米国における選別消費を映す関連データ

米国における消費関連指標は強弱入り混じる状況となっています。米国国勢調査局が9月16日に発表した8月の米小売売上高は前月比1.2%増と市場予想(同0.8%増)を上回る伸びをみせ、上方修正された前月分(同0.5%減、速報値は同0.6%減)のマイナスからプラスに転じました。同統計では小売・飲食サービス事業所の売上総額が集計されます。一方、個人の消費行動を捉えるうえでは、従来のマクロ経済統計と異なる情報源から得られたオルタナティブデータも参考になります。

その一例として、米国のCircana社がPOSデータ(販売時点情報)などを用いて米国の小売市場を分析している調査があります。同社が公表した米国における8月の小売売上高は前年同月比で0.8%増加した一方、販売数量は1.7%減少しました。販売数量は4月以降、5ヶ月連続で前年割れとなっています(図表1)。こうしたデータからは、消費者が購入量を一律に増やすのではなく、必要性や価値を見極めながら支出先を選んでいる様子がうかがえます。

【図表1】オルタナティブデータによる米国の小売売上と販売数量
出所:Circana社のデータをもとにマネックス証券作成、2026年2月~2026年8月。

消費者はどんな分野に支出しているのか?

美容と玩具が年初来累計で前年を上回る販売数量の伸びを記録

Circana社による小売売上データの内訳においては、美容(プレステージ・ビューティ)と玩具が年初来累計で前年を上回る販売数量の伸びを記録しており、好調さが目立っています。同社による美容に関する別の調査(2026年1-6月)では、スキンケアやヘアケアといった分野における売上の好調が明らかになっています。関連銘柄としては、アルタ[ULTA]があげられますが、同社は8月27日の決算とあわせて公表した2026年通期見通しで、売上高について従来の6-7%増から6.7-7.2%増へ、既存店売上高についても2.5-3.5%増から3.2-3.7%増へそれぞれ上方修正しています。「価格が高くても、美しくありたい」という消費者の需要を捉えている様子がうかがえます。

必需品としての需要が底堅い食品・飲料分野

食品・飲料分野については、全体を上回る月が目立っており、必需品としての需要の底堅さが示されています。世界最大級の小売企業であるウォルマート[WMT]はこうした需要を取り込んでいます。同社の最高経営責任者(CEO)は9月15日に開催されたイベントで、「現時点では米国の消費者は底堅い。消費者は資金を意図的に使っており、同時に価値を求めている。だからこそ、ウォルマートのバリュー・プロポジションは現在、消費者の共感を得ている」との認識を示しています。加えて、「足元では食品や消耗品、一般商品、ヘルスケア・ウェルネスなどの分野でシェアを伸ばしており、年後半についても同様の結果が続く」としてシェア拡大と販売数量が増加するとの見通しを示しています。

なお、同社が8月に公表した最新決算では、玩具と衣類が売上成長のけん引役として指摘されています。「価格と利便性を武器に、消費者が優先する支出を取り込んでいる」様子が浮かび上がります。もっとも、消費自体は、原油をはじめとする資源価格の動向を受けたインフレ環境や雇用動向に左右される公算が大きい点にも留意が必要です。

選別消費の強まりと各企業の動向、足元で追い風を受けている企業の共通項とは

ディスカウントストアを展開するロス・ストアーズ[ROST]

ウォルマート[WMT]と近いニーズを取り込んでいる企業として、ディスカウントストアを展開するロス・ストアーズ[ROST]があげられます。同社は世界中のベンダーから在庫処分品や過剰在庫を仕入れ、百貨店や専門店の価格より20-60%安い価格でブランドアパレルや靴、アクセサリー、家庭用品を提供しています。

2026年第2四半期における売上高は、新規顧客の増加と既存顧客による支出拡大を背景に、前年比13%増となり、既存店売上高も同10%増となるなど、二桁成長となりました。同社は長期的な店舗展開に関して、2025年比で60%弱の成長余地があるとの見方を示しており、先々の業績拡大が期待されます。

また、価格・利便性に加えて、商品イノベーションを含めた総合的な価値によって消費者に選ばれている企業としてチポトレ・メキシカン・グリル[CMG]があります。同社はメキシコ料理をモチーフにしたレストランを運営し、高品質な食材(人工香料を用いていない食材など)やメニューの刷新、リワードプログラムなどを通じて顧客の利用を促しています。

玩具をはじめとするレジャー用品を手掛けるファイブ・ビロー[FIVE]

他方、前述のCircanaの調査では消費者が「楽しさ」、「感情的価値」を求める向きがあるとされています。銘柄の例としては、若年層とその親世代を主要顧客とし、玩具をはじめとするレジャー用品を手掛けるファイブ・ビロー[FIVE]があげられます。足元では「トイストーリー」や「スパイダーマン」に関連したライセンス商品やスクイッシー(低反発素材の玩具)などの販売好調が追い風になっているほか、目先ではハロウィンイベントの盛り上がりも期待されます。ただ、9月24日には、顧客に過大な請求が行われた事例や価格が明確に表示されていなかった事例があったと伝わっており、従業員に対する研修が強化され、価格表示の正確性の確保が厳格化されるかが注視されます。

世界有数のクルーズ会社カーニバル[CCL]

同様に楽しみや感情的価値のための支出を取り込んでいるのが、カーニバル[CCL]です。同社は世界有数のクルーズ会社で100隻近くの船舶を運航しており、2025年には各ブランドで1,400万人近くの乗客を集めました。同社は9月29日に2026年第3四半期決算を発表し、売上高・1株あたり利益(EPS)ともに市場予想を上回ったうえ、通年のEPS見通しを上方修正しました。中東情勢の緊迫化に伴う燃料費の上昇が業績押し下げ要因となっているものの、強い需要と業務改善による好影響がそれを上回っています。2027年についても予約が半分程度埋まっており、稼働率・価格ともに過去最高水準にあると同社は説明しています。

一方、百貨店を運営するコールズ[KSS]は最新四半期決算で売上高は前年比0.9%減となり、市場予想も下回りました。同社の経営陣は「顧客がガソリンや食品など日常支出におけるインフレから継続的な経済的圧力を受けている」、「2026年の残りの期間を見通すと、この経済環境が続くと予想している」、「経済的圧力が続く中核的な低・中所得層の顧客において、裁量支出を選別する動きが引き続きみられる」といった見方を示し、秋の利益率はマイナスに落ち込むとの予想も明らかにしています。

各企業がターゲットとする顧客の所得階層のような表面的な特徴から魅力的な銘柄を見極めるのは難しい状況下ですが、足元で追い風を受けている企業は「価格に見合う、あるいはそれ以上の価値を提供する」、「感情的高揚、利便性、楽しさ、体験といった価格以外の付加価値を提供する」という共通項があるように感じられます。投資家としては、今後の決算やイベントなどで企業から発信される情報を丁寧に拾い、好材料を探る姿勢がこれまで以上に重要となりそうです。

【図表2】銘柄一覧
出所:Bloombergのデータ、各企業によるIR情報などをもとにマネックス証券作成。2026年10月1日時点。