市場下落を味方につける、バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]の「ヘッジ力」の正体
米投資会社バークシャー・ハサウェイ[BRK.B](以下バークシャー)の株価が高値圏で推移している。9月15日付の本連載「【米国株】バークシャー・ハサウェイ株の「ヘッジ機能」と、スペースXに見るIPO投資の課題とは?」で取り上げたように、バークシャーは金融市場の状況が悪化した場合でも、豊富な資金を魅力的な価格で優良資産に投資できる体制を整えており、バークシャー株への投資がヘッジになる可能性がある。
9月5日に、フィナンシャル・タイムズ紙に掲載されていたオピニオン記事「Why Berkshire Hathaway might be an active hedge(なぜ、バークシャー・ハサウェイがアクティブヘッジとなるのか)」によると、バークシャーが持つエネルギーネットワークは米国で消費される天然ガスの15%を供給し、鉄道事業は鉄道貨物輸送全体の28%を担っているという。保険事業は業界3位という強力な地位を占めており、これらの基盤は、市場のタイミングを計るという不可能な作業から投資家を解放してくれると指摘している。
快進撃を続ける伊テック企業への「巨額の追加投資」
バークシャーは10月14日、米ナスダック市場に上場するイタリアのテック企業、ベンディング・スプーンズに、追加で3億3000万ドルを投資することで合意した。第三者割当で、1株33ドルで普通株1000万株をバークシャーに発行する。バークシャーは7月、ベンディング・スプーンズがIPO(新規上場)をした際に6億ドルを出資していた。追加の出資によりバークシャーの持ち分は4%に拡大する。
ミラノに本拠を置くベンディング・スプーンズは2013年に創業。既存のテクノロジー企業を買収し、事業運営を抜本的に見直して収益性を高めることで、事業を構築してきた。米AOL、クラウド型データベースプラットフォームのAirTable、オンラインホワイトボードツールのMiro、メモアプリのエバーノートなど50社以上を買収してきた。
ブルームバーグの10月14日の記事「バークシャー、伊テック企業に3.3億ドル追加投資-株価一時55%高」によると、ベンディング・スプーンズの共同創業者で企業買収責任者のフランチェスコ・パタルネッロ氏は「M&A(合併・買収)の機会を継続的に検討しており、案件候補は引き続き豊富だ」と述べ、投資によりさらなる買収を進める上で財務面の柔軟性が高まると説明した。
あえて「大逆風」へ挑む、米国第2位レナー株への長期的な賭け
9月末から10月にかけては、米住宅建設会社のレナー株[LEN]の持ち高を増やしている。住宅建設業界のセンチメントは弱く、レナーを取り巻く市場環境は決して明るいとは言えない。納入実績と利益率は低迷しており、住宅ローン金利の高騰が住宅需要を抑制している。しかし、そのブランド力は健在だ。バークシャーが米国第2位の住宅建設会社であるレナーへの出資比率を積み増していることは、低迷する米国住宅市場における長期的な回復への賭けとなる。
暴落時は「即買い」へ、アベル新体制で加速するデジタルシフトの布石
バークシャーは2026年6月にアルファベット[GOOGL]が実施した8500億ドル規模の株式発行でも100億ドル分を取得した。6月末時点でのバークシャーによるアルファベットの保有株数は約1億598万株だった。時価評価額でみた上場株の保有ランキングでは、アップル[AAPL](全体の22%)、アメリカン・エキスプレス[AXP](17%)に次ぐ3位となった。
バークシャーのCEO(最高経営責任者)を2025年末に退任したウォーレン・バフェット氏は2026年3月に出演した米CNBCの番組でのインタビューで、次に大きな市場の下落があった場合、「(株式市場に)すぐに投資する」と明らかにした。そして、「投資するのは、株式や事業が魅力的で、来週や来月に売却する予定がないからだ」と述べた。
グレッグ・アベル新体制の下、今後、ハイテクやデジタルといった分野への投資も増えていくであろうことが想定される。レナー、ベンディング・スプーンズ、アルファベットへの投資はバラバラのように見えるが、豊富な資金を魅力的な価格で優良資産に投資できる体制がある限り、それらの投資はバークシャーの強さを支えるひとつのピースとなるだろう。
シェブロン[CVX]の純利益が約3倍に、シェブロン株が稼ぐ驚異のキャッシュ
石油大手シェブロン[CVX]が10月30日、2026年第3四半期(2026年7-9月期)の決算を発表した。売上高は前年同期比約36%増の677億ドル、純利益99.2億ドルと1年前(35.4億ドル)の2.8倍に拡大。中東情勢の緊迫化に伴い原油価格が上昇したことに加え、米国内の製油所稼働率が高水準を維持し、精製マージンが大幅に改善したことが寄与した。
シェブロンはバークシャーの上場株ポートフォリオにおいてトップ10に入る中核銘柄の一つである。6月末時点での保有株数は約8440万株、評価額ベースで約140億ドル規模に達している。シェブロンの安定したキャッシュ創出力はバークシャーの会長、ウォーレン・バフェット氏のお気に入りにもマッチする。増配や自社株買いといった株主還元も積極的に行っている。株価は年初来で83%超上昇している。
米エネルギー大手に吹く需給両面の追い風
エネルギー株の追い風は原油市況の上昇だけではない。ハイテク企業による巨額の設備投資はエネルギー業界の未来を支える最大のメガトレンドだ。特にデータセンターは一瞬の停電も許されないため、天候に左右される太陽光や風力だけでなく、常に安定して発電できる「ベースロード電源」が必要となる。ハイテク企業が「最先端のAI(人工知能)」に投資すればするほど、それを動かすためのエネルギーの価値が高まる。
エネルギー企業には現在、AIの普及に伴う「記録的な需要拡大」と、中東情勢の緊迫化による「供給リスク」という、需給両面からの強力な追い風が吹いている。一方で、金利上昇局面においては世界的なマクロ経済の減速リスクは警戒要因となる。また、金利上昇はエネルギー企業の設備投資に対して、調達コストの増加という逆風をもたらす。
今のところAIデータセンターの急増に伴う深刻な電力不足という強いトレンドに後押しされ、金利上昇局面においても設備投資の総額自体は減速しておらず、むしろ急増している。ただし、トランプ政権の政策「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法(OBBBA)」によって、過剰な投資が先行している可能性も否定できない。
トランプ税制「OBBBA」の恩恵と、AI投資に潜む死角
設備投資などの対象資産について、投資後すぐに一定割合を即時償却できる「ボーナス減価償却」制度が恒久化することが明記された。2025年1月19日以降に取得、サービスインした対象となる資産について100%即時償却が可能だ。この改正により、企業の設備投資、減価償却戦略には大きな自由度とインセンティブが生まれた。
OBBBA法案で米国の製造拠点や設備投資に対する税制優遇が恒久化されたことで、米国における生産体制の経済合理性は格段に高まった。100%即時償却の適用によるキャッシュフロー改善効果は莫大であり、ハイテク企業が莫大な設備投資を行なっていることを理由づけるものだ。一方、AI市場が期待通りのペースで拡大しなければ、OBBBAの恩恵を最大化しても、投資過多が重荷に転じるリスクは避けられない。大胆な税制の改正が市場を歪めているかもしれないという現状も念頭に入れておきたい。
石原順の注目5銘柄

