先週のゴールド:小幅続伸の展開

金相場は小幅に続伸しました。米追加経済対策への期待から買われ、12月8日には一時1875.07ドルまで上昇しました。

米議会議員らは、9080億ドル規模の法案を通じ、待望の救済策の合意を目指す動きを見せました。それにより、さらに多くの資金が財政システムに流入することで、インフレが誘発され、米追加経済対策が金相場の安定につながるとの見方が買いを誘いました。大規模な刺激策が打ち出された結果、インフレの可能性が意識されました。

一方、中国政府による香港の民主派議員の資格剥奪を受け、米政府が中国全国人民代表大会(全人代) 高官14人に渡航禁止の制裁を科したことにも投資家が注目した可能性があります。しかし、その後、金相場は下落に転じました。

新型コロナワクチン開発の進展で、景気回復への期待が高まったことで、金の安全資産としての魅力が低下し、再び売られました。カナダは12月9日、米製薬大手ファイザーと独製薬ベンチャーのビオンテックが共同開発した新型コロナワクチンを承認しました。英国は前日、先進諸国として初めて同ワクチンの接種を開始しました。

また、米ドル高も金相場を圧迫しました。その後も1,850ドルの抵抗線を突破できず、テクニカル主導の売りが出ました。引き続き新型コロナワクチンに関して楽観的な見方が広がる中、米失業保険申請件数が急増したものの、市場の反応は薄かったと言えます。

米国では新型コロナウイルス感染再拡大により、ロックダウンが講じられたことを背景に、前週の新規失業保険申請件数が急増しました。

一方、欧州中央銀行(ECB)が定例理事会で追加金融緩和の実施を決定したことを受けて、金相場が一時上昇する場面もありましたが、その買いも長くは続きませんでした。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は、12月4日の1182.70トンから、12月11日には1175.99トンに減少しました。投資家が引き続き金を売却していることが確認できます。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX金先物市場における大口投機筋の12月8日時点のポジションは26万9220枚のネット買い越しとなり、前週から買い越し幅が8,906枚増加しました。買いポジションが1万3927枚増加し、売りポジションが5,021枚増加しました。新規のロングが増える一方で、ショートも増加しており、投機家の中では強気と弱気の見方が交錯していることがうかがえます。

円建て金相場も反発しました。

【図表1】先週のゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券

今週のゴールド:1,875ドルがポイント

今週のゴールド投資をする上での3つのポイント
・株価上昇と資金フロー
・投資家の金売却の動き
・円建て金相場は下げ止まりを模索

金相場は目先のチャート上の節目である1,875ドルを超えられずに下落しています。戻り歩調を続ける中、この水準を超えられなかったことで、テクニカル主導での売りが出ているものと思われます。

このまま調整基調が続いた場合、節目の1,800ドルを再び維持できるかがポイントになるでしょう。また、割り込んだ場合には、11月30日に付けた安値の1,777ドルを維持できるかもポイントになるものと思われます。

これまでも指摘してきたように、現在の金価格の下落は、投資家がこれまで保有してきた金ETFを売り続けていることが背景にあります。投資家は金を売却し、その資金を米国を中心とした株式に振り向けているようです。特に、11月の金相場の下落の背景には、そのようなことがあったことが確認できます。

11月は月間ベースでの下げ幅が4年ぶりの大きさとなりましたが、その背景には新型コロナワクチン開発による経済回復への期待があります。投資家がワクチン開発の進展に楽観的になったことで、投資家の金売りが膨らみました。

ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が発表した11月の金関連ETFの資金フローを見ると、金売りがきわめて大きな金額で実行されたことが確認できます。11月は107トン減、金額では68億ドルの資金が流出しました。単月の流出金額としては過去最大だった2013年4月の87億ドルに次ぐ大きさです。投資家が手仕舞い売りを出し、株式に資金を移したと考えられます。

また、11月は全ての地域の資金が流出しました。北米は62トン(37億ドル)、欧州は42トン(29億ドル)の流出超となり、それぞれ運用資産の約3%が減少しました。ただし、アジアは0.4トン(3500万ドル)と小幅な流出にとどまりました。

金ETFの現物残高は11月末時点で3,793トンでした。11月には大幅流出に見舞われましたが、年初からの累積では916トン(503億ドル)の流入超と、依然として過去の年間の流入量を上回っています。12月に金買いが戻り、これまでのペースが維持されれば、年間ベースでの流入額は最高を維持できると考えられます。

しかし、年末の株価次第ではさらに売り込まれる可能性もあるでしょう。この点に関しては、12月15・16日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)の内容に目が向きます。市場では、FOMCで国債買い入れ策の調整が決定されるのではないかとの観測も出ているようです。

FRB(米連邦準備制度理事会)が国債の買い入れ枠を変更せずに、長期債の購入を増やす一方で短期債の購入を減少させることを決定すれば、長期債利回りの上昇を抑制すると同時に、短期債利回りの低下に歯止めがかけられる可能性があります。ただし、事実上のゼロ金利政策は維持される見通しです。

