メンターからベッセント財務長官への警告「債券市場の声に耳を傾けよ」

米著名投資家のスタンレー・ドラッケンミラー氏は8月26日、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙に「債券市場の声に耳を傾けよ」と題するコラム記事を寄稿した。ドラッケンミラー氏は、米財務省が長期米国債の1回当たりの買い入れ規模を倍増させると発表したことについて、金利上昇は今後厳しい状況が待ち受けていることを示すシグナルであり、それを人為的に抑え込むことは危険を増大させるとして次のように指摘した。

ファンダメンタルズ(基礎的諸条件)に逆らって価格を防衛しようとする政府は、常に敗れる。唯一の不確定要素は、敗北を認めるまでにどれだけのコストを払うかだ。米国はその賭けで不利な立場に回るべきではない。ましてや、世界で最も重要な価格を対象に、そしてその価格が、米政府が今最も耳を傾けるべきメッセージを発しようとしている時に、そのような愚を犯すべきではないのだ。そのメッセージとは「債券市場の声に耳を傾けよ」だ。

8月27日付の日本経済新聞の記事「市場介入はなぜ失敗したのか ベッセント氏を叱った『恩師』」によると、ドラッケンミラー氏は米財務長官スコット・ベッセント氏がヘッジファンドでトレーダーとしてキャリアを積んでいた頃の指導役(メンター)だったということだ。今でもベッセント氏の師であり、良き友人であると見られているため、上記のウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿は「サプライズ」として市場参加者に受け止められたと伝えている。

ドラッケンミラー氏の最新ポートフォリオ:ブロードコム[AVGO]などを整理しメガテックを新規取得

ドラッケンミラー氏は現在、自身のファミリーオフィスであるデュケーヌ・ファミリーオフィスで資産を運用している。直近では、どのような投資を行っているのか。米国株式市場に上場する企業のポートフォリオについて、デュケーヌ・ファミリーオフィスが8月14日にSEC(米証券取引委員会)に提出した2026年第2四半期末時点のフォーム13Fから覗いてみよう。

6月末時点の保有数は89銘柄と、前期末(2026年3月末)より21銘柄増加した。4-6月期にアルファベット[GOOGL]、メタ・プラットフォームズ[META]、テスラ[TSLA]、半導体のアドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]中国大手ハイテク企業のバイドゥ[BIDU]、米住宅建設のディーアール・ホートン[DHI]、デルタ航空[DAL]などを含む44銘柄を新たに取得した。

一方、前期(2026年1-3月期)に取得したブロードコム[AVGO]、インテル[INTC]、マイクロン・テクノロジー[MU]については保有する株式を全て売却した。また、中南米のアマゾンと言われ、中南米においてeコマースなどを手がけるフィンテック企業のメルカドリブレ[MELI]についても全株(2766株)を手放した。

【図表1】2026年6月末時点のデュケーヌ・ファミリーオフィスのポートフォリオ (緑:新規ポジション  オレンジ:全売却)
出所:フォーム13Fより筆者作成

TSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング)[TSM]については持ち高を増やし(49万5280株→58万9680株へ増加)、保有額ベースでポートフォリオの中で3位に浮上した。アマゾン・ドットコム[AMZN]は前期に保有を減らしていたが、再び保有株数を増やし、6月末の保有株数は約100万株で5位だった。また、今回新たに取得したFOXは保有額ベースで8位に入った。取得株数は283万7200株でポートフォリオ全体の3%に相当する。

【図表2】デュケーヌ・ファミリーオフィスが保有する上位10銘柄(2026年6月末時点)
出所:フォーム13Fより筆者作成
【図表3】デュケーヌ・ファミリーオフィスが保有する上位10銘柄(2026年3月末時点)
出所:フォーム13Fより筆者作成

最大の勝負手は「がんの個別化医療」、トップ銘柄ナテラに見る投資哲学

ドラッケンミラー氏が2022年から取得を始め、その後、徐々に保有を増やし、上場株ポートフォリオのトップとなっているのが、ナスダックに上場するバイオテック企業のナテラ[NTRA]である。テキサス州オースティンに本拠を置き、2015年7月にナスダック市場に上場、「がんの個別化医療・早期発見」という医療のメガトレンドに沿った企業である。

ナテラの事業は「オンコロジー(がん領域)」「ウィメンズヘルス(産婦人科領域)」「オルガンヘルス(臓器移植領域)」の3つで構成されている。現在、ナテラの事業をけん引するのはオンコロジーで、主力製品はがんの再発や治療効果を遺伝子レベルで超早期に検知する「Signatera(シグナテラ)」である。

ナテラが発表した2026年第2四半期決算は、売上高が前年同期比37.7%増の7億5280万ドル、最終損益は6700万ドルの赤字だった。オンコロジー領域の検査数は前年同期比で6割近く増えており、平均販売価格も上昇傾向にある。研究開発投資に年間8-9億ドルを投じており、最終損益ベースでは赤字にあるが、売上が急拡大する中、赤字が縮小するという理想的なグロースフェーズにある。

【図表4】ナテラの売上高と最終損益の推移
出所:決算資料より筆者作成

主力製品であるがん再発予測検査「Signatera(シグナテラ)」は、膨大な臨床データと高い特許障壁(参入障壁)に守られており、競合が容易に真似できず、景気後退局面であっても需要が落ちにくい独自の強固なビジネスモデルを築いている。ナテラは単なる検査会社ではなく、これからの10年で、医療のあり方を根本から変える個別化医療(血液によるがんの超早期発見)を支える株として評価を受けているのだろう。

ドラッケンミラー氏の上場株ポートフォリオの2位はバイオ医薬品企業のインスメッド[INSM]だ。両社とも研究開発のフェーズを終えて、製品が市場に浸透し始めるコマーシャル(商業化)ステージに入ってきている。ドラッケンミラー氏は競合がいないニッチな独占市場で、まもなく自社でキャッシュを稼ぎ出すことになる可能性のある企業をピンポイントで保有している。

石原順の注目5銘柄

ナテラ[NTRA]
出所:マネックス証券ウェブサイト
インスメッド[INSM]
出所:マネックス証券ウェブサイト
TSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング)[TSM]
出所:マネックス証券ウェブサイト
アマゾン・ドットコム[AMZN]
出所:マネックス証券ウェブサイト
STマイクロエレクトロニクス[STM]
出所:マネックス証券ウェブサイト