先週のゴールド:急伸の展開

金相場は急伸しました。昨年末はポジション調整が中心となる中、米国株の調整を背景に買いが入りました。

イラク駐留米軍基地への攻撃に対する報復として、イランを後ろ盾とするイスラム教シーア派組織「カタイブ・ヒズボラ」の拠点5ヶ所を空爆したとの米政府発表も地政学的リスクと受け止められたことも、安全資産とされる金買いを促しました。

12月31日はドル安・ユーロ高に伴う割安感などに支えられ、6日続伸となりました。また、この日の米国株が軟調だったことや、コンファレンス・ボードが発表した12月の米消費者信頼感指数が前月から低下し、市場予想を下回ったことなども金買いを支えました。

年明け1月2日にはさらに上昇し、7日続伸となりました。為替市場でドル売り・ユーロ買いが優勢となった場面では、ドル建て金相場の割安感が強まり、一時1,531.20ドルまで上昇する場面も。ただし、買い一巡後は利益確定売りで上げ幅を削りました。

週末1月3日の市場では、中東情勢の緊迫化を背景とした買いが膨らみ、8日続伸しました。一時1,553.20ドルまで上昇し、節目の1,550ドルを超えました。

米国防総省は、トランプ米大統領の指示によりイラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官を殺害したと発表。これに対してイランの最高指導者ハメネイ師は1月3日、「厳しい報復」を宣言しました。

米イラン間の対立が一層激化するとの懸念が台頭する中、この日は世界的にリスク回避の流れが強まり、金は円やスイス・フラン、米国債などの安全資産とともに選好されました。

また、米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した12月の米製造業景況感指数が47.2と10年半ぶりの低水準となり、景気拡大・縮小の節目とされる50を5ヶ月連続で割り込んだことも投資家心理を圧迫しました。これらを受けて、金相場は1,550ドル台の高値圏を堅調に推移し、1,551.40ドルで取引を終えました。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は、昨年12月27日の893.25トンから、1月3日には895.3トンに小幅増加しました。株価が高値を更新する中でも、投資家の金保有量は維持されています。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX金先物市場における12月24日時点の大口投機筋のポジションは30万5652枚のネット買い越しとなり、前週から1万9377枚拡大しました。買いポジションが1万9817枚増加し、売りポジションも440枚増加しました。金相場の上昇に伴い、投機筋の買いが急速に拡大していることが確認できます。

円建て金相場は急騰しました。為替相場は円高で推移しましたが、ドル建て金相場の急伸で水準を大きく切り上げました。

【図表1】先週のゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

今週のゴールド:高値更新の展開を想定

金相場は年末から年初にかけて上昇基調をさらに強めています。12月24日にそれまでの重要な上値抵抗ラインだった1,490ドルを超えたことで、上昇に勢いがつき始めています。

昨年9月24日の高値である1,535.60ドルを超えており、9月4日につけた1,557.00ドルも目前に迫っています。これを超えると、2011年9月につけた1,920ドルも視野に入りそうな勢いです。1,557ドルを超えるようだと、金市場は新たなステージに入りそうです。

現在の金融市場における「株高、ドル高、金利低下、金上昇」の組み合わせは、一般的に考えられているセオリーからすれば非常に奇妙に見えます。

現状を分析すれば、株価は上昇しているものの、資金の大半は債券に流れており、これが低金利状態の長期化につながっているといえます。その低金利状態の恩恵を受ける形で、金相場も堅調に推移していると考えることができそうです。

この状況は、米国の主要株価指数が過去最高値を更新する中でも、投資家が依然として慎重姿勢を変えておらず、資金を株式よりも債券に振り向けている状況にあるといえます。

これは、景気循環と株価変動のサイクルにおける第1フェーズで見られるパターンです。つまり、投資家はまだ大半が本心から株式市場に強気になっていないことを示しています。さらに言えば、市場に資金が潤沢にあり、一部は株式に振り向けるにしても、債券にも十分に資金を振り向けることができる状況にあることを示しているといえます。

このような状況が続く背景には、やはりFRB(米連邦準備制度理事会)による緩和的な金融政策の影響があるでしょう。FRBはこれまでの利下げ効果を見極めるため、今年は政策金利を据え置くとみられています。