時事通信社の記事によると、11月会合の議事要旨では、資産買い入れに関し、「かなり近いうちに指針を強化する」方針が明らかになったとされています。また、景気と雇用の回復を後押しする量的緩和を長期間続ける考えを明示するため、「物価上昇率に連動したフォワードガイダンス」などを決めるとの観測が出ているとのことです。

同記事は、「3ヶ月ごとに公表される政策金利見通しは、会合参加者17人の中央値で、少なくとも2023年末まで年0-0.25%の維持が示される公算が大きい」としています。

パウエルFRB議長はタカ派的な姿勢は示さないと思います。市場を不安にさせるような言動は慎むでしょう。しかし、実際に市場を安心させるような発言がなければ、それがトリガーとなって株価調整が始まる可能性もあります。

その意味でも、今週は重要な日柄にあるように思われます。ちなみに、米国株は今週は下げやすい日柄でもあります。そのため、市場が一時的に不安定化するかどうかにも注意しておきたいところです。

株価を押し上げる直接的な要因となった、新型コロナワクチンに関しては、米食品医薬品局(FDA)が12月11日、米製薬大手ファイザーの新型コロナワクチンに緊急使用許可を出しました。米国での新型コロナワクチンの許可は初めてとなります。感染者、死者数ともに世界最多の米国が、コロナ禍の収束に向け大きく前進したと言えます。

ファイザーの同ワクチンは12月、英国やカナダなどが承認済みで、2021年夏に東京五輪・パラリンピックの開催を控える日本も、近く追随する見通しです。

米ジョンズ・ホプキンス大の集計によると、米国の新型コロナウイルス感染者数は累計1600万人超、死者は29万人超と、いずれも世界最多です。感染ペースは11月以降さらに加速しており、一段の悪化が懸念される冬本番を前に、接種開始にこぎ着けた格好です。

また、米バイオ医薬品企業モデルナの新型コロナワクチンについても、12月17日にFDAの諮問委員会にて緊急使用の可否が審議される予定です。英アストラゼネカや米ジョンソン・エンド・ジョンソンなども、臨床試験(治験)の最終段階に入っています。

新型コロナワクチンは、コロナ禍という異常事態に対処するため、記録的な速度で開発されてきました。

時事通信社の記事によれば、経済協力開発機構(OECD)は、米国ではワクチン普及に伴い、2021年後半に経済活動や外出などの規制が緩和されると想定しています。成長率は2020年のマイナス3.7%から2021年にプラス3.2%、2022年は同3.5%へ回復すると予想しました。米格付け大手S&Pグローバル・レーティングは、2021年7-9月にGDPが感染拡大前の水準に達するとし、「ワクチンが急速に広がれば回復は早まる。特にサービス業など人との接触が多い業種は、影響が大きい」と期待を寄せています。ただし、米シンクタンクが11月に米国内で実施した調査では、ワクチン接種を「積極的に受ける」との回答は約6割にとどまり、「受けない」が約2割を占めました。半数以上は、最初に接種するのは不安があると答えており、短期間で普及が進むかは不透明な情勢です。

また、同記事では、足元では、新型コロナ感染者が過去最悪のペースで増え、ニューヨーク市でレストランなどでの屋内飲食が再び禁止されるなど、経済活動を再規制する動きが拡大しているとされています。さらに、最近の指標でも確認できるように、雇用回復にブレーキがかかっており、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は「今後数ヶ月は試練に直面する可能性がある」と懸念を示しています。

このような状況でもあり、米国では新型コロナワクチンが承認されたものの、「知ったら仕舞い」となる可能性も否定できません。株高になった材料がワクチンへの期待でしたが、今後の市場の反応に注目しておきたいところです。

いずれにしても、最近の金相場の下落は、金ETFの売りが最も大きな要因でした。最近の金相場の上昇の勢いは、ワクチン報道で明らかに弱まっていますが、引き続き緩和的な金融・財政政策に加え、地政学的リスクに支援されるとみています。季節的にもこれからクリスマスシーズンであり、相場が上昇しやすい傾向にあります。いずれ、金融緩和政策の継続と一段の財政刺激策に対する期待が、金相場の上昇につながると思います。

米議会も9000億ドルの追加経済対策に向けた協議を進めています。これらの施策が、長期的な株価の上昇を支える一方で、金相場の上昇にもつながると考えられます。原油相場次第の面がありますが、いずれインフレ指標が改善し、株式と同時に金への関心も高めざるを得ないときが来ると考えています。

円建て金相場も調整しています。目先はやや円高基調でもあり、6,200円で下げ止まるかがポイントになりそうです。ドル建て金相場が安定するかがポイントになりますが、ここで下げ止まることができれば、再び反発するでしょう。また、下げた場合でも6,000円までで下げ止まる可能性が高いと考えています。

押し目を買いたいを考える投資家は、世界的にも少なくないように思われます。今は投資家のマネーフローが相場を動かしていますが、価格水準が下がると実需や公的機関の買いが入り、下値を支えるでしょう。その意味でも、押し目があればしっかりと買っておきたいところです。

今は長期的な視点でポジションを保有しながら、追加のポジションを積み増すことを考えたいところです。「市場が投げ売りしているときに買う」ことができれば、ポジションのコストを下げることができます。

