先週のゴールド:反発の展開

金相場は反発しました。9月29日の米大統領選候補者による第1回テレビ討論会に注目が集まりました。共和党候補のトランプ米大統領と民主党候補のバイデン元副大統領による討論会は、「史上最低」と揶揄されるほどのひどい内容となり、市場関係者の失望を誘い、株価が下落しました。

また、投資家が安全資産である米ドルへ逃避したことも、金相場の上値を抑えました。さらに、米国での追加の新型コロナウイルス救済法案に対する懸念も高まり、9月の金相場は月間ベースで2016年11月以来、4年ぶりの下落率となりました。

一方で、米ドル指数は2019年7月以来の上昇率でした。ただし、金相場は四半期ベースでは8期連続の上昇となりました。その後は堅調に推移し、再び節目の1,900ドルを上回る水準で推移しました。

コロナ禍で打撃を受けた米経済のてこ入れに向けた景気刺激策への期待が再び高まったことや、米ドル安が金相場の押し上げにつながりました。新たな新型コロナウイルス経済対策に関するペロシ米下院議長とムニューシン米財務長官の間で行われた協議に関心が集まりました。

週末は下落しました。荒い値動きの中、1,900ドルの水準をわずかに割り込みました。米ドル高が金の上値を抑えました。それでも週間ベースで8週間ぶりの大幅上昇となりました。

一方、トランプ米大統領が新型コロナウイルスの検査で陽性反応を示したことは市場のリスクセンチメントを損ねる結果となり、週末は1,989ドルで引けました。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は10月2日に1275.6トンとなり、9月25日時点の1266.84トンから増加しました。10月1日には1276.19トンまで増加する場面もありました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX金先物市場における大口投機筋の9月29日時点のポジションは24万3659枚のネット買い越しで、前週から買い越し幅が2万4599枚拡大しました。買いポジションが7091枚増加し、売りポジションが1万7508枚減少しました。投機家は過去3週間で買い越し幅を拡大させており、さらに拡大させていることから、強気スタンスに転じた可能性が指摘できます。

円建て金相場は、米ドル建て金相場の反発を受けて上昇しました。

【図表1】先週のゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券

今週のゴールド:反発基調の継続を想定

今週のゴールド投資をする上での3つのポイント
・テクニカル調整の完了
・投資家の買い姿勢の継続
・円建て金相場は反発基調継続へ

金相場は反発基調が続くかどうかに注目しています。今回は1,850ドルにある重要なサポートを維持できるかを注視していましたが、ひとまずサポートされて反発の動きにあります。

節目の1,900ドルに絡む動きになっていますが、今週は1,915ドルを超えるかに注目したいと考えています。もっとも、これはあくまで短期的な動きを見るものであり、しっかりと底打ちをして反発基調に入るかを確認するための重要な水準であると考えています。

より重要なことは、長期的なトレンドが続いているのかを確認することです。2020年の金相場は、7月後半から急激に上昇相場が強まり、1ヶ月も経たないうちに節目の2,000ドルを超えました。しかし、この動きはあまりに早すぎたということでしょう。今回は1,850ドルまで調整しましたが、2020年の上昇トレンドが維持されていることが確認できます。

したがって、今回1,850ドルを維持したことは、長期的な上昇基調が維持されたことを意味するわけです。2,000ドル超からの調整局面で、「金相場のバブルは崩壊した」などと指摘する向きもあるようですが、「今回の金相場はそもそもバブルにさえなっていない」というのが私の考えです。

バブルの定義は人それぞれであり、明確なものがあるわけではありません。ただし、資産価格の動きに関していえば、私は「10年から15年の期間に、価格が10倍から15倍に上昇」したケースをバブルと定義づけています。

このような上昇相場になる市場や銘柄は、実際にはそう多くはありません。過去のグローバル市場において、このような上昇を見せたケースは、1980年以降ではわずか5回です。1980年の金価格高騰、1989年の日本の資産バブル、2000年のドットコムバブル、2008年のコモディティバブルがそれらに相当するでしょう。思い返せば、どれも歴史的な大相場だったと言えます。

