この連載では一貫してW.P.P.の考え方(Work longer:できるだけ長く働くということ、Public Pension:公的年金、Private Pension:個人で準備する貯蓄や投資などの備え)をお話しているが、今回は最後のP、すなわち自分で備える老後資金についてである。特に最近多くの人が利用するようになってきた制度であるiDeCo(個人型確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)について、50代からでも利用できる可能性について考えてみたい。

iDeCoやNISAは50代から始めたら遅いの?

年齢には関係なく、資産形成を妨げる最大の要因は運用コストである。具体的に言えば税金と手数料だ。できる限りこれらのコストを少なくすることが運用では大切だが、iDeCoやNISAといった制度では、運用益に対して税金は一切かからない。さらに手数料を考えてもiDeCoの場合は窓口で販売されている投資信託よりも相対的に運用管理費用(信託報酬)は低めだし、NISAでも特に「つみたてNISA」においては、かなりコストの安い商品が揃っている。したがって資産形成に利用するのであれば、まずこれらの制度を最優先するのが合理的だ。

ところが、若い人ならともかく、50代になってくると、これらの制度を利用するにはもう遅いのではないかと考える人が多い。しかしながら、筆者は決してそんなことはないと考える。50歳の平均余命は男性82.7歳、女性88.3歳※1だが、平均寿命は今後も伸びていくことを考えると男性は80代後半、女性は90代前半ぐらいまでの人生は考えておいた方がいい。現在50歳からつみたてNISAを始めれば70歳まで積立が可能だ。Work longerで70歳まで働いて引退するのであれば、まさにもう一つの退職金を作ることができる。

iDeCoの場合は今のところ60歳までしか加入することはできないが、5月29日に成立した「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」※2によって2022年5月からは公的年金に加入していれば65歳まで加入することが可能となった。したがって、60歳以降も会社に残ってフルタイムで働くのであれば、引き続き厚生年金に加入することになるため、iDeCoも65歳まで積立を続けることができる。さらに引き出し開始の選択肢も拡がり、積立が終わった後は75歳までの好きな時に一時金でも年金でも受け取れるようになるので、自分が考える働き方やライフプランに合わせることができる。さらにiDeCoの場合は、所得控除のメリットもあるため、トータルでのプラス効果は大きい。

50歳から投資を始めた場合どのくらい効果があるの?

では、50歳から始めたとして、どれぐらいの運用成果が出せるものだろう。図は、筆者の手元にあるデータで、1997年12月から2018年の10月までおよそ21年、そしてもう一つは2007年12月からなので、およそ11年だが、毎月1万円ずつ国際分散投資を続けていたらその金額はいくらになっていたかという数字だ。iDeCoやNISAを活用して50代から積立を始めるには参考になるだろう。ご覧のように20年で2.43倍、10年であれば2.07倍といずれも積立金額の2倍以上になっている。この間、リーマンショックをはじめ、様々な危機や暴落はあったものの、一定の金額で10~20年という期間を使って積立を行うことの効果は明らかに出ていると言って良い。

積立期間

積立総額

金額

倍率

1997/12~2018/9

(20年10ヶ月)

249万円

605.0万円

2.43倍

2007/12~2018/9

(10年10ヶ月)

129万円

266.9万円

2.07倍

出所:筆者作成(注)開始日から終了日まで、期初及び毎月末に1万円ずつ、MSCI ACWI(※3)に、積立による国際分散投資した場合のそれぞれの最終金額(取引に係る手数料は税金は考慮せず)

若い頃の資産形成とは異なり、ある程度の年齢になってからの資産運用で最も大事なのは、“積極的にリスクを取って儲けよう”ということではなく“高齢になっても自分の資産の購買力を維持すること”であるから、このような国際分散投資を積立で行うというのは、最もふさわしい方法と言えるだろう。もちろん自分で十分なリスクを取れるのであればもっと積極的に個別株式での運用でも良いし、逆にリスクは極力取りたくないということであれば個人向け国債変動十年等も選択肢になる。ただ、税や手数料といったコストの優位性を考えた場合、50代からであってもこれらの制度を活用することを優先で考えるべきだろう。

※1:厚生労働省 簡易生命表

※2:「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」

※3 MSCI ACWI:
ACWIはAll Country World Indexの略で、先進国(23)と新興国(26)を含む全世界の大中型株の株式インデックスのことです。(先進国、新興国の対象数は2019年12月時点)