先週のゴールド:大幅反落の展開

金相場は急落しました。3月9日には新型コロナウイルスの感染拡大への懸念を背景に株価が急落したことを受けて、2012年12月以来の高値となる1,702.56ドルをつける場面がありました。しかし、その後は投資家は株安に伴う追加証拠金を支払うために金を売ったことで、高値から下げました。

また、米国を中心に世界各国で景気刺激策が講じられるとの期待を背景に株価が上昇したことも、安全資産の金売りにつながりました。トランプ米大統領が3月9日に、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた業種を対象とする給与税減税や所得補償など「大規模な」景気対策の実現を与党共和党に働き掛けると表明したことも売りにつながりました。

さらに、米長期金利の低下が一服する中、為替市場では対ユーロでドル高が進行したことで、ドル建て金相場の割高感につながったことも売りを誘いました。その後も金相場は続落しました。世界的な株安を受けて、証拠金支払いのために金を売る動きが続きました。週末3月13日も大幅続落となり、一時1,506.35ドルまで下落し、週間ベースでは1983年以来の大幅下落となりました。

また、週末にトランプ大統領が国家非常事態を宣言し、最大500億ドルの資金活用などを表明したことで株価が上げ幅を大きく拡大したことも、金売りにつながりました。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は、3月6日の955.6トンから、3月13日には931.59トンに減少しました。3月9日には963.79トンに増加しましたが、その後は減少傾向が続いています。株価の急落で資金不足に陥った投資家が換金売りを出している可能性が指摘できます。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX金先物市場における3月10日時点の大口投機筋のポジションは29万9531枚のネット買い越しとなり、前週から2万202枚減少しました。買いポジションが2万9883枚減少し、売りポジションが9,681枚減少しました。

円建て金相場は、ドル建て金相場の下落を背景に大幅安となりました。

【図表1】先週のゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

今週のゴールド:下値堅めができるかに注目

今週のゴールド投資をする上での3つのポイント
・世界的な株安による換金売りの動きに注目
・中国・ロシアなどの押し目買いの動き
・円建て金相場はドル建て金相場の動き次第の展開に

金相場は急落に見舞われています。この下げは、将来の金融市場の動向を占ううえで、きわめて危険なサインである可能性があります。

先週も「現在のような混乱期には、金に換金売りが出ることもあります。株価の値下がりで現金が不足する投資家が多く出た場合、それまで利益が出ていた金を売却して穴埋めをすることもあります」としましたが、まさにこの動きが加速したのが先週の株安局面でした。

これまで米国を中心に、世界的な株価が上昇してきました。その背景には世界の中央銀行が緩和的な政策を維持したことによる過剰な資金供給があるとの指摘があります。その結果、余剰の資金が株式市場に流れ込み、その逆流の動きが今見られているとの見方です。

しかし、単に保有株の売りだけでは、株価が直近高値から2割も下げるようなことは起きません。やはり、かなりのレバレッジをかけて買いを入れていた向きが少なくなかったということでしょう。

本来は、株安の際には安全資産として買われるはずの金がここまで売られている背景には、株安が短期間で急速に進んだことで、レバレッジをかけて投資をしていた投資家が資金不足に陥り、利益が出ている資産に売りを出して、その穴埋めに走ったからと思われます。

この動きがなぜ危険なサインかといえば、リーマン・ショックの際にも同じことが起きたからです。当時も株価が短期間で急落しましたが、その際に安全資産である債券と金も売られました。そして、ドルが買われました。まさに、今目の前で起きていることが当時も起きていたわけです。

今回の金融市場の混乱は、新型コロナウイルスの感染拡大による経済や企業活動の停滞が懸念される一方、ウイルス拡大がいつ止まるのか、さらに影響がどの程度出るのかが全く読めないことによる不安感があるといえます。

その意味では、今回の金融市場の混乱は、リーマン・ショックのときのように金融的な事象で起きたわけではありません。また、過去の様々な市場の混乱を経験してきたこともあり、主要国の中央銀行は可能な限りの金融的な支援を行うでしょう。

