7月の香港ハンセン指数は急反発しました。6月30日終値から7月31日までの騰落率は+13.1%となり、世界の主要株価指数の中でもトップクラスの上昇率となりました。上半期のハンセン指数は10.7%下落と世界の主要指数で最下位クラスだったことを考えると、大逆転とも言える上昇となっています。
一方の中国本土市場は正反対でした。上海総合指数の同期間騰落率は-6.4%となっています。なぜ同じ「中国株」でありながら明暗が分かれたのでしょうか。
香港ハンセン指数が大きく上昇した理由:構成銘柄に注目
答えは指数の構成銘柄にあります。7月の世界の株式市場では、それまで急騰を続けてきたAIハードウェア(半導体・メモリ・光モジュールなど)から資金が一斉に流出し、出遅れていたプラットフォーマーや消費・金融株へ資金が向かう「リバーストレード」が発生しました。きっかけの一つは7月初旬、米国のメタ・プラットフォームズ[META]がクラウドインフラ事業への参入と余剰AI演算能力の外部販売を発表したことで、市場がこれを「計算能力過剰・設備投資のピークアウト」と解釈し、フィラデルフィア半導体株指数が急落、韓国・日本市場にも動揺が波及したことでした。その他、メモリ株については中国のメモリ企業との競合懸念などから急反落したことなどもあります。
ともあれ、ここで指数の中身が効いてきます。ハンセンテック指数の構成銘柄に占めるAIハードウェア関連の時価総額比率はわずか約15%程度で、韓国KOSPIの約7割と比べて極端に低いのです。さらに、ハンセン指数はテンセント・ホールディングス(00700)、アリババ・グループ・ホールディング(09988)、メイトゥアン(美団)(03690)などのプラットフォーマーと金融株、消費株が中心で、AI相場の上昇局面では「乗り遅れ組」でしたが、ハードウェア売りの局面では逆に売られるものがなく、割安さが再評価される側に回りました。7月はアリババ、美団、JDドットコム(09618)などプラットフォーム企業株の大幅高がAI系テック株の下落を打ち消し、消費株の底入れも重なったことで香港株は大きく上昇しました。
上海総合指数が下がった本当の理由:指数の「中身」が変わっていた
この1年で電子・半導体セクターの時価総額が急拡大
一方、上海総合指数が下落した理由ですが、第一に、指数の中身が変化していたことがあります。上海総合指数は上海証券取引所の全上場銘柄で構成されるため、ハイテク専門市場である科創板の銘柄も含まれます。中芯国際(SMIC)、AI半導体の寒武紀、メモリーインターフェースの瀾起科技は科創板、メモリ大手の兆易創新は上海メインボード上場で、いずれも上海総合指数の構成銘柄です。
この1年のAI相場でこれら電子・半導体セクターの時価総額が急拡大し、上海総合指数は知らぬ間に「AIハードウェアの重み」を抱え込んでいました。そして前述のように、その電子・半導体セクターが7月に崩れました。兆易創新は6月末高値から約4割安まで売られる場面もありました。中芯国際や記憶装置関連の徳明利、佰維存儲なども月内高値から急落し、下落率が50%を超える銘柄も続出したのです。
超大型IPOの応募資金を捻出するため
需給面の重石もありました。国産DRAM最大手・長キン科技の超大型IPOです。調達額579億元と2026年のA株最大IPOとなった同社の申し込みが7月中旬に始まると、機関投資家が応募資金を捻出するために電子・半導体セクターが全般的に売られました。A株では新株の抽選に参加するために応募資金を事前に用意する必要があります。579億元という巨額調達かつ確実に人気化が見込まれた長キン科技のIPOに参加するため、機関投資家は値上がりしていた既存の半導体株を売って現金を捻出したわけです。
なお、長キン科技は7月27日の上場初日は465.82%高で時価総額3.28兆元と工商銀行を抜いて中国本土A株で時価総額首位となりました。それでも上海総合指数の下げが6%台にとどまったのは、7月に建設銀行、工商銀行など大手銀行株が逆行高で上場来高値を更新したためです。
香港市場は強い上昇トレンドに移行しつつある
8月に入り、ハンセン指数は26,000ポイントを約2ヶ月半ぶりに回復し、株価も200日移動平均線を上に突き抜けてテクニカル的には強い上昇トレンドに移行しつつあると言えます。また、2026年の香港上場中国企業の配当と自社株買いの合計は約1.2兆元(約1800億ドル)に達する見込みで、南向資金(※)の年間純流入2000億ドル、海外長期資金の流入200~300億ドルと合わせると需給は良好な状態が続きそうです。
香港市場に追い風となる経済政策
政策面では、7月30日の中央政治局会議が「資本市場の強靭性と信心の向上」と追加の経済政策の適時導入を打ち出したほか、10月には五中全会で次期5ヶ年計画「十五五」の議論が本格化します。すでに国務院は2030年に小売総額60兆元を目指す消費拡大計画を承認しており、指数の約半分を消費関連が占める香港市場には追い風です。
8月中・下旬の香港決算シーズンが試金石
もちろん、8月中・下旬の香港決算シーズンで業績が期待に届かなければ、株価は調整する可能性があるため、業績は随時確認する必要はあります。また、世界的な出遅れセクターへの資金流入がこのまま続くのか(AI・半導体に再び資金が流入する相場状況に戻るなど)によっても相場は大きく左右されます。
まとめると、7月の「香港高・上海安」は、世界的なAIハードウェア売り・ソフトウェア買いの大転換が、両指数の構成の違いを通じて増幅された現象でした。この転換が本物なら、割安なプラットフォーマーを多く抱える香港には巻き返し余地が残り、上海はAIハードの調整消化と経済政策の具体化を待つ局面です。香港は8月の決算シーズンが次の方向を決める試金石になるでしょう。
※南向資金:中国本土の投資家が上海・深セン証券取引所と香港取引所を結ぶ相互取引制度(ストックコネクト、中国側では「港股通」)を通じて香港株を買い付ける資金

