先週のゴールド:続落の展開

金相場は反落した。週明け6月7日の金相場は続伸。米ドル相場の下落が支援材料だった。前週末6月4日発表の米雇用統計が市場予想よりも弱い内容となり、米連邦準備制度理事会(FRB)が近く金融緩和の縮小に動くとの懸念が和らいだ。

一方、イエレン米財務長官が、バイデン米大統領の4兆ドル規模の財政支出計画について、「たとえそれがインフレの上昇を助長し、金利の上昇につながったとしても、米国にとっては良いことだ」と発言したことが上値を抑えた。

6月8日は反落。FRBの緩和縮小時期に影響を及ぼすインフレ統計に注目が集まる中、米ドル高が金相場を押し下げた。米国債利回り低下の影響は限られた。ドル指数は上昇し、他の通貨保有者にとって金が割高になった。一方、米長期国債利回りは1ヶ月ぶりの低水準まで低下した。6月10日は上昇した。

5月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比5.0%上昇と、予想を上回ったものの、FRBの金融緩和縮小をめぐる懸念は弱まった。ただし、一時1,869.46ドルと、6月4日以来の安値を付ける場面もあった。

米新規失業保険申請件数は約15ヶ月ぶりの低水準まで低下した。週末6月11日は下落。CPIの上昇は一時的と見越した投資家の動きにより、米金利が低下したものの、米ドル高が上昇したことが材料視された。この日の米ドル指数は0.6%上昇し、ドル建てで取引される金が割高となった。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールド・トラストの保有高は、6月4日の1,043.16トンから、6月11日には1,044.61トンに増加した。

米商品先物取引委員会(CFTC)が公表するCOMEX金先物市場における最新の大口投機筋のポジションは、6月8日時点で20万9,387枚の買い越しとなり、前週から買い越し幅が4,314枚縮小した。買いポジションが45枚減少し、売りポジションが4,269枚増加したことで、ネットポジションの買い越し幅が縮小した。上値の重さから、売り意欲がやや強まっているように見える。

円建て金相場も続落した。ドル建て金価格の下落が大きく影響した。

【図表1】先週のゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券

今週のゴールド:米金利は低下も米ドルが上昇するか

今週のゴールド投資をする上での3つのポイント
・インフレ指標への関心
・米金利の低下と米ドル相場
・円建て金相場は上値の重い展開に

金相場は重要な節目の1,900ドルから下放れしつつある。現在の金融市場は非常に興味深い動きになっている。前週の米雇用統計を受けて米金利が低下し、それを受けて米ドルが下落したことで、水準を取り戻した。

そして、5月の米CPI上昇率が市場予想を超える水準だったものの、一部の要因で上げたとの認識から持続性がないとの見方が強まった。そのため、金利は低下したものの、金は買われなかった。そして、週末は米金利が低下したものの、米ドルが買われたことで、金相場は下放れの様相となっている。

米金利、米ドル、金の関係を教科書的に見れば、今の市場の動きは説明ができない。今の米金利低下が金上昇につながっていない点は興味深い。その一方で米ドルが買われている。何かが間違っているのだろう。米ドル高=金利低下の関係は、一般的には理解できない。

重要なポイントは、おそらく債券利回りだろう。投機筋の債券先物市場におけるポジション動向を見る限り、彼らの買戻しが金利低下につながっていることだけは確かである。もしそうであれば、彼らの買戻しが終わった後に、なお金利が低下していれば、それは投資家がリスク回避的であるということになる。逆に、金利が低下しなくなれば、投機筋の買戻しが終了したと判断することもできそうである。

その結果、株価下落や金利上昇に伴う米ドル高・金安につながるリスクがある。まさに「リスクパリティ戦略」が引き起こす、金融資産総売りの可能性がある、ということである。2021年の6月中旬以降は、過去データからも株価が調整しやすい時期になると考えられる。もしそのような動きになれば、金利上昇、米ドル高、金下落の関係がより鮮明になりそうだ。つまり、米ドル高が金相場を押し下げる可能性を見ておくことになるだろう。

もっとも、中期的には米中央銀行が長期継続しているハト派的な金融政策が支援するだろうが、それだけでは上値を試すことは難しい。やはり、明確なインフレ基調が必要である。

しかし、5月の米CPIは大幅な上昇だったが、市場ではこの急伸が「一時的」な公算が大きく、FRBの金融引き締めに関する懸念は大幅に弱まっている。CPI上昇の中身が、中古車など一部の要因で説明できる状況だったことも、インフレは一時的にとどまるとの見方につながっている。確かに、そのように考えるのが妥当であろう。

