先週のゴールド:大幅続落の展開

金相場は大幅続落した。米ドル高と投資家のリスク選好意欲の拡大による投資マネーの流出が続いている。3月4日には2020年6月以来、初めて1,700ドルを割り込んだ。

米国債利回りの急上昇について、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、直ちに金利上昇の抑制に取り組む姿勢を示さなかったことを受けた米ドル高と米国債利回り上昇が圧迫材料となった。1兆9000億ドルの景気刺激策が米経済に注入されることから、将来はインフレ環境となる可能性があり、金相場には良い材料になるとの見方もあるが、これも金売りの動きに押されている。

また、新型コロナワクチンの接種で早期景気回復への期待感が高まったことも、安全資産である金の売却につながった。週末3月5日には、一時2020年6月8日以来の安値となる1,686.40ドルを付ける場面もあった。2月の米雇用統計が予想を上回り、米ドルと米国債利回りが上昇したことが背景にある。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は2月26日のは1,093.54トンから、3月5日には1,069.26トンに減少した。金市場からの資金流出の動きはさらに加速しており、投資家の金離れの動きが確認できる。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX金先物市場における最新の大口投機筋のポジションは、3月2日時点で18万9638枚の買い越しとなり、前週から買い越し幅が2万6095枚縮小し、買い越し幅は20万枚の大台を下回った。買いポジションが1万8548枚減少し、売りポジションが7,547枚増加した。手仕舞い売りが加速し、新規売りも増えるなど、引き続き弱いパターンが継続している。

円建て金相場は下落した。ただし、米ドル/円が円安水準で推移し、これが下値を支えている。

【図表1】先週のゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券

今週のゴールド:下値を探る展開

今週のゴールド投資をする上での3つのポイント
・株価動向と投資マネーの流出
・米金利上昇の金市場への影響
・円建て金相場は下値固めへ

金相場は大幅続落となり、下値が見えない状況にある。1,700ドル前後は、過去にもみ合ったことがある水準であり、ここがサポートになるかどうかをまずは確認することになるだろう。

今は投資マネーが金市場から流出している状況であり、下値を見出しにくい状況にある。このような不可抗力的な動きが出てしまうと、金相場もどの水準を下値の目処とすればよいのか、判断が非常に難しいと言える。世界経済が前進しているとの楽観的な見方から引き続き債券利回りは上昇し、金への売りが鮮明となっている。

また、銀やプラチナも売られるなど、貴金属市場からの資金流出が鮮明である。これまで堅調に推移していただけに、その反動もあるだろう。当面は厳しい状況が続くことを前提に見ていくことになる。

2月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が予想を上回った。巨額の景気刺激策と新型コロナワクチン接種の普及に伴う迅速な景気回復への期待が高まったと言える。堅調なデータを受け、米10年債利回りは2020年2月以来の高水準に達し、ドルインデックス(ドル指数)も上昇した。これではなかなか金相場は上がらないだろう。

市場では、金利上昇=金価格下落と考えているようである。しかし、現在の金利上昇が、将来のインフレ率の上昇を前提としているのであれば、この見方は誤りであろう。

真のインフレ状況が見られたのは1980年と40年も前だが、その状況になった際、金価格と金利はともに上昇した。金価格は1980年1月に835ドルまで上昇したが、その際に米実質金利はインフレ率の上昇によりマイナス約5%にまで低下し、これが金相場を押し上げた。

真のインフレになれば、このようなことが起きると考えられる。今の金利上昇は、本格的なインフレの序章でしかないとすれば、今の投資家による金売りという投資行動は正しくない可能性がある。

ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、金ETF(上場投資信託)の2月の保有高が前月から84.7トン(46億ドル相当)減少した。債券利回りの上昇によって、投資家の金への関心が後退した。

コロナ禍において、投資家が安全資産としての金の保有を増やしたため、金ETFは急速に拡大した。低金利によって、保有していても金利が付かない金の投資妙味も大きくなり、金相場は2020年8月に過去最高値の2,072.50ドルに到達した。しかし、その後は、経済回復への期待の高まりと米国債の利回り上昇を背景に下落した。