また、直近の米ハイテク株の急騰もこれに相当するでしょう。今回の上昇相場はすでに上昇期間が10年に達しており、資産価値は38倍になりました。これまでの定義に当てはめれば、明らかにバブル相場と言えるでしょう。無論、今後も高値での推移を続ける可能性はあるでしょう。

一方、今回の金価格の上昇は、8月の高値を基準にしても、2倍にもなっていません。つまり、バブル相場と呼ぶにはあまりにも小さい上昇と言えます。私が考えるバブルの定義に当てはまるには、金価格は2025年から2030年にかけて、最低でも1万ドルを超える必要があります。したがって、今の金市場は、「とてもバブルの状態とは呼べない」というのが私の考えです。

さて、今回の金相場の上昇基調が、最終的に上記のようなバブル化して終わる可能性は十分にあるのではないかと考えています。その最大の理由は、米国の財政拡大と緩和的な金融政策の継続にあります。

新型コロナウイルスの感染拡大に対応する追加経済対策について、与野党協議が進められています。現時点では、両者の考えに隔たりはあるものの、いずれこれは決めざるを得ないでしょう。拡張的な財政はさらに悪化し、これが金価格を押し上げることになることは、これまでの金価格との連動性を見れば容易に理解できます。

特に近年の米財政赤字を米GDPで割ったレシオと金価格はほぼ同じ推移をたどっています。GDPの伸びが鈍化する一方、財政赤字が拡大する可能性が高いことを考えれば、このレシオはますます悪化し、金価格は押し上げられることになりそうです。

また、米連邦準備制度理事会(FRB)が、「インフレ率2%を達成した後も、その水準を緩やかに超過するようになるまで、引き締めを行わない」と宣言したことも非常に大きな材料であると言えます。

私はFRBにはインフレを微調整する能力はないと考えています。上記のようなFRBの考え方には、「中央銀行は経済・市場を意のままに操れる」といった前提があるように感じられます。

しかし、2%の物価目標さえ達成できない中央銀行が、自分たちがインフレを自在に操れるかのように語ることに強い違和感を感じます。インフレ率を2%まで引き上げ、さらに超過させることができていないわけですから、「FRBが思うようにインフレ率は操れない」と考えるのが自然でしょう。

今後、米国の経済が回復し、失業率が低下した場合でも、政治的な圧力から引き締めはできないでしょう。そうなると、インフレ上昇が起きた場合でも、FRBは「政治的な圧力があることから、引き締めができない」と言い訳できるでしょう。こうなると、インフレが加速してしまい、FRBの手に負えなくなることが想定されます。

許容する物価上限がオーバーシュートを許さない上限であった時代には、インフレが上限を超えないように、上限に達する前に金融引き締めが行われていました。それでも、インフレを思い通りに操るのは至難の業でした。しかし、今回はオーバーシュートを許すわけですから、インフレ抑制のための利上げは必然的に遅れることになるでしょう。

さらにFRBは、「まだ経済がよくないから」ということで、利上げを遅らせるための「言い訳」ができます。このように考えると、インフレが高まる材料は揃っていると言えます。

あとは、実際にインフレになるかどうかにあります。このような状況で財政悪化が加われば、金価格はさらに上がりやすくなることは言うまでもないでしょう。コロナ禍によって生じた莫大な債務が経済のマネーサプライを押し上げ、それが支出とインフレに拍車をかけるという考えは、今後もメインシナリオになるでしょう。

言うまでもなく、米国はどの国よりも多くのマネーを供給しています。そのため、米ドルは弱くならざるを得ないと考えています。そうすると、実際にどのようなことが起きるのでしょうか。今後の動きをじっくりと見ていきたいところです。

また、市場はトランプ米大統領が新型コロナウイルスに感染したことに、かなり敏感に反応しています。これまでの投資戦略について、見直しを図る投資家も多いと見られています。

再選を目指す1ヶ月後の米大統領選に向けて、この状況はトランプ陣営にとって大きな痛手であることは言うまでもありません。集会などの選挙運動がしばらくできなくなるばかりか、これまでマスク着用を避けるなど、大統領としての「無防備さ」も露呈し、国民の評価に影響を及ぼす可能性があります。また、直近では10月15日の次回テレビ討論会が予定通り行われるかも不明です。

ホワイトハウスではオブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)をはじめ複数の関係者に新型コロナウイルスの陽性反応が出ました。しかし、トランプ米大統領は日常的にマスクを着けず、感染予防に積極的ではありませんでした。

9月29日の討論会ではバイデン氏について「見たこともないような大きいマスクを使っている」と語るなど、着用する人を見下すかのような発言がしばしば聞かれました。トランプ米大統領自身が感染したことで同情の支持がある程度集まる可能性はあります。しかし、経済活動や学校の再開を急ぐトランプ米大統領の選挙メッセージが、これまで以上に「根拠のない楽観主義」と国民に映る可能性も否定できません。

世界の投資家の一部は、トランプ米大統領が新型コロナウイルス検査で陽性反応を示したことを受け、対抗馬の民主党候補バイデン氏の勝利に向けた準備を進めているようです。11月の米大統領選の結果の判明が遅れ、選挙後の数日間、もしくは数週間、各国の株式や債券市場が混乱するリスクが当然のように意識されるでしょう。

市場関係者は、トランプ米大統領の選挙活動が今後制限され、大統領選で勝利する可能性が低下するとの見方に急速にシフトしている模様です。トランプ米大統領の新型コロナウイルス感染により、民主党政権への移行や政策の方向性に備える必要が出てきたと判断していると言えます。そして、市場のボラティリティに備え、ポートフォリオのリスクを減らし、ヘッジを増やすことも想定されます。

今後は多くの投資家が、米大統領選でのバイデン氏の勝利と、それに伴うボラティリティやヘッジ戦略を進めることになりそうです。しかし、それ自体が株価や金相場に影響を与えるかどうかについては、冷静に見ていくことが肝要です。ただし、市場のボラティリティは高まらざるを得ないでしょう。また、米大統領選の後もボラティリティは高止まりすると考えられます。

バイデン氏が勝利した場合の新政権への権限移譲や現政権の微調整に伴う二次的な影響が懸念されることから、選挙後の12月から2020年1月にかけて市場は激しく上下動すると見ています。

10月の金相場は従来からあまりパフォーマンスはよくありませんが、11月から2月は極めて高い上昇率になっていることが、過去データからも確認できます。このアノマリーが、2020年も通用するかは明確なことは言えませんが、10月に安値があれば、その後の上昇を想定しながら買いを検討するのもよさそうです。ぜひ念頭に置いておきたいデータです。

円建て金相場は指摘していた6,300円で下げ止まりました。ここは7月後半以降に金相場が急伸した際に起点になっていた水準であるだけに、ここで下げ止まって反発したことは非常に大きな意味があると言えます。

そのため、まずは買いで対処し、さらに上値追いになるかを注視したいところです。6,500円にも重要なポイントがありますので、これを明確に超えてくれば、さらに上値を試す可能性も出てきそうです。

毎回繰り返すように、金は本来、キャピタルゲインを狙って投資するものではありません。しかし、現在の米国を取り巻く環境を考慮すれば、金相場は今後も上昇する可能性が高いと考えられます。また、資産運用の王道である株式投資のリスクを軽減するためにも、長期的な視点で金に投資することは不可欠と考えています。押し目の場面では、時間と資金を分散しながら、ゆっくりと買いポジションを構築していきたいと考えます。

プラチナ:反発の展開

プラチナは反発しました。10月1日には一時908.50ドルまで上昇する場面がありました。ただし、週末は882ドルで引け、節目の900ドルを割り込みました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するNYMEXプラチナ先物市場における大口投機筋の9月29日時点のポジションは9,824枚のネット買い越しとなり、前週から買い越し幅が436枚縮小しました。買いポジションが3,364枚減少し、売りポジションが2,928枚減少しました。投機家は全体的にポジションを縮小させています。

プラチナ相場は9月24日に825.50ドルの安値を付けたあと、反発基調を強めています。830ドル前後には重要なサポートがありましたが、この水準を維持して反発したことで、底割れ懸念を回避したと言えます。

