>> >>【前編】「エドガー・アラン・ポー作品と同じく、答えは目の前にある」

やりたいことは、今やっておくべき

――今、世界的に若者の間でFIRE(経済的自立、早期退職)を目指す動きが広がっていますが、どのように思いますか。

FIREに憧れつつも、欲望に負け、旅行や飲食にお金使ってしまう人の気持ちは理解できます。人間的でいいですよね。一方、FIRE実現のために欲しいものを買わなかったり、人付き合いを制限している人には、疑問を感じます。「今」を犠牲にしながら、株の配当金で生活するシステムを構築したところで、その人に一体何が残っているのだろうかと。

年齢を重ねると、健康な身体といった若い頃はタダで享受できていたものに対しても、コストがかかってしまう。高額な最先端医療で若さをある程度保てたとしても、若者は皆そんなものタダでもっています。それに年をとってから若い頃にやりたかったことをやろうとしても、そもそもエネルギーやモチベーション自体が低下しているでしょうし、実現できるとは限りません。それなら、やりたいことは将来に回さず、今やっておいたほうがいいと私は思います。

今までと全く違うことが将来起こり得る

――『Phantom』では人間がいかに歴史から学ばないか、ということも描かれています。個人投資家は相場の歴史を学ぶべきでしょうか。

もちろん歴史は学ぶべきだと思います。ただ、今までと全く違うことが将来起こり得るということも認識すべきです。例えば、「米国株市場はこれまでずっと右肩上がりだから、今後も上昇が続く」というような最近よく見聞きする論調は、ここ数十年の傾向を都合よく解釈しているだけとも言えますよね。これまでのルールが全く通用しない事態も起こり得るということを念頭に、自分の頭で考えることが大事なのではないでしょうか。

世界経済や株価は予測できませんが、最悪の事態が起きた時の自分の対処方法はコントロールできます。それが唯一、私たちがコントロールできる点とも言えるでしょう。

――具体的にどのように最悪の事態に備えれば良いでしょうか。

例えば、何の予告もなしに資産凍結されるというような事態が起きたとしても、自殺しないで済むような生活を送っていることが大事だと思います。そんな状況でも、自分の得意なことをやって質素な生活を送りつつ、やりがいを見いだせて、友だちもいれば、それで生きていけるかなと。

「お金さえあれば、今の自分の状況から抜け出せる」といった幻想を抱き、お金や投資に期待し過ぎていると、最悪の事態が起きた時に悲惨な目に遭うのだと思います。突然金銭くらい失っても生きていける生活を日頃から送っていることが大事ですよね。

――個人投資家が注意すべきことは? 

最近、レバレッジ型のETFで長期投資をしようとしている人が増えているように感じます。中には、レバレッジの減価する意味を理解しないまま取引している人もいて、危うさを感じています。単にレバレッジをかけたいのなら、より良い方法がいくつかあるわけです。本当は減価で被る損失の可能性を知っていながらも、自分の思惑通りに動くだろうと過信しているのかもしれません。現実から目を瞑り、自分の都合いいように解釈するような行動には気をつけたほうがよいと思います。

――暗号資産など法定通貨以外の価値の広がりについて、どのように思いますか。

私自身は暗号資産などに投資していませんが。既存の通貨が絶対的なものでないからこそ、別のものが出てくるのかなと思います。

ドルや円に期待していても、凄いインフレになったら人々が暗号資産など別のものを信頼するようになるかもしれません。そういった場合、一体自分は何を信用すればよいのか?と思いますよね。でも結局大事なのは、何を信用するかではなく、今お金を使いたいものに対して使っておくことではないでしょうか。どうなるか分からない将来のことを考えるよりも。

経験は買えない

――これまで買ったもので、失敗した経験はありますか?

私は1年半だけ会社勤めをしてから専業作家になったのですが、会社を辞める直前に中古のマンションを購入しました。東京都下の西部エリアで、45平米ぐらいの広さ。ローンや修繕費などを含め月々61,000円を支払いながら23~29歳までの5年半をそこで過ごしたのです。今では、もっと狭くてもボロボロでもいいので、人と会いやすく街からの刺激そのものも多い都心の賃貸に住んでいた方がよかったのではないか…と後悔しています。購入時より50万円ほど高く買い取ってもらえたのですが、金銭的なメリットより経験の方が大事ですので。

――若い世代へのアドバイスをお聞かせください。

今のうちに、たくさん遊んでおいたほうがいいと思います。後から経験は買えないので。周りの友だちと若いうちにしかできない経験がたくさんあります。年をとってから若い友だちを作っても、気を遣われてしまって、自分が若かった時と同じ関係は築けませんし。こういう時によく、「自分への投資」、という言葉が用いられがちですが、若いときの行いを将来への準備のように考えるのが間違いです。今がすべてです。「自分への投資」などケチなことは考えず、主体的な存在になり人目も気にせず好きにやってしまえばいいと思います。

よくよく考えると今述べたことは、若い世代だけでなく、今を生きる全世代の人たちにも通ずることですよね。
 

※本インタビューは2021年8月31日に実施しました。

​写真:池田 博美