したがって、中銀の政策ミスによる市場の混乱拡大の可能性はほとんどないといえると思われます。しかし、主要国の中銀が緩和策を発表しても市場落ち着かないのは、市場がまだまだ安心できないからでしょう。財政出動などの実経済への直接的な資金供給が実行されれば、市場は徐々に落ち着きを取り戻す可能性はあると思われます。

世界経済のサイクルや、米国株のサイクルから、もともと2020年で株価と景気はピークアウトするとみていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大という要因でサイクルがやや狂い始めています。しかし、いったん沈静化すれば、年末までも前にもう一度株価は戻すことがあるでしょう。

現在の株価動向は、1929年の世界恐慌のときと極めて似た時系列をたどっているようです。上げ方や下げるタイミングがほぼ同じサイクルになっている点はきわめて興味深いといえます。

今後の株価が、当時の株価推移をなぞって動くのであれば、3月から4月初めにはいったん底打ちし、7月から8月に向けていったん大きく値を戻しそうです。しかし、過去最高値の水準から10%程度低い水準で上値が打たれ、長期停滞に入る可能性がありそうです。

低金利で低成長を続けてきた世界経済が、サマーズ元米財務長官が指摘するように、今後は長期停滞に陥ることも十分に想定されるでしょう。その場合には、少なくとも3年程度はデフレが続く可能性があります。そうなったときには、金はデフレヘッジとしての位置づけで、価値を見出される可能性がありそうです。

米連邦準備制度理事会(FRB)は3月15日、緊急の米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は0~0.25%に引き下げました。実質的な「ゼロ金利政策」です。 

FRBは、経済が最近の状況を克服し、インフレ・雇用の目標の達成軌道に乗るまで政策金利を0~0.25%の水準に維持する方針です。また、「危機は米国およびその他の国の社会に打撃を与え、経済活動を混乱させており、目先の活動を圧迫する見通し」としています。

そのうえで、「経済支援にあらゆる措置を活用し、向こう数ヶ月で米国債を5,000億ドル、MBSを2,000億ドル増やす」としました。今回のFRBの決定により、2008年のリーマン・ショック後に導入した実質ゼロ金利が約4年ぶりに復活することになります。

3月17・18日に予定していたFOMCを前倒しすることによる「サプライズ効果」で、動揺が続く市場の沈静化を狙いました。しかし、市場の反応は芳しくなく、ダウ平均先物は1,000ドルを超える下落となっています。

一方、金相場は利下げを受けて急伸しています。今後の市場動向を見る必要はあるものの、利下げだけでは市場は満足しない可能性があります。

最終的に混乱を抑制するためには、日銀のようにETFの買い入れなどの可能性を示す必要が出てきそうですが、このカードは今はいらないほうが賢明でしょう。

一方、金相場は1,600ドルまで急激に上げてきたこともあり、これまで主体的に買っていた中国やロシアなどの政府・中銀は買い遅れてる可能性があります。

これまでの政府・中銀による金買いは、この両国がけん引してきました。しかし、金価格が高くなったことで、買い遅れている可能性がありそうです。現在の金相場の水準は、高値から大きく下げており、以前に比べると買いやすくなっています。そのため、彼らが買い始めるようだと、下値は限られるといえます。

目先は1,525ドルから1,500ドルが重要なサポートレベルになっていますので、まずはこれらの水準で下げ止まるかを確認したいところです。また、換金売りが落ち着いた後に、再び買われるかにも注目しておきます。

円建て金相場はドル建て金相場の下落が影響して、下げ基調にあります。為替相場も乱高下しており、円建て金相場は上下に大きく振れながら下げています。今はリスク回避のドル買いが強まっており、結果として円安基調にありますが、これはドル建て金相場が圧迫されやすい地合いにあることを示しています。

最終的にはドル建て金相場が戻すことが不可欠ですので、まずはその動きを確認したいところです。そのうえで、5,400円で下げ止まるのを確認したうえで買いを検討したいところです。また、繰り返すように、資産運用におけるリスク分散の観点からも、長期的な視点で金への投資を継続したいところです。