短期的にはやや買われすぎ感が出ていることから、上値追いは難しい可能性もありますが、まずは900ドルの水準を早期に回復できるかを確認したいところです。その上で、先行性がある金相場の動きを確認しながら、対処することになりそうです。

プラチナ独自の材料はあまり明確なものがなく、先週も紹介した通り、プラチナ生産の際に一緒に生産される副産物の価格に影響を受ける可能性があります。これらの価格動向にも注意しておきたいところですが、チェックするのは難しいため、まずはプラチナそのものの価格動向に注意しておきたいところです。

900ドルを超え、さらに920ドルを超えると大きく上昇する可能性があると考えられます。ただし、短期的には買われすぎ感もありますので、目先はもみ合う可能性もありそうです。これまでの指摘しているように、プラチナには独自の強気材料があまり見られないことから、強気相場には入りづらいと言えますので、この点を常に念頭に置きながら相場展開を見ていくようにしたいところです。

一方で、下落した場合には825ドル前後で下げ止まるかを注視することになるでしょう。これも割り込むようですと、相応の下げ相場になる可能性が高いことをあらかじめ理解しておきたいところです。

円建てプラチナ相場は反発しました。前回コラムでは「2,900円を維持できるかどうかを確認したいところです。その上で、反発すれば、買いを検討したい」としましたが、結果的に反発しました。

さらに3,100円を超え、3,200円を試すところまで上昇するなど、反発基調を強めました。ただし、週末には反落しており、上値の重さも感じられます。3,000円を割り込んだ場合には、早めに撤退し、再び2,900円でサポートできるかを検討したいところです。その上で、買い場を探したいと考えます。

一方で、3,200円を超える強気相場になれば、その流れに乗って買いポジションを積み上げてもよいでしょう。当面は不安定な値動きが想定されます。リスク管理をしっかりと行いながら対処したいところです。

【図表2】プラチナ 縦軸:円建てプラチナ/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券

シルバー:反発の展開

シルバーは反発しました。9月29日には一時24.39ドルまで上昇する場面がありました。週末は23.70ドルで引けました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX銀先物市場における大口投機筋の9月29日時点のポジションは4万730枚のネット買い越しで、前週から買い越し幅が1,783枚拡大しました。買いポジションが378枚減少し、売りポジションが2,161枚減少しました。投機筋は売り・買いともにポジションを縮小させていますが、全体的に買い姿勢を維持していると言えます。

銀相場は9月24日に一時21.64ドルまで下げましたが、その後は徐々に下値を切り上げてきています。それまでの下げが大きかったこともあり、反発も限定的になっています。しかし、上昇トレンドは維持しており、相場としては崩れていないと言えます。

しばらくは大きく上げた後だけに、簡単に相場は戻らない可能性があります。当面はもみ合いが続く可能性を念頭に置きつつも、相場が動き出すのを見逃さないように注視しておきたいところです。投機筋はすでに売り込む動きを止め、やや買い姿勢に転じているようです。

これまでも繰り返してきたように、銀相場は投機的な動きになることが少なくありません。言うまでもなく、上昇相場と下落相場がありますので、どちらも短期間で急騰・急落することがあります。そのような動きになるときは、やはりチャートポイントが重要になります。

したがって、目先は22.80ドルをサポートできるか、あるいは25ドルを超えるかを注視しておきたいと考えます。その上で、連動性が高い金相場の動きも併せて見ておきたいと考えます。

円建て銀相場は反発しました。前回コラムでは「75円を維持できるかを確認し、その上で反発基調に転じるようであれば、その時点で買いを検討したい」としましたが、実際にそのような動きになりました。

ただし、新規の買いの目処と見ていた80円から85円を明確に上抜けることはできず、やや上値が重くなった印象があります。目先は75円から85円のレンジで推移する可能性もありますので、まずは85円を超えてから買いを検討するのがよさそうです。逆に75円を割り込んだ場合には、安易な買いは避け、まずは下げ止まるのを確認したいところです。

【図表3】シルバー 縦軸:円建てシルバー/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券