先週のゴールド:米中貿易戦争の進展期待で小幅反落

金相場は小幅に反落しました。週初は米中貿易摩擦の激化や世界景気の減速に対する不透明感を背景に、安全資産とされる金を買う動きが広がり、一時は1,554.56ドルまで上昇し、2013年4月以来の高値を付けました。

米政府は5,500億ドル相当の中国製品にかける追加関税を5%引き上げると発表し、中国が750億ドル相当の米国製品に報復関税を課す方針を表明したことで、投資家が金買いを加速させました。

ただし、トランプ米大統領がG7サミットのため訪れていたフランスで、中国政府関係者から米国側に貿易協議再開の申し入れがあったと明らかにしたことを受けて株価が反発したことから、高値からは大きく値を下げました。その後は高値圏での推移が続きました。

期待外れの米経済指標や米中貿易摩擦を背景に、景気後退懸念が投資家の買いを誘いました。トランプ米大統領が8月26日、中国から貿易協議再開の申し入れがあったと発言したことで、金融市場で懸念が和らぎましたが、中国当局がその話を確認していないとの見解を示したことで再び不透明感が広がりました。米金利の低下も金相場の下値を支えました。

その後は高値警戒感が強まり、利益確定売りが広がりました。対ユーロでドル高が優勢となったことも、ドル建て金相場の割高感につながりました。

週末には、中国外務省が米中貿易協議について、効果的に話し合いを維持しているとし、9月の米中閣僚会議に向けて調整を行っていることを明らかにしました。

米中貿易協議の進展が見られたとの判断から株価が上昇したことから売りが広がり、週末は1,519.85ドルで引けました。ただし、世界経済の減速懸念を背景に、数年ぶりの高値水準は維持しました。月間ベースでは7.4%上昇で、100ドルを超える上昇となりました。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は8月23日の859.83トンから、30日には878.31トンに増加しました。28日には一時882.41トンにまで増加するなど、投資家の金買いが継続していることがわかります。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX金先物市場での大口投機筋の8月27日時点のポジションは、29万6838枚のネット買い越しとなり、前週から3,155枚減少しました。買いポジションが1万315枚増加したものの、売りポジションが1万3470枚増加したことで、ネット買い越し幅が減少しました。金相場が上昇する中、一部の投機筋は割高と判断し、売りポジションを増やしているようです。

円建て金相場は上昇しました。ドル建て金相場の上昇が押し上げに寄与しました。

【図表1】先週のゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

今週のゴールド:高値水準の維持を想定

金相場は今後も高値圏で推移が続くと考えられます。米中貿易戦争の影響で安全資産として買われてきましたが、この数日間は両国での話し合いの継続報道が株価を支えていることが金の上値を抑える展開になっています。

投資家の不安心理が安全資産である債券や金に向かうのは自然な動きといえます。もっとも、これらの心理面で金が買われることがあったとしても、それはあくまで事象面であり、金価格の価値という面では別の観点から金市場を見ていくことが不可欠であると考えます。最終的に金相場が上がるためには、米実質金利が低下することが必要であると考えます。

金は世界的にはドル建て価格が基準になっており、ドル相場との関係が重要です。ドルが上昇すれば、金相場は下落し、ドル相場が下落すれば、金相場は上昇しやすい傾向があります。

これは、金がドル建てで取引されているからであり、ドルの価値が金の価値を決めているということの証左です。ドルの本質的な価値は米金利の動向で決まります。

その金利を見ていく場合には、市場で取引されている金利ではなく、実質的な金利が重要です。つまり、債券利回りなどの名目的な金利に対して、インフレ率を考慮した実質金利が重要であるということです。

実質金利は名目金利から期待インフレ率を引いたものを使います。簡便的には、米10年債利回りから米消費者物価指数(CPI)を引いた数値を実質金利として用いてもよいでしょう。

