認知症介護でグッズが頼りになる理由
私の祖母と母は認知症で、介護歴は12年以上になります。認知症の家族に対して、優しく模範的な介護を続けていきたいと思っていますが、実際には簡単ではありません。
同じ質問を何度も繰り返したり、何かをお願いして同じミスが続いたりすると、介護している側もイラッとして、親子げんかになってしまいます。けんかした後は「もっと優しく接すればよかった」と罪悪感に苦しみ、この感情の波を何年も繰り返しています。
できれば感情の起伏のない穏やかな介護がしたいものですが、介護者も人間です。介護以外のことでイライラして、それを介護に持ち込んでしまうこともあり、理想通りにはいきません。
そのような時、「感情に左右されることなく」「同じ結果を提供してくれる」便利グッズは介護者の助けになり、介護負担を軽減できるメリットもあります。今回は認知症介護に役立つ3つの便利グッズをご紹介します。
便利グッズ1「デジタル日めくりカレンダー」
軽度の認知症の方によく見られる症状として、こんな質問があります。
「今日は何日?」「今日は何曜日?」
日付や場所、時間などが分からなくなることを「見当識障害」と言い、不安からか1日に何度も同じ質問を繰り返します。実家の居間の壁には1ヶ月分の紙のカレンダーがあり、最初は母にそれを見てもらえば、今日の日付や曜日、予定も理解できるだろうと考えていました。ところが、母はカレンダーが目の前にあるのに、何度も同じ質問をするのです。
最初は不思議に思っていましたが、母はカレンダーの情報だけでは今日が何日なのか分からなかったのです。母が近くにあった新聞に書かれた日付を手がかりに、カレンダーの予定を把握する姿を見て、そのことに初めて気づきました。
しかし、次第に新聞をきちんと片づけなくなり、昨日の新聞を今日のものだと思い、予定を間違える日も増えてきました。そこで、新たな策を取り入れるために実家近くのホームセンターへ行き、デジタル日めくりカレンダー(デジタル電波時計)を購入。紙のカレンダーの真下に設置してみました。
すると、母はデジタル日めくりカレンダーの日付を確認してから、紙のカレンダーに書いてある予定を把握するようになり、「今日は何日、何曜日?」と質問する回数も大幅に減りました。また、デジタルは紙と違って、めくり忘れる心配もありません。
デジタル日めくりカレンダーの種類は豊富にあり、表示されている情報もさまざまです。日時だけでなく、室温や湿度も表示されるタイプがありますが、特におすすめなのは曜日の文字サイズが大きいものです。
なぜなら、介護が始まると日付よりも曜日で予定が決まることが多いからです。例えば「ヘルパーさんは火曜日と土曜日に来る」「デイサービスは水曜日に行く」など、曜日を基準に予定が組まれるようになります。
デジタル日めくりカレンダーは、認知症介護の負担をラクにしてくれるので、ぜひ試してみてください。
便利グッズ2「介護用の偽薬(食品)」
認知症の家族を介護していると、薬を飲んだばかりなのに「まだ薬を飲んでいない」と何度も言われて、介護者が困惑するケースがあります。
そんなときに役立つのが、介護用の偽薬です。中身は薬に似せた食品で、ほのかに甘味のあるタブレットです。薬を包装する銀色のPTPシートに入っているため、外見は本物の薬のように見えます。
この偽薬を飲むことで認知症の家族自身が安心でき、「薬を飲んでいない」と言う回数が減ることもあります。偽薬はあくまで食品ですので、薬の飲み合わせや副作用もありませんし、インターネット上で簡単に購入できます。
常に薬が近くにないと不安に感じる認知症のご家族や、薬を多く飲めば効果があると思い込んでいる方に、偽薬を渡して安心してもらうといった使い方もあります。
便利グッズ3「お手元スピーカー」
認知症の母は、テレビのリモコンをよく紛失します。おそらくリモコンの用途が理解できなくなっているためで、寝室のタンスの中やこたつの中から見つかることがあります。
また、耳の聞こえが悪くなってきたため、テレビの音量がどんどん大きくなり、親子で音量調整の争いが起きます。介護者の中には、テレビの大音量に耐えられずに部屋から出ていく方や、ご近所迷惑にならないか心配している方もいるでしょう。
これらの問題を解決してくれるのが、お手元スピーカーです。名前のとおり、聴力が低下した高齢者の手元に置いて使うスピーカーで、テレビの音が近くで聞こえるようになるため、テレビ本体の音量を下げられます。お手元スピーカーにはテレビのリモコン機能がついている機種もあり、リモコンを紛失しても、お手元スピーカーでチャンネルを替えたり、音量を調整したりできます。
一つのグッズで、認知症介護のストレスが大幅に軽減される場合があります。すべて自分の力で何とかしようとせず、グッズに頼る発想も常に持ち合わせるとよいでしょう。