先週のゴールド:続落の展開

金相場は続落しました。米連邦準備制度理事会(FRB)が2度目の緊急利下げを実施したものの、市場全体の新型肺炎懸念を沈静化できなかったことで、3月16日に一時1,450.98ドルまで下落しました。投資家は貴金属を売却し、現金化を進めました。

3月17日には反発。5日続落したことで、安値拾いの買いが入りました。FRBが流動性逼迫への懸念に対応するため、コマーシャルペーパー(CP)購入に踏み切ったことも金相場を押し上げました。

しかし、3月18日には急反落。米国株が急落するなど新型肺炎の感染拡大で市場の動揺が続く中、主要中央銀行による積極的な経済対策の発表をきっかけに投資家のリスク回避姿勢が幾分和らいで換金売りが後退する場面もありました。しかしながら、その後は上値の重い展開が続きました。

週末3月20日には反発しました。週間ベースでは2.12%安でした。米ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センター(CSSE)の集計によると、3月20日までに新型肺炎による死者数は世界で1万人を突破。ただし、各国政府や金融当局が景気対策を急ぐ中、この日は投資家のリスク警戒感が幾分和らぎ、アジアと欧州の株価は持ち直しました。

また、FRB、欧州中央銀行(ECB)、日銀など主要6中銀がドル資金供給拡充の第2弾を発表。企業や金融機関によるドルの現金調達を支援する追加措置を決めたほか、FRBは短期資金の運用手段に使われるMMF(マネ ー・マーケット・ファンド)市場の安定化強化も発表しました。

これらを受け、損失補填目的の換金売りが緩和され、金は買い戻されたものの、上昇の勢いは限定的でした。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は、3月13日の931.59トンから、20日には908.18トンに急減しました。株価の急落で資金不足に陥った投資家が換金売りを行っている可能性があります。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX金先物市場における3月17日時点の大口投機筋のポジションは28万1916枚のネット買い越しとなり、前週から買い越し幅が1万7615枚縮小しました。買いポジションが1万8885枚減少し、売りポジションが1,270枚減少しました。

円建て金相場は、ドル建て金相場の下落を背景に大幅続落となりました。

【図表1】先週のゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

今週のゴールド:下げ止まりの動きへ

今週のゴールド投資をする上での3つのポイント
・世界的な株安による換金売りに引き続き注目
・主要中銀の追加緩和策の動向と株式市場の反応
・円建て金相場は円安傾向が下支えに

金相場は引き続き上値の重い展開にあります。株安基調の継続で、投資家の換金売りが続いています。以前から指摘しているように、株安の際に金に売りが出る状況は、きわめて危険といえます。

その理由は、リーマン・ショックの際にも同じことが起きたためです。当時も株価が大きく下げましたが、その過程で安全資産である債券と金も売られました。そして、ドルが買われました。

今、市場では、ドル需給のひっ迫が懸念されており、これを緩和させるために、主要中銀がドル資金の供給を大量に行っています。しかし、ドルの上昇は止まらず、主要6通貨に対する動きを示すドル指数は102.992ポイントまで上昇し、2017年1月以来の高値を付けています。

リーマン・ショックの際には、ドル指数は2008年3月の70.698から、2009年3月には89.624まで上昇しています。当時の株価の下落が止まったのが2009年3月であり、ドル指数の高値を付けたタイミングと同じです。

つまり、今の株式市場が下げ止まるサインとして、ドル指数の高値確認が指摘できます。今のドルひっ迫状況が緩和し、ドル指数が高値から反落するときには、株安も止まることになりそうです。

一方、リーマン・ショックの際の金相場は、ドル指数が安値を付けた2008年3月に1,030.80ドルの高値を付けた後、ドル高基調と投資家の株安を背景とした換金売りに押され、2008年10月に680.80ドルの安値を付けました。しかし、株価が2009年3月に底値をつける半年前に底打ちし、その後も上昇基調が続きました。

