2020年からコロナ禍の影響により自宅で過ごす時間が増え、資産形成や投資に関心を持つ人が増えています。つみたてNISA(積立型の少額投資非課税制度)の2021年3月の口座数は前年同期比で65%増えています。

つみたてNISAを利用して投資信託の積立を始めようと、NISA口座を開設した人は、投資を始めるハードルを難なく飛び越えたように思えます。ところが、金融庁が公開している「NISA口座の利用状況調査」で2020年のつみたてNISAの買付額をみると、口座開設者の約32%にあたる98万2789口座では年間の買付金額は0円(※1)。つまり、3割以上の人がせっかく口座を開設したのに、積み立て投資を行っていないのです。せっかく口座を作ったのにもったいないですよね。

つみたてNISAの始め方:決めるべき2つのポイント

私はつみたてNISA口座を開設したけれど、積立投資を始められない理由は主に2つあるとみています。

つみたてNISA、投資対象の選び方

1つ目は商品選びで迷ってしまい、積立投資を始められないケースです。

つみたてNISAの対象は一定の条件を満たした投資信託(株式に投資する投資信託と株式を含むバランス型)とETF(上場投資信託)が対象です。課税口座で購入できる投信に比べると絞り込まれているものの、2021年7月末現在、約200本もあります。ネット証券ではその多くを取り扱っています。

改めて、つみたてNISAの特徴をまとめると「対象となる投資信託の手数料が低い(対象商品はすべて購入時手数料が無料で保有中にかかる運用管理費用<信託報酬>の料率にも上限あり)」「非課税期間が最長20年なので長期で効率的な運用ができる」ことにあります。

商品選びで注目すべき3つの視点

こうした特徴を踏まえると、長い期間をかけて運用していける人は「株式に投資する投資信託」をメインに据えてよいのではないでしょうか。そして、まずは資産形成の土台部分を作っていこうという場合、インデックス投信を活用して「世界の株式にまとめて投資する」ところから始めましょう。

その場合、以下の順番で考えていきます。
(1)どの株価指数に連動する商品にするか
(2)手数料(保有中にかかる運用管理費用<信託報酬>が相対的に低いか)
(3)継続性(安定的に純資産総額がふえているか、資金が安定的に流入しているか)
まず(1)を決めて、そのあと同じ株価指数に連動する投信の中から(2)、(3)を検討します。

世界の株式に投資する3つの方法

●方法1:1本で日本を含む世界の株式にまとめて投資する方法

具体的にはMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(MSCI ACWI)に連動することを目指すインデックス投信や、FTSEグローバル・オールキャップ・インデックスに連動することを目指すインデックス投信を積み立てていきます。

●方法2:日本株と日本を除く世界株式を組み合わせる方法

TOPIX(東証株価指数)に連動するインデックス投信を。
日本を除く地域の株式に投資をする場合は、「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(除く日本、円ベース)」に連動する投信なら、1本で先進国と新興国の株式にまとめて投資できます。

●方法3:日本株、先進国株と新興国株に投資する投信を組み合わせる方法

日本株はTOPIX(東証株価指数)に連動するインデックス投信が候補に。
先進国株はMSCI・コクサイ・インデックス(※2)に連動する投信を、新興国株はMSCIエマージング・マーケットインデックス(※3)に連動する投信が候補になります。

初心者の方からは「複数の投資信託を組み合わせるのは難しい」、「面倒」という声を耳にします。「まずは1本で世界の株式にまとめて投資できる、幅広く分散された商品を購入したい」という場合には1つ目の選択肢になります。

既につみたてNISA以外の口座で日本株(個別株や日本に投資する投資信託)を保有している場合には、日本を除く世界株に投資する投資信託や先進国株に投資する投資信託だけを積み立てていくという選択肢もあります。ご自身の金融資産全体で考えてください。

同じ指数に連動するインデックス投信が複数ある場合には「運用管理費用(信託報酬)が相対的に低い(過去に引き下げ実績があるとなおよし)」、「純資産総額が安定的に増えている」という観点で選びましょう。

商品選びでは投信の評価会社であるモーニングスターのウェブサイト内にある「つみたてNISA総合ガイド(※4)」が参考になります。こちらのウェブサイトではつみたてNISA対象ファンド一覧が掲載されていますが、投資信託をインデックス、アクティブ別に、地域(国内・海外、内外型)や指数の名称(インデクスファンドの場合)などで絞り込むことができます。また保有中にかかる運用管理費用(信託報酬)の低い順番に並び替えることも可能です。

ここではインデックス投信の例を挙げましたが、一部アクティブ投信もつみたてNISAの対象になっています。運用理念や、投資先の企業を選ぶプロセス、運用実績などを調べた上で、共感・納得できる投信があれば、それも選択肢になります。交付目論見書や月次レポートをしっかり読んだり、投資信託の説明会(動画・対面の説明会)があれば聴講・参加したりするとよいでしょう。

つみたてNISAで投資を始めるタイミングの考え方

2つ目はタイミングを計ってしまうケースです。投資というと「相場をみて売り買いするもの」、「安いときに買って上がったら売る」といったイメージがあるせいか、「下がるまで待つ」というように考える方も多いようです。けれど、投資信託を一定額ずつ積み立てていく方法であれば、タイミングを計る必要はありません。毎月(毎週や毎日でも)一定金額ずつ購入していく「ドルコスト平均法」では、下がったときにはたくさんの口数(投信の単位)を購入することができ、高くなったら少しの口数しか購入できない仕組みになっているからです。

仮に基準価額が高いところから始めて、その後下がったとしても、「たくさんの口数を買えてよかった」くらいに考えられるでしょう。というのも、最終的に受け取る額は基準価額と保有する口数の掛け算で決まるからです。

・最高の投資タイミングは誰にもわからない
・株式の期待リターンはプラスである
・積立投資は下がったときにたくさん買える
というふうに考えましょう。

積立投資で大事なのは「タイミング」より「タイム」

積立投資において大事なのはタイミングではなく、「タイム(時間)」です。資産形成の土台づくりとしての投資では、時間を味方につけて、長期でコツコツ元本と運用益を積み上げていくことが大切です。そして、つみたてNISAでは自動的にそうしたことができる仕組みになっています。

【図表】
出所:筆者作成

(※1)「NISA口座の利用状況調査(確報値)」(金融庁、2020年12月末時点・2021年6月15日公表)
(※2)MSCI・コクサイ・インデックス:日本を除く先進国の株価動向を示す代表的なインデックスのこと
(※3)MSCIエマージング・マーケットインデックス:世界の新興国の株価動向を示す代表的なインデックス
(※4)モーニングスターの「つみたてNISA総合ガイド」http://nisa.morningstar.co.jp/