11月の米大統領選に向けて成長や雇用の拡大が主要なポイントになるとみられる中、過去最長となった景気拡大の維持へ重圧がかかることになります。

FRBは昨年、米中貿易摩擦や世界経済の減速を警戒し、約10年半ぶりに利下げを実施しました。7月から3回連続で政策金利を引き下げた後、12月は年1.50~1.75%に据え置きました。

今年の成長率は2.0%と、潜在成長率を若干上回ると見込んでいます。さらに、銀行間の資金不足を背景とした短期金利市場における金利急騰を鎮めるために、2019年10月からは月額600億ドルの実質的な量的緩和策も開始しており、市場を支える姿勢を鮮明にしています。

米景気拡大は過去最長を更新中で、今夏まで続けば12年目に入ることになります。FRBのパウエル議長は、「米中貿易協議の第1段階の合意は景気にプラス」とし、「利下げ効果の発揮には時間がかかる」として、今年は利下げも利上げも必要ないとの考えを示しています。

ただし、企業の投資や生産活動は低調なままで、堅調な雇用や個人消費に波及しかねないとの懸念も強いといえます。日銀やECB(欧州中央銀行)の大規模金融緩和で世界景気が持ち直すかは不透明な情勢であり、FRBが追加利下げを迫られるシナリオも排除できないとの指摘もあります。

また、米大統領選での再選がかかるトランプ米大統領が金融緩和による景気底上げを狙いFRBに対して利下げ圧力を強める可能性も高いといえます。さらに、空席となっている理事の人事などを通じて、FRBがトランプ色に染まる事態を危惧する声もあります。また、物価上昇圧力も依然として弱く、これも懸念材料といえます。

日米欧の中銀がこれまで実施してきた低金利政策は、インフレ率の押し上げにはほとんど寄与しなかったとの結論がすでに出ている中、特に日銀とECBについてはこれ以上のマイナス金利の深堀の理由に乏しい状況にあるといえます。

低成長、低インフレ率、低金利が恒常化する「ニューノーマル」の状況がいつまで続くのか、極めて不透明な情勢にあります。この状況が続けば、再びデフレ色が強まる可能性も指摘されています。

そのため、FRBはデフレ回避のため、インフレ率が2%目標を超えることを容認する新たな政策枠組みを上半期に示す予定とされています。しかし、具体的にどのような政策になるのかは不透明であり、金融政策によるインフレ率の引き上げや景気拡大には限界も見えます。

このような状況から、今後も低金利状態が続くとの見方が根強いといえます。それが、債券市場への資金流入につながっている面があるといえそうです。真に力強い景気状況が戻ってくれば、企業も設備投資を増やすなど資金需要が高まり、結果として金利が上昇するといった好循環が生まれるでしょう。

しかし、現状は、企業は資金余剰にあり、その資金を自社株買いに使うなど、株価の押し上げに必死です。このような状況では、企業業績がついていかない中で株価が上昇することになり、株価と業績の乖離が大きくなります。

無論、景気の好循環は生まれず、金利も低いままで推移することになります。このような状況は、債券市場や金市場にポジティブに作用するでしょう。もっとも、企業の資金需要が自社株買いではなく、設備投資に向かうようようであれば、徐々にインフレの目も出てくるでしょう。

さらに、原油相場などが堅調に推移すれば、その傾向はさらに鮮明になり、コストプッシュ的なインフレを想起させる可能性もあるでしょう。結果として、名目金利を超えるペースでインフレ率が上昇するような状況になれば、金相場にはポジティブな材料となります。

このように、現在の金相場は、将来の価格上昇の可能性を秘める中で水準を切り上げているといえます。このような状況にあることを念頭に置いたうえで、今年の金市場を見ていきたいところです。現状では、投資家の金市場への関心は、株高基調の中でも低下していないようです。

また、株価が上昇する中でも、分散投資の観点から、一定の割合で金に資金を振り向ける投資家も少なくありません。現在の市場環境では、理論的には資産の10%前後の割合で金を保有するのが理想的と考えられます。その意味でも、一定の資金は金に配分しておきたいところです。

