ご挨拶
2025年1月から『今週の為替相場予想(テクニカル分析)』と題してテクニカルを使った米ドル/円とユーロの分析を担当させていただくことになりました山中です。初回ということで今回は簡単な自己紹介とテクニカルについて考えていることを書かせていただきます。
私は大学卒業後すぐにバンク・オブ・アメリカに入行、為替を中心に債券、デリバティブなどのインターバンク取引をしていました。その後日興シティに移り為替のトレードとセールスを見ていましたが、2社合わせて20年を職業トレーダーとして過ごしました。現在は皆さんと同じ個人投資家として取引を続けながら、証券会社やFX業者さん向けに情報配信をさせていただいております。2023年でインターバンクでの取引年数よりも個人投資家としての取引年数のほうが長くなったことは感慨深い出来事でした。
テクニカル分析はインターバンクの頃からよく使っていました。チャートに全てが示されていると言うチャート至上主義のテクニシャンの方もいますが、私はファンダメンタルズがベースにあり、その流れに沿って取引のタイミングを計る際にテクニカル分析を使っています。また分析手法もあまり複雑なものは使わず、水平線、トレンドライン、チャートパターンを基本にしながら、主に移動平均線を使ってその時のトレンドを判断するやり方です。単純な方法なので誰でも同じような見方をすることが出来ると思います。
2025年の円相場見通し:日米金利差、今後1年での0.75%の縮小が米ドル買い材料の最大要因
上述の通り、ファンダメンタルズありきなので、現在から2025年を通してテーマとなるファンダメンタルズについて簡単に触れておきます。
(1)ファンダメンタルズ:米ドル高に調整が入る可能性
米国がインフレ懸念から利上げを開始した2022年3月以降、米金利の動向が為替相場に与える影響が大きくなってきました。米ドル/円相場で言えば米10年債と日本10年債との利回り差との相関係数が直近では日足ベースでも週足ベースでも0.9を超えていてほとんど同じ動きと言ってもよい状態です。
2025年の1年間を通して12月FOMC(米連邦公開市場委員会)で示されたドットプロットでは米国が0.5%の利下げ見通しと大きく上方修正されました。一方で、日銀会合はハト派な内容となり春闘後に0.25%の利上げが行われる程度という見方がコンセンサスとなってきました。つまり日米金利差は今後1年かけて0.75%しか縮小しないという見方が固まりつつあり、このことが現在の米ドル買い材料の最大の要因になっていると言えます。
また1月20日にトランプ氏が大統領に就任し早い段階で公約の実現に動くと見られます。法人減税は米企業にとって好材料であり、そのことが海外の投資家から米企業への株式投資に動く材料となり、米株高は米ドル高の材料となります。しかし、日米金利差縮小傾向の鈍化も米国株高も既に織り込まれており、今後は2021年1月から4年続いた米ドル高の動きを止める材料探しに目が向く可能性が高いと考えています。
2021年1月からの4年間はバイデン政権の4年と重なっていますが、その前の4年は1期目のトランプ政権であり、2017年から2020年の4年の間に当時のトランプ大統領は米ドル高牽制発言を繰り返しました。2期目では就任早々に関税強化が行われ、中国はそれに対抗した人民元安容認の為替政策を取ると見られます。そうなるとトランプ大統領は改めて米ドル高、特に人民元安の牽制をしてくる可能性が高そうですし、その場合は円安についても言及して来るのではないかと考えられます。
ファンダメンタルズ面ではそろそろ米ドル高に調整が入る可能性を考えたいというのが現時点での筆者の考えです。次にテクニカルについて考えます。
(2)テクニカル:2025年の予想レンジ、米ドル/円140~160円
長期の値動きを考えますので、ここでは月足から見て行きます。