この間、米10年債利回りは、2008年12月に2.04%で底打ちし、2009年6月に4.00%に上昇しました。しかし、その後も利回りは上昇しなかったことや、欧州債務危機に陥ったこともあり、金相場は2011年9月には1,920.30ドルまで一気に駆け上がり、過去最高値を付けました。

今回のケースがリーマン・ショック当時と同じパターンになるかはわかりません。ですが、金に対する換金売りが止まり、株安傾向が続く中でも金に安全資産としての買いが戻るようであれば、金相場は株価に対して先行して底値を付けて、反発する可能性はあるでしょう。このような動きになるかを見ておくことは、今後の金融市場全体の動きを見るうえでも、重要なサインになるものと思われます。

現在は、新型肺炎の感染拡大による経済や企業活動の停滞を背景に、景気が落ち込む可能性がきわめて高い状況です。

各国政府・中銀が財政出動や金融緩和を通じて、状況の悪化を食い止めようと必死に政策を繰り出しています。しかし、現時点では新型肺炎感染の鎮静化が見られないこともあり、投資家の心理状態は改善されていません。

株価の下落基調も止まっていないこともあり、今後も金に換金売りが出る可能性があります。中銀による緩和策はすでに限界に達しており、頼みの綱は財政政策です。財政出動が実行されるなか、新型肺炎の感染拡大が止まらないうちは、株価の下落が続く可能性があります。

リーマン・ショックと現在の株安の背景は全く違いますが、市場は過去の値動きを踏襲する傾向があります。米国株が直近高値から3割下落すると、過去平均ではさらにそこからあと2割下げるのが平均的な動きです。

3月20日の市場で米国株が下げたことで、高値からの下落率は3割を超えました。したがって、あと2割程度の株安になってもおかしくないとの前提で、市場を見ていく必要があると考えています。

過去に米国株が高値から3割下落した際には、底打ちまで最短で4ヶ月、平均で20ヶ月です。もっとも早ければ、6月には底打ちする可能性もありますが、そのケースでは金相場は早晩底打ちする可能性もあります。リーマン・ショックの際のように、金相場が株価に先行して反転することも想定されますので、この動きを注視しておきたいところです。

目先は1,450ドルを維持できるかがポイントになりそうです。この水準には長期のトレンドラインが控えているため、ここを維持できるかどうかは今後のトレンドを見極めるうえできわめて重要であると考えられます。

これを割り込むと、次のサポートは1,370ドル程度にまで下がります。したがって、まずは1,450ドルを維持できるかを注視しておきます。そのうえで、株式市場や金利、さらにドルの動きなど外部要因に変化があるかを常に確認したいところです。

また、現時点の米実質金利から計算した金価格の理論値は1,650ドル程度と考えられます。しかし、現在の原油安などを背景にインフレ率が低下する可能性があります。その場合には、理論値は低下するため注意が必要です。また、米名目金利が上昇した場合にも同様に理論値が低下するため要注意です。

円建て金相場はドル建て金相場の下落を背景に、一時節目の5,000円を割り込みました。チャートを見るかぎり、5,200円が重要なサポートになっているようです。まずはこの水準を維持し、さらに上向くかを確認したうえで、買いを検討したいところです。

今はドル高基調が続いているため、円安基調が円建て金相場を支えています。しかし、円建て金相場の上昇には、本質的にはドル建て金相場の上昇が不可欠です。したがって、まずは上記の背景を理解したうえで、ドル建て金相場の値動きを注視しておきたいところです。