2月末時点の金ETF保有高は3,681トン(2070億ドル相当)だった。このように、投資家は金離れを加速させているが、このような行動は、目先の金利上昇を背景とした、極めて近視眼的な判断に基づくものであると考えられる。

パウエルFRB議長は、雇用が回復するまでは金融緩和策を維持するとの見解を改めて示している。しかし、現在の金利上昇を容認するかのような発言は投資家を失望させた。これにより米10年債利回りが急上昇し、金相場は1,700ドルを下回る水準まで売り込まれている。

投資家はパウエルFRB議長が最近の金利上昇の状況に対応すると期待していたが、梯子をはずれされた格好である。これにより、株式市場も不安定になっている。しかし、FRBによる追加緩和には期待しないほうがよいだろう。今後、金利が低下するときは、景気が悪化する時である。むしろ「悪い金利の低下」になるだろう。そうなれば、株式市場も下落し、安全資産である金にも買いが入ってこない可能性がある。

その意味でも緩やかな金利上昇局面のほうが、株式市場にも金市場にも好都合であろう。そのような動きであれば、FRBも容認するだろう。その結果、市場が期待するような「ツイスト・オペ」のような金融政策が導入されることもないだろう。

このような状況下で、投資家が金に対するスタンスを変えるかどうかが、金相場の反発の最大のポイントになる。1,700ドル割れで値ごろ感が出てくるかどうかだが、現時点ではそれもなかなか難しそうである。

まずは底値がどこになるのかを見極めることになろう。今後も米金利が上昇すれば、金相場に下落圧力がかかる可能性がある。その可能性は低くないだろう。その前提で金相場を見ていくことが肝要である。投資家の資金は金市場から流出し続けているが、目先の動きを前提に金への対処を大きく変える必要はないと考えている。

FRBが金利上昇を容認したとの見方が出てきているが、これは将来のインフレの可能性を考慮すれば当然である。いずれ市場は、金利上昇に慣れていかなければならない。景気回復とインフレでは金利が上昇するのは当然である。いずれインフレヘッジとしての金の魅力に気付かざるを得ない時期が来るだろう。

ちなみに、インフレ率が3%を超えると、金のリターンが格段に上昇することが、過去のデータからわかっている。このような本格的なインフレの状況になれば、今のような市場の反応は変わらざるを得なくなるだろう。インフレが高まり、実質金利が低下したときには、すでに金相場が上昇しているはずである。

したがって、長期的な視点では、今のような安値のうちに、押し目を買うことを検討したいところである。投資家はこれまで、低金利を前提に投資を行ってきただけに、現在の金利上昇に対して驚きと不安があるだろう。しかし、40年間低下し続けてきた金利は、今後20年間は上昇する可能性があると私は考えている。今後は「金利は上昇するもの」という考え方が必要になるだろう。

円建て金相場はドル建て金相場の下落を円安が支えている状況である。円安によって辛うじて下げ渋っているが、反発に向かうにはドル建て金相場が反発することが不可欠である。したがって、まずはドル建て金相場の状況を確認することが肝要である。

すでに節目の6,000円を割り込んでいるが、この水準自体に大きな意味はない。まずは、目先の下値である5,900円水準を固め、反発に向かうかを確認したい。

いずれにしても、将来のインフレと資産運用におけるリスク分散の観点から、今後も継続的に金への投資を継続することが肝要である。資金と時間を分散し、丁寧にゆっくりと購入することが大切である。

今は株式と金の価値に差が開いているだろう。そうなった場合には、同じ比率に戻すために、株式を売却し、金を購入することが肝要である。これを、ポートフォリオの「リバランス」という。四半期に1度程度でよいので、このような調整をするとよいだろう。そのうえで、今後も株式投資と同時に金投資を継続したいところである。

プラチナ:大幅続落の展開

プラチナは大幅続落した。金利の上昇で金相場が大きく下落したこともあり、プラチナへの売りも継続した。週末には一時1,105.50ドルまで下落する場面もあった。週末は1,129.74ドルで引けた。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するNYMEXプラチナ先物市場における最新の大口投機筋のポジションは、3月2日時点で3万533枚の買い越しとなり、前週から買い越し幅が4,434枚縮小した。買いポジションが4,143枚縮小し、売りポジションは291枚増加した。買い手がポジションを縮小させる動きが続いている。