一方、政治的な材料に関しては、トランプ米大統領に対する弾劾罷免が材料視される可能性があります。上院では年明けに弾劾裁判を開始する方針です。

しかし、トランプ米大統領が「有罪」となり、罷免されるには、上院議員3分の2以上の賛成が必要となります。53人の共和党上院議員のうち20人以上の造反が必須事項となりますので、現時点では実現の可能性はきわめて低いといえます。

このように考えると、弾劾に関する材料は、金市場には中立と考えるのが妥当でしょう。また、中東や北朝鮮情勢など、地政学的リスクにも目が向く可能性がありそうです。金市場には直接的には関係ないといえますが、市場がこれらの材料を意識する中で、金が買われる可能性もありそうです。

特に中東情勢の悪化は原油相場の上昇につながりやすく、これが金市場に影響を与える可能性があります。このように、少なくとも、金市場にはネガティブな材料にはならないことから、一定の下支え材料になりそうです。

今年の金価格の水準については、金利次第の面がありますが、大きく下落するとは考えにくいといえます。上記の背景に加え、近年の金市場において、価格の下支えに非常に重要な役割を担っている中銀・政府の買いが金相場を支えるものと思われます。

2019年の公的金購入量は近年では最大級になったとの見方があります。彼らは基本的に押し目を買うバーゲンハンターですが、金相場が下げないことから、高値圏でも徐々に買い増しを行う可能性があります。そうなれば、金相場は下がらないということになりそうです。

日本の株式市場に例えるならば、日銀によるETF購入が日本株の下値を支えるのと同じ構図といえます。この傾向は今年も続くものと思われ、これも金相場を支えることになりそうです。したがって、今年も押し目を確実に拾うことが重要なポイントになりそうです。これまでも金市場には強気の姿勢を明確に示してきましたが、今年も基本的にこの見方を維持することになりそうです。

一方、インドの2019年の金輸入量は前年比12%減と、3年ぶりの低水準となったもようです。国内価格が最高水準に達し、下半期に小口の需要が鈍化したとみられます。

インドの2019年の金輸入量は831トンと、前年の944トンを下回りました。輸入額は約2%減の312億2000万ドルでした。2019年12月の金輸入量は前年同月比18%減の60トンで、金額ベースでは4.3%減の24億6000万ドルだったもようです。

世界第2位の金消費国の需要減退は世界の金相場を圧迫する可能性があります。インドはバーゲンハンターであり、金価格が安くなれば買い意欲を強める傾向があります。その意味では、金価格が下げるようだと、インドなどのバーゲンハンターの買いが下値を支えることになりそうです。

円建て金相場も堅調な推移が想定されます。円高基調は気になりますが、ドル建て金相場の堅調さが続けば、気にする必要はなさそうです。5,400円を超えるとさらに上値を狙えそうです。買いポジションを維持して利を伸ばしたいところです。もっとも、5,300円を割り込めば、いったん利益を確定し、次の動きを確認したいところです。

プラチナ:急騰の展開

プラチナも急騰しました。金相場の上昇につれる形で、週初から順調に値を上げ、週末には955.34ドルまで値を伸ばす場面がありました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するNYMEXプラチナ先物市場における12月24日時点の大口投機筋のポジションは5万6492枚のネット買い越しとなり、前週から2,216枚拡大しました。買いポジションが1,875枚増加し、売りポジションが341枚減少しました。投機家が買いポジションを増やす一方、売りポジションを減らしており、買い姿勢がさらに強まっていることが確認できます。

プラチナ相場はようやく水準を切り上げて上向き基調が強まってきた印象です。これまでは、最大の需要先であるディーゼル車の自動車触媒向けの需要が伸び悩むとの見方を前提に、買いが入りづらい状況が続きました。

実際に、欧州の景気鈍化を背景に自動車販売台数が伸び悩むなど、プラチナ需要の増加を想定しづらい状況にありました。また、同じ白金族系メタルのパラジウムが連日のように過去最高値を更新する中、なかなか相場が上向かない状況が続きました。