また、繰り返すように、資産運用におけるリスク分散の観点からも、長期的な視点で金への投資を継続したいところです。

プラチナ:大幅続落の展開

プラチナは大幅続落しました。世界的な株安が続く中、自動車販売台数の減少による需要減退懸念などを背景に大きく値を下げました。

3月16日には一時558ドルまで下落し、リーマン・ショック時の安値を下回り、2002年以来の安値を付けました。その後は戻りを試すものの戻り局面では売りが出る形で水準を切り下げ、週末は611ドルで引けました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するNYMEXプラチナ先物市場における3月17日時点の大口投機筋のポジションは2万7647枚のネット買い越しとなり、前週から買い越し幅が5,600枚縮小しました。買いポジションが8,450枚減少し、売りポジションが2,850枚減少しました。金相場の調整もあり、プラチナ相場は上値を大きく切り下げています。

また、同じ白金族系メタルのパラジウムも3月16日には一時1,481ドルにまで下落するなど、工業用に使われるこれらの貴金属にも売りが出ています。中国で見られる自動車市場の弱さや、工業用需要の下振れリスクを織り込む動きといえます。

このような大きな下げに見舞われると、価格水準の回復には相応の時間がかかるものと思われます。新型肺炎の感染拡大による経済への影響は試算が難しく、プラチナ相場もいつどのタイミングでどの程度戻すことができるかを想定するのはきわめて難しい状況にあります。

今回の相場下落の背景を考えれば、まずは新型肺炎の感染拡大が止まり、経済への影響が緩和されるのを待つことになりそうです。もっとも、相場は経済の動きを先読みして動くことが多いといわれます。その意味では、ファンダメンタルズ材料を注視しながらも、まずは価格動向をよく見ておくことが重要であると考えます。

円建てプラチナ相場は大幅続落しました。ドル建てプラチナ相場の下落を円安がカバーしきれないほど、大きく値を下げています。現時点ではサポート水準の節目を確認するのが難しい状況です。

したがって、まずはドル建てプラチナ相場の反転を待ちたいところです。そのうえで、円建てプラチナ相場の底打ちから反転の兆しが見られれば、その時点で買いを検討したいところです。いまは押し目買いを避けて、上昇に転じるのを待ったほうが賢明であると考えます。

【図表2】プラチナ 縦軸:円建てプラチナ/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

シルバー:大幅続落の展開

シルバーも大幅続落となりました。金相場の軟調さに加え、株安を背景に銀市場でも売りが優勢となっています。3月16日には一日で2.8ドルも下落する場面があるなど、文字通りの急落となりました。

その後も3月18日に一時11.61ドルまで下落し、2009年以来の安値を付ける場面があるなど、軟調な動きになりました。週末は12.58ドルで引けました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX銀先物市場における3月17日時点の大口投機筋のポジションは4万1968枚のネット買い越しとなり、前週から買い越し幅が2,979枚縮小しました。買いポジションが1万3902枚減少し、売りポジションが1万923枚減少しました。

銀相場も工業品向けの需要が大半であることから、株安や景気鈍化懸念を直接的に受けています。したがって、新型肺炎の感染拡大が止まり、将来不安がなくなるような事態にならない限り、株価と同様に銀相場も下落は止まらないでしょう。

銀相場の急落もあり、金/銀レシオは前週の104倍から119倍にまで拡大し、過去最大水準になっています。しかし、これが銀相場の割安感を示しているとは安易に見ることはできません。

まずは銀相場の下落そのものが止まるのを確認することが肝要です。そのうえで、周辺の材料も併せて確認したうえで、銀相場の反転のきっかけを待ちたいところです。12ドル台半ばの水準を維持することができれば、その可能性が徐々に高まり、いったんは相場が上向く可能性もありそうです。

円建て銀相場も急落しています。ドル建て銀相場の下落が影響しています。そのため、まずはドル建て銀相場の下げ止まりを確認したいところです。そのうえで、44円前後での下げ止まりを確認したいところです。

今は安易な押し目買いは避け、反転・上昇の動きを確認したうえで、買いを検討したいと考えます。回復基調を待ってからでも買いは遅くないでしょう。

【図表3】シルバー 縦軸:円建てシルバー/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成