先週のゴールド:上昇の展開

金相場は上昇しました。中国・湖北省武漢市で発生した新型肺炎の拡大懸念を背景に安全資産として買われています。新型肺炎による死者は、2003年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の全世界での死者を既に2月9日時点で超え、感染拡大や経済的な打撃への懸念が強まっています。これらを受けた投資家の不安心理を反映して、安全資産への逃避としての金買いが継続しています。

一方、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が議会証言で、堅調な米経済見通しを示したことから、世界的に株価が上昇。さらに、ドル指数は対主要通貨バスケットで4ヶ月ぶりの高値付近で推移したため、ドル以外の通貨を保有する投資家にとってドル建ての金価格が割高になったことから売られる場面もありました。

しかし、2月13日には金相場は再び上昇に転じました。中国ではこの日、感染確認の基準変更により死者と感染者が急増しました。

また、日本で初めて新型肺炎感染者の死亡が確認されました。中国本土外で死者が出たのは香港とフィリピンに続いて3ヶ所目となります。週末2月14日にはさらに値を上げ、1,584.31ドルで引けました。一時は1週間超ぶりの高値を付けました。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は、2月7日の916.08トンから、2月14日には923.99トンに増加しました。投資家が金保有量を増やす傾向は依然として続いています。新型肺炎の感染拡大で、投資家のリスクヘッジの動きがさらに加速しているようです。

CFTC(米先物取引委員会)が公表するCOMEX金先物市場における2月11日時点の大口投機筋のポジションは30万7974枚のネット買い越しとなり、前週から8,168枚増加しました。買いポジションが626枚増加し、売りポジションが7,542枚減少しました。売り方の買い戻しが目立っています。

円建て金相場は、ドル建て金相場が堅調に推移したことから上昇しました。

【図表1】先週のゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

今週のゴールド:高値更新の可能性も視野に

今週のゴールド投資をする上での3つのポイント
・新型肺炎の経済への影響は不透明
・投資家のリスク回避姿勢は継続
・円建て金相場は底堅さを維持

金相場は当面の間、底堅い展開が続く中、材料次第では急伸する可能性もありそうです。市場の最大の関心事は、やはり新型肺炎の感染拡大と経済への影響です。

1月31日に株価が急落して以降、その翌週は順調に株価は戻してきました。しかし、中国の新型肺炎の感染者に関する情報が大きく変更されたことで、中国が発信するデータへの不信感が高まり、新型肺炎の感染拡大への懸念がさらに強まる結果となっています。

感染者数は日々増加しており、終息の兆しが見えません。気候が暖かくなれば新型コロナウイルスが死滅し、問題は解決するとの楽観的な見方もあるようですが、日本でも感染が拡大しており、先週末にはアフリカでも感染が確認されています。

特にアフリカは衛生面が良くない地域が多いことや、中国企業が多く進出するなど、新型肺炎感染の拡大リスクが他の地域よりも格段に多いと考えられます。アフリカでの感染拡大が広がれば、様々な影響が出てくるものと思われます。市場関係者の中にはSARSの例を持ち出し、楽観的な見方を示す向きは少なくありませんが、医学的根拠に乏しい発言といえるため、相当の注意が必要と考えています。

金融市場では、新型肺炎の感染に関する報道で一喜一憂するようになってきました。株式市場ではまだ明確な影響は出ていません。特に、世界の株式市場をけん引する米国では、ウイルスへの過度な懸念は避けるべきとの見方が多いようで、投資家はあまり関心を持たずに株式を購入しているようです。

その結果、米国の主要株価指数が過去最高値を更新するなど、上値追いの動きが続き、S&P 500の株価収益率(PER)は19倍を超えるなど、ハイテクバブル以来の高水準になっています。主要ハイテク企業が自社株買いを進めていることなどもあり、株価が下げにくい構造になっていることも、米国株を押し上げているといえます。米国株は、世界の株式市場における「安全資産」として買われている面もあり、今後も下げにくい状況が続きそうです。

