先週のゴールド:続伸の展開

金相場は続伸した。週初から上昇し、4ヶ月超ぶりの高値をつけた。インフレ懸念から株価が下落し、米国債利回りは引き続き低調となったことから、慎重な投資家は金を選好する動きが加速した。

また、対ユーロでの米ドルの下落も材料視された。4月の米住宅着工件数は前月比9.5%減と市場予想を下回った。材木価格の上昇などが響いたと指摘され、インフレへの思惑から金が買われた可能性が指摘されている。

5月19日公表のFOMC議事要旨を受け、米長期金利の上昇などから上値が抑制される場面も見られた。ただし、引き続きインフレ懸念からの買いに加え、対ユーロでの米ドル下落を背景に、一時1,891. 30ドルまで上昇する場面があった。

また、金のインフレヘッジとしての地位を脅かすとされていた暗号資産(仮想通貨)ビットコインの急落も金の見直し買いにつながった可能性がある。

5月20日に発表された5月のフィラデルフィア連銀製造業景況指数は低下したものの、週間の新規失業保険申請は改善し、強弱まちまちの結果だったことから、指標による金相場の反応は限定的だった。週末5月21日の金相場は続伸。堅調な米製造業関連指標を受けたドル相場の反発が上値を抑えた。週間では3週連続の上昇となった。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールド・トラストの保有高は5月14日の1,028.36トンから、5月21日には1,042.92トンに増加した。徐々に増加に転じており、投資家はインフレに備えて動き出した可能性が指摘できる。

米商品先物取引委員会(CFTC)が公表するCOMEX金先物市場における最新の大口投機筋のポジションは、5月18日時点で19万8,889枚の買い越しとなり、前週から買い越し幅が6,634枚拡大した。買いポジションが8,106枚増加し、売りポジションが1,472枚増加した。投機筋も徐々に買いを増やしている。

円建て金相場は続伸した。ドル建て金価格の上昇を受けて水準を切り上げた。

【図表1】先週のゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券

今週のゴールド:インフレに備えだした投資家

今週のゴールド投資をする上での3つのポイント
・米金利低下とドル安基調
・インフレ懸念と米実質金利の動向
・円建て金相場は高値圏で推移へ

金相場は高値圏を維持している。市場動向を見ている限り、売りづらくなりつつあるように見える。投資家の買いも入り始めており、下値は堅くなってきている。インフレを意識した買いが入っていることは、少なくとも金相場を支えることになるだろう。

このように、金市場を取り巻く環境は、徐々にポジティブになっている。米金利が安定しており、米ドルも極端な動きにはなっていない。インフレ懸念は徐々に強まっている。

さらに、最近のビットコインなど暗号資産(仮想通貨)を取り巻く環境の悪化は、少なからず金相場のサポート要因になりそうである。米規制当局は暗号資産に対して監視の動きを見せ始めている。新たな法案や規制などが講じられると、投資家はこれを嫌気して金に資金を移す可能性もあるだろう。

暗号資産と金の投資家層は違う可能性が高いが、資金の置き場に困った投資家が、新たな投資家として金市場に流入する可能性もゼロではないだろう。この点も念頭に置いておきたい。いずれにしても、今後はインフレ時に優位性が高まる金への投資は確実に増えざるを得ないだろう。

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は5月20日、暗号資産について、「利用者や金融システム全般に潜在的なリスクをもたらす可能性がある」とした上で、中銀デジタル通貨に絡む利益やリスクに焦点を当て、デジタル決済に関する考え方の概要をまとめた参考資料を2021年夏に公表するとした。手続きの一環として意見公募も行う予定である。

また、「中銀のデジタル通貨が消費者や企業に資することを確認したい」とし、「暗号通貨は価値の変動が大きく、これまでのところ便利な決済手段としては機能していない」とした。

また、技術革新に伴い「適切な規制と監視の枠組みにも注意を払う必要がある。これには銀行や投資会社、その他の金融仲介機関に適用される伝統的な規制の枠組みから外れた民間の新興企業も含まれる」とした。
ボストン連邦準備銀行は現在、マサチューセッツ工科大学(MIT)と協力して中銀デジタル通貨に関する研究を行っており、第3四半期にもその成果を発表する予定である。