市場は、6月15・16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)に注目している。FRBが「インフレは一時的」との姿勢を維持すると予想されているものの、このところの雇用市場の改善や指標における高いインフレの数字を受け、FRBのハト派的姿勢が後退するリスクもないとは言えない。

しかし、可能性としては低いだろう。そうであれば、株価は維持され、金利は低下し、金も上昇するはずである。しかし、そうならなかった時には、市場に何かしらの「歪み」が生じていると判断できる。つまり、注意が必要ということになる。

また、気になるのは、現在の市場のボラティリティが極めて低い状況にあることだ。これは、市場の動きが限定的であることを示唆しているが、一方でそのような状況は長続きしない。市場の反応はかなり安易になっているように見える。

いずれ市場は動き出すだろう。これは、株式市場に限らず、債券市場、為替市場、金・原油市場でも同じである。近いうちに大きく動き出すだろう。そのトリガーになるのがFOMCになる可能性は十分にある。そうなった場合に、それぞれの市場は上昇するのか、あるいは下落するのかはわからない。しかし、今の市場はかなり楽観的になっているようであるため、注意だけはしておきたい。

5月は、欧米の投資家が金ETFを購入していた。一方で、中国は売却していた。これは非常に興味深い。最近の金投資意欲の高まりは、欧米勢が金価格が上昇したことに追随して購入する「トレンドフォロワーの買い」が中心だったということになる。

一方で、インドと中国など金現物を買う実需筋による逆張り買いの機会は失われている。そして、中国は売り手になっていた。金が安くならないと、世界の2大消費国であるインドと中国の買いは出てこないだろう。そう考えると、実需の下支えはしばらく期待できない。したがって、調整した場合には、一時的に下げが大きくなる可能性も念頭に置いておくべきであろう。

インフレが一過性のものかどうかは、後にならないとわからない。現時点では、一見するとその可能性が高そうに見えるが、それでも2%を超えた水準が続く可能性は高い。それはFRBも認めている。

FRB関係者の一部は、2020年末時点で2%を超えている可能性を以前から指摘している。そうなると、その水準が持続的なものになるかを見ておくことになる。持続的なものになれば、金市場にも相応のポジティブな影響があるだろう。

経済が回復基調にある中でも、FRBが金融緩和縮小に動き始める兆候を示唆しなければ、景気は過熱し、インフレはさらに上昇する。金にとって非常に良い環境が整うことになる。また、株安への備えの意味でも、金を保有しておくことは意味がある点を理解しておきたい。

円建て金相場は6,700円を挟んで上下動している。ドル建て金相場の下落でも、為替相場が円安になっていることで支えられている。値動き自体は小幅なものにとどまっており、次の方向性が出るのを待っているように見える。この水準でレンジを形成し、下値を固めることができれば、上値を試す可能性が高まりそうである。

もっとも、安いところを狙って買おうとしても、それがいつなのかは誰にもわからない。そうであれば、将来のインフレと株価の調整局面に備え、常に押し目は買っていきたいところである。さらに、時間と資金を分散し、積み立てておくことも肝要である。

ポートフォリオのヘッジの観点から、金を買い増しておくことは重要である。今後10年間は、金が極めて重要な資産になるだろう。

プラチナ:続落の展開

プラチナも続落した。6月8日には一時1,177.59ドルまで上昇する場面もあったが、戻り切れずに下落に転じ、6月10日には一時1,127.49ドルまで下落する場面があった。週末は1,150.00ドルで引けた。

米商品先物取引委員会(CFTC)が公表するNYMEXプラチナ先物市場における最新の大口投機筋のポジションは、6月8日時点で2万164枚の買い越しとなり、前週から買い越し幅が3,881枚縮小した。買いポジションが1,346枚減少し、売りポジションが2,535枚減少した。前週は週末にかけて下落し、売りが増えた可能性を指摘したが、その通りになっていた。今回も最新データ発表後に下げており、買いポジションが減少し、売りポジションが増えているものと思われる。最新のデータで確認したい。

プラチナはやはり上値が重いようである。目立った材料もなく、主要な市場関係者によるプラチナ需給見通しも軟調である。金が高値圏を維持する中、先んじて下落に転じている。同じ白金族系メタルであるパラジウムも下げに転じ始めており、これも嫌気されている可能性がある。

