激動の7月相場、指数の上昇だけでは見えない「主役の交代」

7月最終週(7月27日週)の米国株式市場は、指数の終値だけを見れば堅調でした。S&P500指数は週間で+1.05%上昇し、ナスダック100は+0.52%上昇し取引を終えました。しかし、その過程は決して穏やかなものではなく、AI関連株の急落、FOMC(米連邦公開市場委員会)後の長期金利上昇、原油高への警戒、そして大型テクノロジー企業の決算を受けた急反発が重なりました。

その結果、投資家心理はわずか数日の間に悲観と楽観の間を大きく揺れ動き、指数の小幅な上昇という数字からは想像しにくい、非常に変動の激しい一週間となりました。

7月全体では、ナスダック総合指数が-6.6%下落した一方、S&P500指数は-0.13%とほぼ横ばいとなりました。これは米国株全体が崩れたというより、これまで相場をけん引してきた大型テクノロジー株から、それ以外の業種へ資金が移動したことを示しています。指数の表面以上に、相場の中身が大きく入れ替わった1ヶ月でした。

AI投資の評価軸の変化「巨額投資」から「収益化」へ

今週(8月3日週)の市場を理解するうえで最も重要なのは、単なる「ハイテク株の調整」ではなく、AI投資に対する評価軸が変わり始めたことです。これまでは、データセンターや半導体に巨額の資金を投じる企業ほど成長期待を集めてきました。しかし、足元では設備投資額の大きさだけでは不十分です。その投資が売上高、利益率、そしてフリーキャッシュフローにどの程度結びついているのかが、厳しく問われるようになっています。

この疑念を先に映したのが、メモリーや半導体株の急落でした。韓国、台湾、日本の半導体関連株に売りが広がり、米国でもマイクロン・テクノロジー[MU]、サンディスク[SNDK]、シーゲート・テクノロジー・ホールディングス[STX]などが大きく下落しました。

さらに、AI関連株にレバレッジをかけて保有していたヘッジファンド、シチュエーショナル・アウェアネスが証拠金請求を受け、上場株ポジションを清算したと伝えられたことも、下落を増幅しました。つまり、売りの一部はAI需要そのものの消滅ではなく、過大なポジションの強制的な巻き戻しという需給要因だった可能性があります。ただし、大規模なレバレッジ解消の大半は終了し、AI関連株が構造的な底値を形成しつつあると考えています。

金融政策に対して市場は「先行きの不透明さ」に反応

もう一つの焦点は金融政策です。FOMCは政策金利を3.50~3.75%に据え置きましたが、3人の投票メンバーが0.25%の利上げを主張しました。さらに、ケビン・ウォーシュFRB(米連邦準備制度理事会)議長が従来型のフォワードガイダンスを重視せず、今後の政策経路について明確な手掛かりを示さなかったことで、市場は「金利据え置き」よりも「先行きの不透明さ」に反応しました。

30年国債利回りは一時5.14%まで上昇する一方、2年国債利回りは4.23%に低下し、イールドカーブは大きくスティープ化しました。これは、目先の追加利上げ回数は減るとしても、原油高や財政不安によって中長期的なインフレリスクが残るとの見方を示しています。長期金利の上昇は、将来の利益を現在価値に割り引いて評価するグロース株にとって、最も厳しい逆風の一つです。市場はFRBの政策金利そのものよりも、債券市場が示すインフレと財政のリスクを警戒したのです。

明暗が分かれたハイテク決算、マイクロソフトとアマゾン・ドットコムは高評価

その重い空気を変えたのが第2四半期の決算発表でした。マイクロソフト[MSFT]はクラウド事業のAzureの力強い成長を示し、巨額のAI投資を続けながらもキャッシュフローを維持できることを示しました。決算後の株価上昇による時価総額の増加額は約4500億ドルと、米国企業として過去最大を記録しました。

アマゾン・ドットコム[AMZN]では、AWSの売上高が前年同期比37%増となり、利益率も改善しました。AIサービスへの需要が供給能力を上回っていることが確認され、アマゾン株は決算後に10%超上昇しました。投資家が評価したのは、単なる設備投資の拡大ではありません。クラウド事業の成長加速と収益性の改善が同時に確認されたことです。

一方、メタ・プラットフォームズ[META]は設備投資の増額とキャッシュフローの低下が嫌気されました。アップル[AAPL]は、AI需要に伴うメモリー不足が端末販売や利益率を圧迫する可能性を警告しました。同じAI関連企業でも、投資を利益に変換できる企業と、支出先行と見なされる企業との選別が急速に進んでいます。

今後のAI相場は、「AIに投資しているか」ではなく、「AI投資からどれだけ高い収益を回収できるか」で決まるでしょう。

出遅れ銘柄への資金移動、本格的な上昇相場のカギは「裾野の広がり」

市場全体には、もう一つ前向きな変化があります。大型テクノロジー株が崩れる一方で、ヘルスケア、金融、生活必需品などに資金が向かい、S&P500の均等加重指数は一時最高値を更新しました。これは、資金が株式市場から全面的に逃げたのではなく、過熱した銘柄から出遅れ分野へ移動していたことを示します。

ただし、週後半の指数上昇はマイクロソフトやアマゾン・ドットコムなど、一部の巨大企業への依存度も高いものでした。AI関連株が反発する一方で、それまで買われていた非テクノロジー株が失速するようであれば、指数は上昇しても市場全体の健全性は改善しません。本格的な上昇相場の再開を確認するには、大型テクノロジー株とそれ以外の銘柄が同時に上昇し、市場の裾野が再び広がる必要があります。

決算シーズン全体は引き続き強力です。S&P500構成企業の約60%が発表を終え、約90%が1株利益予想を上回り、約4分の3が売上高予想を上回っています。アマゾン・ドットコムの好決算などを受け、第2四半期のS&P500企業利益は前年同期比47.4%増と見込まれ、週初の38%増から上方修正されました。相場のボラティリティーは高くても、企業利益という土台まで崩れているわけではありません。

今週(8月3日週)は「企業業績の強さ」vs「金利やインフレの圧力」に注目

今週(8月3日週)の焦点は、「企業業績の強さ」と「金利上昇圧力」のどちらが勝るかです。

決算ではパランティア・テクノロジーズ[PLTR]、アドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]、スペースX[SPCX]、ウーバー・テクノロジーズ[UBER]、ウォルト・ディズニー[DIS]などが予定されています。AI関連企業については、売上高の伸びだけでなく、受注残、供給制約、設備投資、利益率、フリーキャッシュフローを組み合わせて確認する必要があります。

経済指標では、ISM製造業景況指数、JOLTS求人件数、ADP雇用統計、ISM非製造業景況指数、そして8月7日(金)の雇用統計が重要です。雇用が緩やかに減速しながら景気後退を示さない内容であれば、長期金利の安定と株価上昇の両立が期待できます。反対に、雇用や賃金が強すぎれば追加利上げ観測が再燃し、弱すぎれば景気不安が高まります。

加えて、OPECプラスの供給方針、米国とイランの情勢、ホルムズ海峡の再開見通しも重要です。8月1日、トランプ米大統領は、イランとの戦闘終結に向けた交渉を再開する意向を示しました。ただし、これまでの経緯を踏まえると、情勢は依然として予断を許しません。

再度、原油価格の上昇が起きると、インフレ期待と長期金利を押し上げ、好調な企業業績の効果を相殺しかねません。そこはリスクとして押さえておいた方が良いでしょう。