プラチナも激しい下落に見舞われている。節目の1,200ドルを下回り、下値を模索する展開となっている。週末の時点では、重要なサポートである1,130ドル前後で下げ止まっており、ここを維持できれば反発する可能性がある。ただし、これはあくまでテクニカル面から見た水準であり、投資マネーが大きく動けば、このような水準はほとんど意味をなさないだろう。

今の市場はそれくらい大きな動きになっている。これまでファンダメンタルズ面を材料に買いが優位と見ていたが、マネーの動きがこれだけ強いと、そのような背景も簡単に無視されてしまう。

今はまさにそのような状況であり、投資家の売りがある程度終わるまでは反発は難しいと考えておきたい。とは言え、目先のターゲットとしては、節目の1,100ドルや1,050ドル、さらに1,000ドルが重要なポイントになるだろう。将来の実需を考慮すれば、1,000ドルまでの押し目では、長期的な視点で徐々に買いを検討したいところである。

円建てプラチナ相場は高値からの下落が続いている。相場としては、短期間での急騰の調整の典型的なパターンになっている。こうなると、まずは下値を確認することが先決である。そのうえで、どの水準で下値を固めることができるかを確認することになるだろう。

今は安易に買い下がるのは控え、まずは下値の確認を優先したい。そのうえで、上記のドル建てプラチナ相場の水準を意識しながら、押し目買いのチャンスをうかがいたいところである。節目の4,000円まで下落してきたが、ここで下げ止まる保証はない。まずは下値を確認し、反発基調に入ったことを確認したうえで、徐々に買いを考えたいところである。

ファンダメンタルズ面では、プラチナは今後注目される銘柄であり、少しでも保有しておくと、その後の上昇でキャピタルゲインを得られるチャンスがあると私は考えている。

【図表2】プラチナ 縦軸:円建てプラチナ/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券 

シルバー:大幅続落の展開

シルバーも大幅続落となった。週末には一時24.81ドルまで下落し、節目の25ドルを割り込む場面もあった。週末は25.19ドルで引けた。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX銀先物市場における大口投機筋のポジションは、3月2日時点で3万9616枚の買い越しとなり、前週から買い越し幅が8,027枚縮小した。買いポジションが3,785枚減少し、売りポジションが4,242枚増加した。投機筋の手仕舞い売りと新規売りが出ており、典型的な弱気のパターンとなっている。

銀相場も金とプラチナの下げに連れるように、さらに水準を切り下げている。ただし、直近安値を下回っていない。その意味では、先週末時点で完全には崩れていない状況である。

今は節目の25ドル前後が過去に重要なポイントになっており、これを明確に割り込むと投機筋の売りなどが出やすい状況にあるように見える。テクニカル的には売られすぎになっているものの、すぐに反発するようにも見えない。他の貴金属の動向も見ながら値動きを慎重に見ていくことが肝要であろう。

このような相場展開になると、ファンダメンタルズ面は材料視されなくなり、投資マネーのフローがポイントにならざるを得ない。つまり、投資家のポジション調整がある程度終わるまでは、現在の調整相場が続くことをある程度覚悟しておく必要がある。下げ止まりを確認したうえで、次の動きを模索することになるだろう。

ポジション調整が終われば、銀市場のファンダメンタルズ面に目が向き、将来の需要増加への期待から買われる場面も出てくるだろう。しかし、ある程度の時間がかかることを覚悟しておく必要があるだろう。

円建て銀相場も下落基調が鮮明である。節目の90円前後で下げ止まっているように見えるが、86円程度までの調整となる可能性を念頭に、慎重に値動きを見極める必要がある。下げ渋りから反発に転じる局面を確認したうえで、押し目買いを慎重に進めていきたいところだ。86円までで下げ止まりが確認できれば、買いを検討できそうである。

また、銀相場は基本的にボラティティが高いため、保有するポジションも大きくせずに、引き続き慎重に投資するようにしたいところである。

【図表3】シルバー 縦軸:円建てシルバー/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券