また、米財務省は5月20日、米バイデン政権の税制改革案には1万ドル以上の暗号資産を送金する場合の内国歳入庁(IRS)への報告義務が盛り込まれていると発表した。

これに先立ち、米電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は5月19日、ツイッターでビットコインの保有分を売却しないとのメッセージを発信。また、米投資会社アーク・インベストメント・マネジメントを率いるキャシー・ウッド氏は、依然としてビットコインが50万ドルになると見込んでいると表明した。

今後、米国から暗号資産に関する様々な動きが急速に出てくる可能性がある。これまで明確になっていなかった暗号資産の扱いが明確化されることで、今後の暗号資産の位置付けが決まることも十分に想定される。その際の暗号資産の値動きと金市場に与える影響には注意が必要である。

一方、長期的にはインフレがテーマになることは確実である。したがって、金に対するスタンスは全く変わらない。実質金利が低下している状況で金が本格的に買われていないのは、まだ投資家がそこまで頭が回っていないからであろう。

今後の最重要テーマは長期的なインフレである。インフレヘッジの代表選手である金を売るという選択肢はない。これからも徐々に積み増していくのが良いだろう。その意味では、金は手放してはならない最も重要な資産の1つであると言えそうだ。

短期的には買われすぎ感もあり、高値をどんどん更新する動きにはなりづらいかもしれない。それでも高値圏を維持している。ビットコインからの資金流出で、投資資金が金に流入し始めている可能性もある。

いずれにしても、少し長めの上昇基調に入った可能性が高そうである。また、2020年8月の高値2,072.49ドルを試す素地ができつつあるように見える。金相場が短期的に上がりすぎる前に、早めに仕込んでおくことが肝要である。

インフレ時における金投資に優位性があることは、過去データからも明確であり、重視しておきたい事実である。投資家はまだそこまで見通せていないからこそ、本格的に資金を金に振り向けていないのだろう。いずれにしても、今後はインフレ懸念が高まり、金にはヘッジニーズが高まるだろう。株式市場から安全資産への逃避の動きも出てくるだろう。

バンク・オブ・アメリカ(BofA)が5月21日に公表した週間資金フロー調査によると、投資家は物価上昇に備えたほか、金利上昇観測の影響を受けやすいテック株のファンドから資金を引き揚げている。BofAの5月ファンドマネジャー調査によると、投資家はテック株に対するオーバーウエートポジションを3年ぶりの低水準まで引き下げている。

5月19日までの週は、テック株ファンドから2018年12月以来の大きさとなる11億ドルが流出し、金ファンドには13億ドルが流入した。また、米物価連動債(TIPS)ファンドには20億ドルが流入し、24週間で最大となった。前週も19億ドルが流入していた。

新型コロナウイルス流行を背景とする前例のない景気刺激措置は今やインフレ懸念を引き起こしており、BofAの調査では、市場にとって最大のテールリスクはインフレと位置付けられている。このように、投資家には徐々にではあるが、インフレの備えを進め始めている動きが出てきている。

米国債利回りが現状水準にとどまるようであれば、投資家が金を選択する可能性がさらに高まるだろう。米10年債利回りが抑制されるようであれば、無利子の金を保有する機会費用が低下することになる。

インフレに関するFRBの姿勢は変わらないだろう。米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では、テーパリングに関する議論の開始について触れられていたが、それは当然であろう。しかし、利上げはまだ相当先になる。緩和的な政策とインフレで、金はますます上がりやすくなるだろう。

金相場は重要なポイントだった1,850ドルを上抜けている。これまでインフレを全く懸念ぜず、金を安値で手放し続けてきた株式投資家も、徐々に金に目を向けざるを得なくなるだろう。安いときに仕込むことが重要であることを繰り返し指摘してきたが、その機会を逃すだけでなく、売却していた投資家は少なくない。このように、安値で買いそびれた投資家は世界に多く存在する。そのような投資家が買い始めれば、さらに金相場は水準を切り上げていきそうである。

