけることができるか、そしてそれは「歴史的円安」の転換にも影響することが再認識されたわけです。
9月の注目点=日本の財政規律の維持や日米金融政策発表
「長期金利上昇=円安」は続くのか=財務省は財政規律維持を目指す
日本の財政規律への懸念を受けた「長期金利上昇=円安」はさらに広がるのでしょうか。まず長期金利上昇について、財務省はさすがに10年債利回りが3%を大きく上回ることは回避したいと考えているようです。
このため当初は、高市政権の消費税減税の撤回を目指していたようです。しかしその後、高市内閣の支持率が低下し、高市総理の選挙公約である消費税減税の撤回は、さらなる支持率低下をもたらす可能性が高いため無理になったと判断。財源の明確化により財政規律の維持を目指す方針に軌道修正した可能性がありそうです。ではそうしたことで長期金利上昇に歯止めをかけることができるのでしょうか。
日米の金融政策発表、そして為替介入の焦点とは?
9月は中旬に日米の金融政策発表が予定されています。このうち日銀については、円安阻止の日米協調介入と足並みを揃えるという意味でも、利上げペースをこれまでより加速するとの見方が強まっており、9月の追加利上げの可能性は高そうです。ただし、すでに見てきたように、この間米ドル/円は日米金利差縮小への反応が極端に鈍くなっていることを考えると、日銀の利上げがどれだけ円安の阻止・是正に役立つかは、懐疑的ではないでしょうか。
FOMC(米連邦公開市場委員会)は、前回7月末の会合で一部にあった利上げ予想に対して結果的には利上げ見送りを決めたところ、それを境に株安から株高への転換が起こりました(図表6参照)。これは、株価が予想以上に米利上げを警戒していたことを感じさせるものではないでしょうか。
6月以降、SOX(フィラデルフィア半導体)指数が最大で3割も下落した値動きは、2000年からのITバブル崩壊時におけるナスダック指数の下落パターンに似ているとの指摘もあり、AIバブル崩壊の始まりを懸念する見方も一部にあります。9月FOMCの決定が株価にどう影響するか、注目してみたいと思います。
9月の米ドル/円は155~163円で予想
最後に円安阻止介入について。日本の通貨当局は、160円を大きく超える円安は日本経済にとってすでに許容できないと判断しているとみられます。このことから、「この間の米ドル高・円安のピークである163円に迫るようなことがあれば介入に動く可能性が高い」(元財務官)との見方が有力です。その場合は、日銀の利上げや消費税減税に関連した財政規律の維持を目指す動きと連携する可能性が高いのではないでしょうか。
以上を踏まえ、9月の米ドル/円は155~163円のレンジで予想したいと思います。
9月第1週の米ドル/円は158~162円で予想
今週(8月31日週)は、8月雇用統計など注目度の高い米経済指標発表が予定されています。雇用統計では、前回7月のNFP(非農業部門雇用者数)が予想外の減少となったものの、それを受けた米ドル売りも一時的にとどまりました。8月のNFPは前月比増加が予想されており、「NFPショック」が一時的だったかどうかの見極めが焦点になります。
金融市場は例年、9月第1月曜日のレーバーデイが終わると、実質的な夏休み明けで取引が本格再開します。2026年のレーバーデイは9月7日ですが、その前の今週(8月31日週)、雇用統計発表など相場が大きく動く材料も予定されていることから、レーバーデイ明けを先取りして、一方向に大きく動き出す可能性にも注目です。
その場合は、「日本の長期金利上昇=円安」との見方を背景に、円安阻止介入を試す構図が基本になりそうです。以上から、今週(8月31日週)の米ドル/円は158~162円で予想します。