株式投資におけるリスクを軽減するためにも、長期的な視点で金に投資しておきたいところです。無論、金相場が押した場面では、時間と資金を分散しながら、徐々に買いポジションを増やしていきたいところです。

プラチナ:反落の展開

プラチナは反落しました。先週の急伸の流れを引き継ぐことができず、週初から下落し始め、12月9日には一時988ドルと、節目の1,000ドルを割り込む場面もありました。週末は1,008.89ドルで引けました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するNYMEXプラチナ先物市場における大口投機筋の12月8日時点のポジションは2万4502枚のネット買い越しとなり、前週から買い越し幅が2,476枚拡大しました。買いポジションが3,246枚増加し、売りポジションが770枚増加しました。投機家は週初には買い姿勢を強めていましたが、その後に相場が下落しているため、週末の動きがどのようなものだったのかを最新のデータで確認したいところです。

プラチナ相場は節目の1,000ドルを維持するところまで水準を回復してきましたが、その後は金相場の調整の動きにつれているように見えます。ただし、前週末に辛うじて1,000ドルを維持したことで、上昇基調は維持されていると判断できます。したがって、今後もこの水準を維持できるかが大きなポイントになりそうです。

これを割り込み、さらに980ドルを割り込むようですと、下げ基調が強まることが想定されます。その場合には、900ドル近くまでの調整になることも想定しておく必要があるでしょう。無論、今の調整が短期的なものに終われば、やはり相場は強いとの判断になることも想定されます。

市場の関心は、「脱炭素」、「再生可能エネルギー」、「クリーンエネルギー」に向かい始めています。これらのテーマは世界的なテーマでもあり、さらに今後進展が期待されている分野です。プラチナは燃料電池車(FCV)などに使用されるため、新たな需要先として注目されていることはすでに解説した通りです。

世界的にこのような動きが広がれば、新たな需要先が増えることになり、需給バランスの改善から価格水準が押し上げられることは十分に想定されます。その意味でも、今は長期的な視点でプラチナ相場を見るようにしたほうがよいと考えます。

円建てプラチナ相場も調整し、3,500円を挟んだ水準でのもみ合いとなっています。辛うじて下げ渋っている状況ですが、まずはドル建てプラチナ相場の動きを見ながら、下げ止まるかを確認したいところです。その上で、下げた場合でも3,400円前後で下げ止まれば、再び上向く可能性も出てくるでしょう。引き続き、まずは3,400円前後でも押し目買いのチャンスをうかがいたいと考えます。

一方、3,600円に向かった上げだした場合には、その動きに乗る形で積極的に買いを入れても良いでしょう。3,600円を超えると、強気相場になりそうです。その可能性も視野に入れておきたいところです。

【図表2】プラチナ 縦軸:円建てプラチナ/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券

シルバー:反落の展開

シルバーは反落しました。金相場の下落につれる形で値を下げました。ただし、下げ幅はそれほど大きなものではなく、週末は23.91ドルと、節目の24ドルをわずかに下回った水準での引けにとどまりました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX銀先物市場における大口投機筋の12月8日時点のポジションは4万8376枚のネット買い越しとなり、前週から買い越し幅が484枚拡大しました。買いポジションが2,287枚増加し、売りポジションが1,803枚増加しました。前週と同様に投機筋は新規買いを積み上げましたが、一方で新規売りも増えており、投機筋はやや迷っているようにも見えます。

金やプラチナが前週は下げた割に、銀相場の値動きは比較的落ち着いていたように感じます。激しい値動きが特徴的だった銀相場の落ち着きは、銀市場への関心がやや薄れたからなのかもしれません。とはいえ、目先は22ドル割れからの回復で底値を確認した格好になっており、これで25ドルを超えると地合いが好転する可能性が高い状況に変わりはありません。

今はやや材料不足の状況ではありますが、23ドルを維持できれば上昇基調継続との判断ができますので、日柄調整完了後の値動きに注目しておきます。

銀市場に関しても、今後のテーマは「環境問題」や「再生可能エネルギー」となりそうです。これらのテーマは世界的な規模のものであり、さらに長期的に注目されやすいと言えます。

これらのテーマでは、銀の場合には太陽光発電関連が材料になりますが、いずれ市場がいま以上に注目する時が来るのではないかと考えています。今は9月後半以降のレンジ相場の域を出ていませんが、下値を固めて25ドルを明確に超えてくれば、いずれ上昇に転じると考えています。

円建て銀相場も値を下げました。84円を超えると、再び上昇基調が強まると見ていました。しかし、これを明確に超えられず、ドル建て銀相場の下落もあり、調整が先行しました。まずは82円で下げ止まるかを確認したいところです。その上で、再び84円を超えてくれば、上昇相場に発展しそうです。

その意味でも、いまは82円での押し目買いを行い、さらに下げた場合には80円程度まで買い下がれるよう資金を分散して取り組みたいところです。84円を超えてレンジ相場から抜け出ると、大きな上昇につながるでしょう。

【図表3】シルバー 縦軸:円建てシルバー/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券