結果的に、今回もインドと中国のバーゲンハンティングが成功したということになりそうである。その中には、一部の日本の投資家もいるだろう。これらのアジア勢は安いときに金を買うバーゲンハンターである。

一方、欧米の投資家・投機家はトレンドフォローでの買いを好む傾向がある。したがって、価格が上げてくると買いが入ってくる。彼らの買いが水準を押し上げてくれるのだから、ありがたい存在である。

いずれにしても、長期的にはインフレへの対処をできるだけ早く行うことが肝要である。また、金投資は株式投資のヘッジであることを忘れないことである。長期的に積み立てで、ゆっくりと買っていく方針を継続したいと考えている。

円建て金相場は6,600円を超えてきた。徐々に水準を切り上げており、買いづらい動きとも言える。前週は「買いづらい相場ほど上がりやすい」と指摘しておいたが、今の相場はまさにその典型であると言えそうである。

これでドル建て金相場が上昇基調に入ると、ますます買いづらくなるだろう。だからこそ、分散して徐々に積み立てておくことが肝要なのである。今後も時間と資金を分散し、ゆっくりと買っていくようにしたい。

また、「押し目買い待ちに押し目なし」の状況になる可能性が高まっているため、少しでも押し目があれば、その機会を逃さずに買っていくことも重要だろう。金を保有していない場合には、少しでも早く金を保有することを検討したいところである。

また、保有している場合には、ゆっくりと時間を分散して保有量を積み増していけば良いだろう。金はポートフォリオのヘッジになる。そのため、株価の調整やインフレに備え、常に保有しておきたい。これが世界の資産運用の常識と考えられる。今後10年間は、金が極めて重要な資産になるものと考えている。

プラチナ:続落の展開

プラチナは続落した。週初は戻りを試す場面もあったが、買戻しが続かず、週末にかけてほぼ一貫して下落した。週末には一時1,163.50ドルまで下落し、週末は1,166.50ドルで引けた。

米商品先物取引委員会(CFTC)が公表するNYMEXプラチナ先物市場における最新の大口投機筋のポジションは、5月18日時点で2万5,814枚の買い越しとなり、前週から買い越し幅が1,453枚縮小した。買いポジションが864枚減少し、売りポジションが589枚増加した。週後半にさらに下落していることから、投機筋がさらに売り込んでいるかを確認したい。

プラチナは節目の1,200ドルを割り込み、さらに重要なトレンドラインが位置していた1,190ドル前後をも割り込んだ。そのため、1,120ドル前後までの下落となる可能性がある。テクニカル的には下げ余地も残っており、今週はさらに水準を切り下げるのかを注視しておきたい。

金相場は高値圏を維持しているが、プラチナ相場の下げは意外感がある。一方で、同じ白金族系メタルのパラジウムも高値から大きく下げており、その影響を受けている可能性がある。

パラジウムは5月4日に付けた過去最高値の3,017.18ドルから下げており、先週末は2,783.73ドルで引けている。プラチナ相場はこのような大幅安の影響を受けた可能性が高そうである。世界最大のプラチナ生産国である南アフリカの通貨ランドが高値圏で推移していることから、為替要因などで下げたわけではないことだけは確かだろう。

一方、英調査会社メタルズ・フォーカスは、白金族系メタルのパラジウムの2021年の需給バランスが、約100万オンスの供給不足となり、価格が平均で前年比37%高の3,000ドルと、過去最高を更新するとの見方を示した。

また、プラチナは投資需要もすべて考慮された場合、6万8,000オンスの供給不足に陥るとした。また、価格は前年比36%高の平均1,200ドルと、2014年以来の高値になると予想した。

パラジウムとプラチナは自動車メーカーで、有害な排出ガスを中和する排気装置に使われる。この他、プラチナは宝飾や投資の対象にもなる。白金族系金属は世界的な経済成長の回復と自動車の排出ガス基準厳格化の恩恵を受けている。基準厳格化で、自動車メーカーは1台当たりの金属使用量を増やすことを余儀なくされている。