このような状況の中、投資家の米国株の買いは金融市場の動きを見ると一時的なものにとどまった可能性があります。米雇用統計は堅調な内容でしたが、すでに株価が大きく戻していたこともあり、手仕舞い売りの材料になったといえます。

米国株は堅調に推移しているものの、S&P 500の株価収益率(PER)見通しが18.8倍と、過去10年平均を大きく超えるなど、割高感も目立っています。

現在進行している昨年第4四半期の企業業績の発表を見る限り、減益見通しが増益に変わりつつあるものの、株価の割高感を払しょくするには至っていません。また、新型肺炎の経済への影響などが不透明であることから、投資家は安全資産である金への投資をむしろ拡大させています。

中国保健当局は2月15日、新型肺炎について、2月14日時点で中国本土での新たな感染者は2,641人、感染による新たな死者は143人と発表しました。これにより、累計での感染者数は6万6492人、死者数は1,523人となりました。

流行の中心である湖北省では、2月14日時点の新たな死者は139人で、このうち107人が省都の武漢で死亡しました。さらにフランスでは高齢の中国人旅行者が、新型肺炎の感染で死亡したと報じられています。新型肺炎による欧州で初の死者となり、欧州での感染拡大のリスクも高まる可能性があります。

欧米からは、「日本人は新型肺炎に過剰に反応しすぎである」などの声が聞かれます。しかし、自国に感染拡大の動きが広がれば、そのような楽観的な見方を変えざるを得なくなるでしょう。

今回の新型肺炎の感染拡大は、明らかにSARSのときとは違います。感染の規模も経済への影響もけた違いになるでしょう。投資家は一段の備えが必要と考えています。無論、このような備えが無駄に終わればよいのですが、身体も資産も自衛するしかありません。

新型肺炎に関する報道をしっかりとフォローし、そのうえで市場動向を冷静に見極めたうえで、対処することが肝要です。そのうえで、資産保全のために長期的な視点で金を保有するという基本的な考え方を、従来以上に重視すべきと考えます。

金相場は短期的には上向き基調にあります。今後の新型肺炎の動向次第では、1月8日につけた高値の1,551.87ドルを超える場面もありそうです。今後も投資家の資金の受け皿になりやすい状況が続くことを考えると、金相場が底堅い展開から徐々に水準を切り上げていく可能性が高いといえます。

一方で米短期金利市場では、FRBが年内に0.25%ポイントの利下げを実施する確率が7割を超えています。市場が利下げを要求する状況にあることも、金相場を支えることになるでしょう。

政府・中銀は金保有量を増やしたいものの、なかなか金相場が下がってこないため、押し目買いの機会を逸しています。このまま上昇すれば、ある時点で一気に購入してくる可能性があります。特に中国にはそのような傾向があります。

また、水準が切り上がったときにそのような動きがみられることが多いため、1,600ドルを超えた後の動きには要注目といえます。つまり、いったん1,600ドルを超えると、今度はその水準が下値になりやすくなりますので、ますます下げにくくなります。このような傾向があることも、念頭に置いておきたいところです。

円建て金相場も底堅い推移を想定しています。5,600円を明確に超えて、この水準が下値になるようだと、さらに水準を切り上げていく可能性が高まりそうです。ドル建て金相場の堅調さを考慮すれば、上値を抜けていく可能性は十分にありそうです。すでにポジションを保有している場合には、利を伸ばすことを考えたいところです。

一方、現時点で金相場が大きく軟化する理由はあまり見当たりませんので、押し目は逃さずに買いたいところです。また、資産運用におけるリスク分散の観点からも、長期的な視点で金への投資を継続したいところです。

プラチナ:横ばいの展開

プラチナはほぼ横ばいの小動きでした。それまでのレンジであった950ドルから980ドルの狭い範囲で上下する展開となり、週末は963ドルで引けました。

CFTC(米先物取引委員会)が公表するNYMEXプラチナ先物市場における2月11日時点の大口投機筋のポジションは6万1840枚のネット買い越しとなり、前週から買い越し幅が940枚縮小しました。買いポジションが1,242枚減少し、売りポジションが302枚減少しました。プラチナ相場は方向感が見えない状態にあります。950ドルから980ドルのレンジを抜けきれずに、方向感のない展開が続きました。

