意外と多い、つみたてNISAでの短期解約
資産形成の土台づくりは、例えば投資信託をできるだけ長く保有し、頻繁に売買しないことが大切です。とはいえ、投資は、順調なことばかりが続くわけではありません。
株式市場が好調なこともあれば、時には暴落することもあります。少し株価が上がったからといって解約(利益確定)したり、下がったからといって恐怖心から解約してしまったり、といった行為を繰り返していては、長期的な資産形成はできません。しかし、実際は継続することがなかなか難しいようです。
例えば、つみたてNISAは資産形成の基本である「長期・分散・低コスト+積立」ができるように設計された制度です。それでは、つみたてNISAを利用して投資信託の積立をしている人は順調に積立投資を継続できているのでしょうか。金融庁の「NISA口座の利用状況調査」によると、2018~2020年までに「つみたてNISA」の利用枠で購入された投資信託の買付額の合計は6,862億7,027万円になります(指定インデックス投信が5,416億1,907万円、アクティブ投信など指定インデックス以外の投信が918億1,250万円)。
このうち、2021年までの4年間で1,363億2,495万円が解約されています。これは、購入された金額の約20%を占めます。ちなみに解約の割合は指定インデックス投信が約20%、アクティブ投信など指定インデックス以外の投信が約19%とほぼ同じです。
実際には買付・解約ともに購入した時の金額ではなく、時価評価額で開示されているため、解約された正確な割合はわかりません。ただ、非課税期間20年という長期投資を応援する制度にもかかわらず、積立投資を始めてから4年足らずで解約してしまう人が意外と多いのです。
資産形成を続けるには、“商品選び”+“投資行動”が大切
資産形成においてお金を継続的に増やすためには、商品選びに加え、自分がどのように行動するかが大切です。一般的に、投資信託の収益を表す時に対象とする期間でどれだけ値上がり(値下がり)したかを表す指標として「トータルリターン」を用います(分配金がでているときはそれも加味します)。
これは投資家が一定期間その投資信託を保有し続けたと仮定した場合の収益を示しています。ただ、実際には投資家が実際に得る収益はその投資信託を購入・解約するタイミングによって異なります。そこでその投資信託を保有している投資家が得られた平均的な収益率はどのくらいかを示したものが「インベスターリターン」という指標です(※)。
投資信託を購入する際、「高値掴み」「安値売り」をした人が多ければ、インベスターリターンは低下します。逆に、資金が安定的に流入する投資信託はインベスターリターンが向上します。
例えば、ある投資信託Aの10年のトータルリターンは15.46%(年率)ですが、インベスターリターンは6.7%と、持ち続けていたら得られたリターンよりも8.76%も低くなっています。
その一方、投資信託Bはトータルリターン9.86%(年率)、インベスターリターンは7.77%という結果でした。投資信託のトータルリターン自体はA投信より低いのですが、投資信託を保有している人たちが得られたリターン(平均)は8.77%と投資信託Aを上回っています。
この場合、投資信託Aのように、投信のトータルリターンよりもインベスターリターンのほうが低い投資信託も多くみられます。つまり、いい投資信託を選ぶことも大事ですが、投資を続けるという投資行動が伴わないと、得られたはずの投資信託のリターンを享受できない、ということになるかもしれないのです。
投資信託評価会社であるモーニングスターのウェブサイトでは、商品ごとにインベスターリターンが記載されています。積み立てで購入していく受益者が多い確定拠出年金専用投信のほうが、一般に販売されている投信よりもインベスターリターンは高い傾向があります。
投資を長く続ける3つのコツとは
では、積立投資を続けるにはどうしたら良いのでしょうか。ここでは、いくつかヒントをご紹介します。
1.投資方針書を作っておく
感情が先に立つと、保有する投資信託の価格が下がると怖くなってしまいます。きちんとルールを決めて、それを淡々と実行するのが投資を長く続ける1番のコツです。
例えば、自分なりの「投資方針書」を作成しておき、不安になった時には、それを読み返すと効果があるでしょう。これは『敗者のゲーム』などの著者で知られるチャールズ・エリス氏や投資教育家の岡本和久氏などもすすめている方法です。
投資方針書というと一見難しそうですが、これは「自分がどのような方針で運用するのか」という考えをまとめておくものです。簡単な箇条書きで良いので書いておくと、動揺して売りたくなった時などに読み返すことで冷静になることができます。
<投資方針書例>
【目 的】リタイアまでに老後のお金を作る
【運用期間】60歳までは積極運用、その後は株式の比率を下げる(65歳まで働く予定)
【運用方法】投資信託の積立(つみたてNISAとiDeCoを優先的に利用する)
【資産配分】無リスク資産とリスク資産は半々になるようにする
【商 品】積立てるのは日本を除く世界株のインデックスファンド
日本株は自分で個別株を選んで長期保有。個人向け国債も保有する
【モニタリング】年に1度、年末に「資産配分」と「時価評価額」をチェック
必要があればリバランス
【その他】万一に備えるお金として、生活費の半年分は預金においておく
(投資には回さない)
2.仕組み化する
投資には「今ある金融資産の一部を投資に振り向ける方法」と、「これから入ってくる収入の一部を投資に振り向ける(=積み立て投資)方法」があります。
つみたてNISAやiDeCoなどの制度を利用して、投資信託を積立ていくことは後者になります。最初に「積立額」「商品」を決めて、銀行口座から自動的に買い付けていく仕組みを作ってしまうことで、マーケットが下がった時も自動的に購入していくことが可能です。精神的なハードルを下げる意味でも、自動で投資が続けられるような仕組みを作ると良いでしょう。
3.気軽に話せる仲間を作る
まだリアルのセミナーやイベントは少ないですが、仲間と気軽に資産形成や投資について話せる場があると良いかもしれません(私も2010年から「コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べ(東京)」という草の根交流会の共同幹事をしています)。
そのような会でなくても、学生時代の友人や、会社の同僚で資産形成の話ができる人を見つけると良いのではないでしょうか。対面の研修(企業型確定拠出年金の継続研修など)が復活したら、そのような仲間を探してみてください。意外と身近なところにいるかもしれません。