1期目の大統領選から就任式までの3ヶ月(2016年11月~2017年1月)をラインマーカーで囲みましたが、ここでドル高のピークをつけその後はドル高牽制発言も手伝って緩やかな米ドル安トレンドを辿りました。今回の大統領選から就任式までの約3ヶ月の間も米ドル高のピークをつける可能性は十分にありそうです。
この場合、少なくとも20ヶ月単純終値移動平均線(日足、週足、月足とも20期間を見ます)を2ヶ月連続で下回るか、2021年安値からのトレンドラインを下抜いて引けるか、どちらかのトリガーが無いとテクニカルには米ドル安に転じたと判断することは出来ません。しかし、2024年高値の162円手前の水準は既に長期的な高値圏にあると考えられ、米国からの米ドル高牽制発言だけでなく本邦財務省による為替介入の可能性も含め160円の大台超えは警戒水域になると見ています。
また移動平均線を2ヶ月連続、もしくはトレンドラインを下抜ける動きとなった場合の下値の目途はフィボナッチ・リトレースメントで価格目標を計算することが妥当です。週足で2021年以降を拡大して見てみます。起点は2021年安値、終点は2024年高値で計算したフィボナッチ・リトレースメントの38.2%押しと半値押しに注目します。

38.2%押しの139円台前半は2024年9月安値とほぼ一致し、今回も下げる動きが出てきた時の最初のターゲットとなります。キリの良い140円の大台と考えてもよいでしょう。そして次のターゲットは132円台前半です。2023年の3月の押しが130円の大台を若干割り込んだ水準でしたので、こちらはさっくりと130円の大台を意識しておけば良いでしょう。ただ過去20年の年間レンジの平均が約17円、過去10年間でも約17円です。この数年はボラティリティの上昇が目立ちましたが、平均レンジを17円とすると140~160円の20円レンジが妥当だと考えます。
逆にシナリオが大きく外れ米ドル一段高となり、トランプ政権が米ドル高の牽制を行わないとなると162円を超え170円、180円と円安が止まらなくなる展開もあり得ます。しかし、こちらはリスクシナリオのため、メインシナリオはあくまでも米ドル安の流れを考えたいと思います。レンジとしては上記の通りです。
ユーロ相場:欧州の景気は弱く、ドイツ・フランスの政局は悪材料
ユーロについても簡単に分析しておきます。
(1)ファンダメンタルズ:金利差的にはユーロ安・米ドル高の傾向が続きやすい地合い
ユーロ/米ドルでは米ドル/円同様に米国FRBと欧州ECBの金融政策の動向の影響が大きく、FRBが2025年に0.5%の利下げ見通しに対してECBは1%の利下げを行うと見られています。つまり金利差的にはユーロ安・米ドル高の傾向が続きやすい地合いです。さらに、欧州と米国の比較では欧州の景気が弱く、主要国であるドイツとフランスの政局もユーロにとって悪材料ですし、ロシアとウクライナの戦争も地政学的リスクとしてユーロ売りの材料となります。ファンダメンタルズ面ではユーロを買う材料は見当たりません。
(2)テクニカル:ユーロ/米ドルはこの2年ほとんど動きなし
テクニカルにはユーロ/米ドルはこの2年程ほとんど動きが見られません。2024年はまだ終わっていませんが年間レンジは900pips弱、2023年も800pips強と直近でこそユーロ安に動いているものの、決して米ドル高とは言えません。ユーロ/米ドルの20年間の平均レンジが約1700pips、10年間の平均レンジが1300pipsだったことを考えると、逆にもう少し動きが拡大してもおかしくありません。

こちらは2022年安値と2023年高値との半値押しで現在は足踏みしていますが、長期的な反転パターンを形成していることを考えると、61.8%押しの1.02水準を通過点に76.4%押しの0.99台半ば、ざっくりとパリティ(1ユーロ1米ドル)がターゲットになりやすい水準です。戻り高値は2024年にもみあいの中心水準となった1.08水準が考えられます。
2025年のレンジも狭くなりますが、0.99から1.08の900pipsレンジを考えたいところです。そうなると、ユーロ/円も当然下げを考えることとなり、150円の大台を割り込み148円水準をターゲットとした動きになっていくと考えています。

1月6日からは日足チャートを使って翌週の動きを見て行きます。それではどうぞよろしくお願い致します(毎週月曜日更新予定)。