同じ白金族系メタルのパラジウム相場が徐々に下値を切り上げる展開だったことと比べると、プラチナ相場の動きはかなり鈍いといえます。材料不足でもあり、方向感をすっかり失ったといえます。次の材料次第では、上昇も下落もあり得る状況といえます。

現時点では、下値が切り上がり、中期的な上昇基調も維持されています。950ドルを維持する動きが続けば、上昇を探る動きが出てくるものと考えています。ただし、注意したいのが新型肺炎のプラチナ市場への影響です。

プラチナが自動車触媒の原料として使用されるディーゼル車の欧州での販売台数は、引き続き軟調に推移しています。先週も示したように、ドイツの2020年1月の新車登録台数は前年同月比7.3%減の24万6300台にとどまり、そのうちディーゼル車は12.4%落ち込みました。市場における比率は32.6%に低下しており、プラチナ需要の減退リスクからは目が離せない状況です。

世界的にも自動車市場が縮小している中、プラチナ相場が大きく上昇するには、連動性の高い金相場の上昇やパラジウム相場の底堅い展開が不可欠になりそうです。プラチナ市場に主体性がまだ確認できないため、今後も当面はこのような考え方で市場動向を見ていきたいと考えます。

円建てプラチナ相場は上昇しました。ただし、辛うじて3,500円を維持している状況であり、ほぼ横ばいの動きといえます。次の方向性はドル建てプラチナ相場の動向次第になりそうです。3,500円を明確に上回れば、その流れに乗る形で買いを検討したいところです。

一方、下落した場合には3,400円で下げ止まるかを確認したうえで、買いを検討したいところです。ただし、3,400円を割り込むような下げになった場合には、買いを見送り、下値確認を優先したいと考えます。

【図表2】プラチナ 縦軸:円建てプラチナ/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

シルバー:小幅続伸の展開

シルバーは反発しました。ただし、上値の重い状況にあり、17.45ドルから17.80ドルのきわめて狭いレンジでの推移となりました。週末は17.73ドルで引けました。

CFTC(米先物取引委員会)が公表するCOMEX銀先物市場における2月11日時点の大口投機筋のポジションは6万7637枚のネット買い越しとなり、前週から買い越し幅が166枚減少しました。買いポジションが683枚減少する一方、売りポジションも517枚減少しました。

銀相場も方向感を失った格好です。連動性の高い金相場は下値を切り上げ、堅調な値動きになっていますが、ファンダメンタルズの背景が異なる銀市場に対して、金市場と同様の見方から買いが入る動きはいまのところ確認できない状況にあります。

もっとも、現時点では下値は堅く、中期的な上昇トレンドも維持されています。そのため、すぐに相場が崩れるようにも見えないといえます。とはいえ、レンジの下限である17.45ドルを割り込むようだと、いったんは崩れる可能性がありそうです。

新型肺炎の影響もまだ見えないこともあり、実需が減少する可能性についても現時点では試算が難しいといえます。金とは異なり、安全資産としての買いが入らないことを考えると、今後は金相場との連動性が薄れ、価格差がさらに拡大するリスクもあります。

特に株式市場が崩れた場合には、そのような動きが顕著になりそうですので注意しておきたいところです。下げに転じた場合には、17ドルちょうどから16.50ドルがサポートになるものと考えています。

円建て銀相場は小幅に下げました。ただし、小動きといえるでしょう。64円から65円の範囲で変動しており、方向感はありません。目先は65円を超えたところで買いを検討することを考えたいところです。

その一方で、64円を割り込んだ場合には、いったん買いを見送り、下値を確認したいところです。特に直近安値の63円を割り込むと下値が見えなくなりそうですので要注意です。依然として三角保ち合いの状況ですので、レンジを抜けたほうについていくのが賢明でしょう。引き続きドル建て銀相場と為替相場の動きをよく見たうえで判断したいところです。

【図表3】シルバー 縦軸:円建てシルバー/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成