プラチナ:大幅反落の展開

プラチナは大幅反落しました。世界的な株安を背景に上値が重くなる中、週末にかけて金相場が下落したこともあり、プラチナ相場は大きく値を下げました。

3月9日には金相場の上昇につれて910ドルまで上昇する場面がありましたが、その後は文字通り急落し、3月13日には一時734ドルまで下落し、リーマン・ショックの際の2008年10月につけた安値の732ドル以来の安値をつけました。最終的には761ドルでこの週の取引を終えました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するNYMEXプラチナ先物市場における3月10日時点の大口投機筋のポジションは3万3247枚のネット買い越しとなり、前週から買い越し幅が790枚縮小しました。買いポジションが3,663枚減少し、売りポジションが2,873枚減少しました。

プラチナ相場は株価の動きにつれる形で、きわめて短期間のうちに安値を付けています。2月19日につけた戻り高値の1,017ドルからの下落率は28%近くに達しています。まさに株価の下落に追随するように下げています。

このように考えると、プラチナ相場は本質的に工業品向け需要が多く、景気や株価動向に左右されやすいことがわかります。また、新型コロナウイルスの感染拡大による景気鈍化懸念の高まりもあり、プラチナの最大の需要先である自動車産業の低迷が懸念されています。

さらに、同じ白金族系メタルで過去最高値を更新し続けていたパラジウムが、2月27日につけた高値の2,875ドルから、3月13日には一時1,631ドルまで下落し、43%もの大暴落になっていることも、プラチナ相場の下げにつながったといえそうです。

このように、白金族系メタル相場が崩れた以上、簡単には戻りにくいといえそうです。リーマン・ショック以来の安値に沈むプラチナ相場が回復するには、株価の反発と目先の不透明感の解消が不可欠であることはいうまでもないでしょう。

円建てプラチナ相場は大幅続落しました。ドル建てプラチナ相場の下落で安値を更新し続けています。上記のように、市場の環境が厳しいことから、まずはドル建てプラチナ相場の反転を待つことになるでしょう。

そのうえで、下げ止まるのを確認したうえで、押し目買いを検討したいところです。すでに相当の安値圏にあることは確かでしょう。いったん反転すると大きく値を上げる可能性もありそうです。まず節目の3000円を回復し、この水準がサポートになるのを確認したうえで、買いを検討したいところです。今は押し目買いを避けて、上昇に転じるのを待ったほうが賢明であると考えます。

【図表2】プラチナ 縦軸:円建てプラチナ/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

シルバー:大幅反落の展開

シルバーも大幅反落となりました。株価の急落に連れるように下げており、節目の15ドルを割り込んで、週末13日には一時14.41ドルまで下げました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX銀先物市場における3月10日時点の大口投機筋のポジションは4万4947枚のネット買い越しとなり、前週から買い越し幅が3,356枚縮小しました。買いポジションが7,453枚減少し、売りポジションが4,097枚減少しました。

銀相場も工業品向けの需要が大半であることから、株安や景気鈍化懸念には脆弱だったといえます。3月24日の高値である18.93ドルから安値までの下落率は24%に達しており、株価とほぼ同様の下げに見舞われています。

したがって、銀相場の反発には、少なくとも株価の回復が不可欠といえそうです。常時では金相場の動きに連れることが多いのが銀相場の特徴ですが、今回のような有事になると銀の下げ方は大きくなりがちです。

今回の銀相場の急落もあり、金/銀レシオは104倍にまで拡大しています。これまではおおむね80倍台で推移していましたが、一気に水準を切り上げてしまいました。それだけ、両者の価格の強弱感に違いが出てきているといえそうです。

過去の金と銀の関係はかなり薄れている可能性がありますので、この点を念頭に置いておきたいところです。そのうえで、まずは16.5ドルを回復するのを待ちたいところです。

円建て銀相場も急落しています。直近安値から大きく値を下げており、下値の目途が見えない状況です。まずはドル建て銀相場の下げ止まりを確認したうえで、買いのタイミングを探りたいところです。そのうえで、57円水準を超えてくれば、いったんは底打ちから反転に向かい始めた判断できそうです。

これらの動きを見たうえで、徐々に買いを検討したいところです。現時点で押し目買いを行うのはまだまだリスクが高いでしょう。基調回復を待ったうえで買いを検討するのが賢明であると考えます。

【図表3】シルバー 縦軸:円建てシルバー/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成