もっとも、プラチナはすでに直近安値を下回っており、上値も切り下がっている。値動きだけを見れば、非常に弱いと言える。当面は下値を探る展開になりそうである。

また、プラチナの世界最大の生産国である南アフリカの通貨ランドも、これまでは対米ドルで上昇していたが、その上昇基調に一服感が出ている。これもプラチナ相場の上値を抑える材料として意識される可能性がある。

これらから、まずは下値がどこになるかを見極める必要があるだろう。下値のめどは3月5日の安値1,105.50ドルが候補になるだろう。これを割り込めば、節目の1,100ドルが意識され、さらに1,050ドル、1,000ドルと節目を試す展開になるものと思われる。

今のプラチナ相場には、人気のなさを感じる。そのため、投資家のマネーが流入しないと、反発に転じ、さらに高値を超えるような動きにはなりづらいと言えそうである。

円建てプラチナ相場も軟調であり、重要な節目と見ていた4,200円を割り込んでいる。直近安値の4,100円水準まで下落しており、今後この水準を維持できるか、あるいは割り込むかは極めて重要である。

トレンドは極めて弱く、きれいな右肩下がりとなっている。今は売り圧力が強い状況であり、まずは底値がどこになるかを確認することになるだろう。その上で、下値が固まり、反発するのを待って買いを検討したいところである。まずは、ドル建てプラチナ相場が反転し、4,100円で支えられるかを見極めたい。

もっとも、将来のインフレに備える場合には、金とともに少しでもポジションを保有しておくと良いだろう。現在のような安い水準で、時間と資金を分散しながら買いを実行していくと良いだろう。一度にすべての資金を投入せず、徐々に買い下がっていくと良いと思われる。それさえ守ることができれば、いずれ反発に転じた時に、この分散による買いが効果を発揮するだろう。

【図表2】プラチナ 縦軸:円建てプラチナ/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券

シルバー:反発の展開

シルバーは反発した。金やプラチナが軟調な展開となる中、堅調さを維持した。下値を切り下げることなく推移し、週末には一時28.29ドルまで上昇する場面が見られた。週末は27.89ドルで引けた。

米商品先物取引委員会(CFTC)が公表するCOMEX銀先物市場における大口投機筋のポジションは、6月8日時点で4万9,806枚の買い越しとなり、前週から買い越し幅が2,289枚拡大した。買いポジションが1,022枚減少し、売りポジションが3,311枚減少した。

投機筋は売りポジションを減らしており、これがネットの買い越し幅の拡大につながっている。一方で買いポジションも減らしており、今後、強気相場に入るためには買いポジションの増加が不可欠な状況にある。この点を見極めることになるだろう。

銀相場は相対的に堅調さを維持している。特段の材料があるわけではないが、基調が崩れないことから、投機筋が買戻しを行っているようである。ただし、上値を積極的に買う材料はなく、あくまで一時的な動きにとどまる可能性もある。

もっとも、これまでも解説しているように、銀相場は投機的な動きになりやすい傾向がある。特に欧米の投資家に人気があり、昔から銀相場を好んで取引する向きも少なくない。また、インフレヘッジとして買われる金と同時に銀も購入する投資家も少なくない。これらから、金相場が大きく崩れなければ、引き続き買いが入る可能性はある。まずはそのような展開になるかを確認したい。

現在は26.50ドル前後が下値になっている。これを割り込むと、中期的な基調が崩れることになる。下げに転じた場合には、この水準を意識しておきたい。

円建て銀相場は上昇している。ドル建て銀相場の上昇に加え、為替相場が円安水準で推移していることが背景にある。98円を割り込まずに下値を切り上げており、状況は悪くないと言える。これで102円を超えると値動きが大きくなり、新たなステージに入るものと思われる。そのような動きになれば、その動きについていく形で買いを検討しても良いだろう。

一方、下げた場合には、98円を維持できるかを確認したい。その上で、押し目買いを検討したい。98円を割り込むと、2円単位で水準を切り下げていくものと思われる。その場合には、ゆっくりと資金と時間を分散して買い下がっていくことも検討したい。94円前後で下げ止まれば、反発の可能性も出てくるだろう。

また繰り返すように、銀相場は他の貴金属と比較してボラティリティが高いため、保有量は金の3分の1あるいはそれ以下に抑えたほうが良い。その上で、とにかく時間と資金を分散し、ポジションを構築していくことが肝要である。

【図表3】シルバー 縦軸:円建てシルバー/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券