貴金属投資のメリット・デメリット

私は、貴金属に投資する意味は、資産ポートフォリオの保全にあると考えている。なぜなら、貴金属自体に金利はつかず、また配当もない。したがって、金利が上昇すると保有コストがかかり、その分だけ損失になる。また、配当もないため、株式のように株価が変動しなくても配当分が収益になるといったこともない。つまり、貴金属は保有していること自体で収益が上がるものではない。

収益を得たい場合にはキャピタルゲイン、つまり値上がり益を求めるしかない。しかし、それでも金を中心とした貴金属を保有する意味は十分にあると私は考えている。それは、資産ポートフォリオの保全のためだ。

例えば、保有している資産が株式だけの場合、株価の変動によりポートフォリオの価値は日々変動する。中にはその動きに一喜一憂する投資家もいるだろう。また、株価が上昇基調にあるときには問題ないものの、いったん急落すると資産価値が大きく棄損し、心理的に不安定になることもないとは言えない。そうなると、資産価値が痛むだけでなく、正しい判断もしづらくなり、最悪の場合には投資判断を誤るリスクも出てくるだろう。

このような事態を避け、心理的にも、資産価値の面でも安定した状態を維持するために、私は資産ポートフォリオに金を中心とした貴金属を組み入れることを以前からお勧めしている。

このことは世界でも一般的であり、富裕層などは金に加え、銀への投資も行っている層もいる。特に米国の投資家は、金と並んで銀を選好する傾向が強い。著名投資家も金と同時に銀を投資対象に挙げる向きが少なくない。

富裕層が実践、インフレによる資産価値の目減りを防ぐための考え方

なぜ彼らがこのような投資行動をとるかといえば、インフレによる資産価値の目減りを防ぐためである。1980年まで、世界ではインフレが常識だった。しかし、1981年以降、金利は低下傾向に入り、2020年まで40年間もその傾向が続いた。そのため、多くの投資家は金利上昇やインフレのリスクに無頓着になっているようだ。しかし、年配の欧米の投資家や代々資産を受け継いでいる資産家たちは、インフレの怖さを知っている。したがって、今も金や銀への投資を継続している。

インフレリスクに備えることは何も彼らのように巨額の資産を保有している投資家だけが考えればよい問題ではない。一般の投資家でもインフレになれば、保有する資産価値が目減りするのは同じである。したがって、私は少しずつでも貴金属のポジションを積み上げたほうがよいのではないかと考えている。

一般的に投資可能な貴金属には、金・プラチナ・銀があるが、プラチナはインフレとの相関が実は金よりも高い。したがって、今後インフレが強まると判断するのであれば、金と併せてプラチナにも投資するとよいだろう。

今後は、貴金属の代表である金への関心がますます高まると考えられる。世界各国の中央銀行は、新型コロナウイルス感染拡大の影響による経済活動の停滞を支えるため、大量の資金供給を行っており、これを当面続ける姿勢を鮮明にしている。

また、各国政府も米国を中心に巨額の財政出動を行い、経済を支えている。米国では1.9兆ドルの追加経済対策に加え、さらにインフラ投資計画も進められている。このような財政悪化は、通貨価値の目減りにつながると考えるのが常識的であろう。財政出動を最も積極的に行っているのが、世界で唯一基軸通貨である米ドルを発行できる米国である。米ドルの価値が棄損すれば、その相対としてドル建て金価格が上昇すると考えられる。

そのほか、自国通貨の価値に不安を持つ新興国は、金を外貨準備に加え、保有量を着実に増やしている。これまで米ドルを外貨準備の中心に据えてきたが、彼らも不安に感じているのだろう。中国やロシア、インドなどの新興国による金買いが今後も止まることはないと私は考えている。

市場混乱時への事前の備えや将来のインフレに向けて考えておきたいこと

さらに、金融市場の不安定さに備える意味でも、金には根強い需要がある。2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)や、2020年のコロナショックなど主要市場が混乱した際、価格が最も早く立ち直ったのは金である。このような金融市場が混乱に陥る前に、金を保有しておくことが重要であることは、過去の例からも明白である。

また、以前であれば、金への投資は現物あるいは先物市場を通じて行なう必要があり、個人投資家には金投資はハードルが高かった。しかし、今は金上場投資信託(ETF)などを通じて、証券取引所で取引が可能であり、株式と同じように金を保有することができる。このような、金取引におけるインフラの整備も金取引の拡大につながっている。

今後は新興国がより豊かになり、資金を金に振り向ける動きが加速していく可能性もある。このように、金需要が将来的に増える材料には枚挙に暇がない。金利が上昇すれば、確かに金価格は抑制されるが、その背景がインフレであれば、最終的には実質的な金利が抑制され、金価格の価値はむしろ上昇することになる。将来のインフレを想定する投資家は、金への投資を検討して備えるのが賢明だと思う。

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後編では、キャピタルゲインを狙ううえで知っておきたい貴金属(金、プラチナ、銀)のそれぞれの特徴や、投資の注意点について解説します。