しかし、これらの材料は、今のプラチナ・パラジウム市場ではあまり材料視されていないようである。

欧州自動車工業会(ACEA)が5月19日発表した4月のEUの新車販売台数は、前年同月比218.6%増の86万2,226台と、2ヶ月連続のプラスだった。新型コロナウイルス対策の規制措置の影響で2020年4月が76.3%減と過去最大の減少率を記録した反動で大幅増となった。ただし、販売台数は、コロナ危機前の2019年4月の約75%の水準にとどまっている。

欧州でメインで利用される自動車はディーゼル車である。そのディーゼル車から排出される窒素化合物を除去するための自動車触媒の原料となるのがプラチナである。今後はディーゼル車の販売台数の伸びの鈍化が懸念されている。世界的なクリーンエネルギーへとシフトする動きは、プラチナ需要の減少を想起させる。この材料がプラチナ相場を抑制する可能性がある点は、今後の重要な材料として認識しておく必要があるだろう。

円建てプラチナ相場は下落した。ドル建てプラチナ相場につれる形で、ほぼ一貫して下落しており、基調は弱い。4,300円前後にはサポートも見えるが、これを割り込むと4,200円まで下落しそうである。高値を超えられずに下げているだけに、目先は調整が進みそうである。

もっとも、いずれ水準は回復していくだろう。まずは4,200円のサポートで下げ止まるかを確認したい。その上で、押し目買いのチャンスをうかがいたいところである。

プラチナについても、金と同様に将来のインフレに備えて、少しでもポジションを保有しておくと良いだろう。押し目買いの好機を逃さないことが肝要である。時間と資金を分散しながら、徐々に買い下がっていくと良いだろう。一度に資金のすべてを投入せず、分散して買っていくことが肝要である。

【図表2】プラチナ 縦軸:円建てプラチナ/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券

シルバー:小幅反発の展開

シルバーは小幅に反発した。5月18日には一時28.74ドルまで上昇する場面があったものの、買いは続かず、その後は徐々に水準を切り下げ、週末は27.52ドルで取引を終えた。

米商品先物取引委員会(CFTC)が公表するCOMEX銀先物市場における大口投機筋のポジションは、5月18日時点で5万981枚の買い越しとなり、前週から買い越し幅が1,862枚縮小した。買いポジションが243枚増加し、売りポジションが2,105枚増加した。週末にかけてやや下げており、投機筋がさらに売り込んでいるかを確認したい。

銀相場のトレンドは依然として崩れていない。27ドルにあるサポートを維持できていれば、基調は維持されていると判断できる。もっとも、いまの銀相場の堅調さの背景には、金相場の強さがあると言えそうである。銀独自の材料が見当たらない中、まずは金相場の値動きを注視することになるだろう。

現時点では、やや調整に入りそうな雰囲気である。金相場が反転し、下落に転じた場合には、27ドル割れから調整し、26ドル程度までの下落となる可能性もあるだろう。また、株価動向にも注意が必要である。

株価が崩れた場合には、工業用需要が主体である銀は売られやすくなる。その場合には、ボラティリティが高くなり、価格変動も大きくなるだろう。このような銀相場の特性を理解した上で、今は慎重に見極めるようにしたい。

円建て銀相場は一時102円を超える水準をつけたものの、その後は水準を維持できず、100円割れの水準まで下げている。ただし、現時点では3月末からの上昇トレンドは維持されている。

95円前後を割り込めば、基調転換と判断できるが、それまでは押し目買いの機会を探っていきたいところである。98円から95円程度を買いのタイミングと判断し、徐々に買いを積み上げていきたい。

何度も繰り返すようだが、時間と資金を分散し、ポジションを構築していくことが肝要である。また、銀相場はボラティリティが相対的に高いため、保有量は金の3分の1程度に抑えたほうが良いだろう。

【図表3】シルバー 縦軸:円建てシルバー/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券