しかし、ここにきて金相場の強さが際立ってくると、さすがにプラチナ相場の水準の低さに目が向き始めているようです。これまで投資家の投資対象から外されてきた感もあり、相対的な割安感を指摘する声も出そうです。

そのような見方に市場参加者が呼応する形で資金を振り向けるようになると、市場規模が金に比べて小さいだけに、短期的に大きく上昇することも十分に想定されます。その結果、節目の1,000ドルを超えて、水準を大きく切り上げる可能性もありそうです。まずは、2019年9月5日の高値である997.15ドルを超えるかを確認することになりそうです。

また、主要生産国である南アフリカでの電力供給問題は常にくすぶることになりそうであり、これが供給不安をあおる形で相場水準がさらに切り上がる可能性も念頭に置いておく必要がありそうです。

また、連動性が高いパラジウム相場がさらに高値を更新するような動きが顕著になれば、これもプラチナ相場の下値を押し上げる効果がありそうです。また、プラチナ相場のトレンドを見ると、長期的な上昇基調は維持されています。これらから、今年はまずは上昇トレンドの継続を前提に市場動向を見ていきたいと考えます。

円建てプラチナ相場は上昇しました。為替相場は円高基調となりましたが、ドル建てプラチナ相場が上昇したことで値を上げました。節目の3,400円を超えたことから、かなり強い動きに転じたといえます。この水準をサポートにすることができれば、さらなる上昇が期待できます。

円高基調は懸念材料ですが、ドル建てプラチナ相場が上昇基調が続けば、あまり気にする必要はないと考えます。買いポジションを保有しながら、上値を狙いたいところです。もっとも、3,400円でサポートができれば、押し目買いの好機となりそうです。ただし、3,300円を割り込めばいったん手仕舞いを行い、次の動きを確認したいところです。

【図表2】プラチナ 縦軸:円建てプラチナ/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

シルバー:続伸の展開

シルバーも続伸しました。金相場の上昇につれる形で値を上げ、週末に一時18.26ドルまで上昇する場面がありました。最終的には18ドル台を維持して引けました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX銀先物市場における12月24日時点の大口投機筋のポジションは6万2422枚のネット買い越しとなり、前週から1万6641枚拡大しました。買いポジションが1万2815枚拡大し、売りポジションが3,826枚減少しました。投機家は銀相場の上昇を背景に、強気姿勢をさらに強めていることが確認できます。

銀相場は引き続き独自の材料がない中、金相場につれる展開にあります。金相場が堅調さを鮮明にしていることもあり、銀市場にも投機資金が流入しやすい地合いにあるように思われます。

銀市場は金市場に比べて規模が小さいことや、投機筋が短期的な値動きをとらえてポジションをとる傾向があることもあり、短期間で大きく変動しやすい傾向があります。今回も節目の18ドルを回復したことで、今後は値動きの軽さに着目する投機筋の買いが入りやすくなり、これが下値を押し上げる可能性もありそうです。

また、銀は工業用需要がメインでもあることから、株価の上昇や製造業の景況感の改善なども銀市場にはポジティブに作用する可能性がありそうです。

このように、銀市場への関心が高まりやすい地合いにあることを前提に市場動向を見ていきたいところです。目先は18ドル台を維持して、さらに水準を切り上げるかに注目しておきます。金に比べて上げ方がかなり小さいため、金市場の上昇にキャッチアップできるかにも注目しておきます。

そのうえで、重要なポイントになっている18.30ドル、18.70ドルを超えて、9月5日につけた19.57ドルを超えるかに注目しておきたいところです。

円建て銀相場も急伸しています。円高基調をドル建て銀相場の急伸が吸収する形で上昇しています。節目の62円を明確に上抜き、一時65円を超える場面もありました。円高基調が強まれば、上値を抑えられる可能性がありますが、一方でドル建て銀相場の強さが維持されれば、円高は気にする必要はなさそうです。

買いポジションは維持しながら、さらに上値を狙いたいところです。ただし、64円割れではいったん利益を確定し、次の動きを待ちたいところです。下げた場合でも、63円でサポートされれば格好の買い場になりそうです。

【図表3】シルバー 縦軸:円建てシルバー/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成