この数値を利用して得た実質金利と金価格の関係を見ると、現在の金価格の理論値は米CPIの上昇率が現在の水準で変動しないことを前提とすれば、おおそよ1,440ドル程度と試算できます。無論、インフレ率が低下すれば、その分だけ金価格の理論値は低下します。

現在の米国のインフレ率は伸びが鈍化傾向にあります。したがって、金価格の本質的な価値が上昇するには、名目金利の低下が不可欠になるでしょう。グローバル投資家は、投資資金を株式から債券にシフトさせており、この動きは最近になってさらに加速しています。

その結果、金利が低下していますが、これ自体は金価格の理論値を押し上げますので、結果として金価格が上がることになります。一般的には「米中貿易戦争の激化で、金相場が安全資産として買われた」との解説がよく聞かれますが、それはあくまで一時的な事象であり、金価格は本質的には米実質金利で決まることを再確認しておきたいところです。

とはいえ、金は市場で取引されており、様々な市場参加者の思惑で価格が決定されます。短期的な投機筋や、ポートフォリオ運用を行う長期的な投資家も金市場に直接・間接的に参加しています。

彼らが何を基準に金価格の方向性や価値を見出しているのかを知っておくことも肝要です。特に、短期的には、他の市場や投資対象資産と同様に、投機筋が価格の方向性や勢いを決めることが少なくありません。その意味では、チャートを見たうえで、判断することも必要でしょう。

現時点では、1,510ドル前後に重要なサポートがあると考えられます。これを維持できるかどうかが、短期的な方向性を決めるものと考えられます。割り込んだ場合には、現時点での理論値である1,440ドル前後までの調整もあり得ることを念頭に置きながら、上昇の可能性を探りたいと考えます。

上値のめどを探ることは非常に難しいといえますが、市場関係者から「金価格は2,000ドルまで上昇する」などといった強気な言葉が聞かれるようになった時には要注意です。

また、今後の米金融当局の政策も重要なポイントです。トランプ米大統領は、ユーロが対ドルで急落し、欧州連合(EU)の輸出と製造業が有利になっているとし、ドル高をけん制する発言を繰り返しています。トランプ米大統領は「米国の問題は連邦準備制度理事会(FRB)だ」と決め付け、ドル高の回避へ利下げを再び要求しています。

また、「いまやドルは史上最も強い」と主張し、不公正貿易の是正などを理由とした中国製品への制裁関税といった通商問題よりも、FRBの金融政策が障害になっていると決め付け、「FRBはすべきことが分かっていない」と不満を示しています。

さらに「もしFRBが利下げをすれば、久しぶりに最大の株高になっている」ともしています。米中貿易摩擦の深刻化により、市場の一部で景気腰折れ懸念が広がる中、トランプ米大統領は株価を気にしていることも改めて示された格好です。

FRBの金融政策の判断は、独立性が担保されていますが、これらのトランプ米大統領の発言がFRBの政策に影響を与える可能性は否定できません。いずれにしても、市場では9月の連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げが完全に織り込まれています。これらの動きで、市場金利が低下すれば、金価格の押し上げにつながることになるでしょう。

円建て金相場は5,200円を維持し、5,300円を超えるなど、順調に上値を切り上げています。円高リスクがありますが、ドル建て金相場が堅調に推移しているうちは、為替相場を気にする必要はないでしょう。5,300円を維持できれば、次は5,400円といった具合に、100円単位での上昇が想定されます。保有しているポジションを維持しながら、高値を超えてきたところで買い増しを継続したいところです。

ただし、5,200円を割り込んだ場合には、いったん利益を確定し、5,100円で下げ止まるかを確認したうえで、押し目買いのタイミングを探りたいところです。

プラチナ:大幅上昇の展開

プラチナは急騰しました。特段の材料がない中、これまで堅調に推移してきた金相場の後を追うように急伸し、週末には一時939.5ドルまで上昇し、昨年8月以来の高値を付けました。週末は930.75ドルで引けました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するNYMEXプラチナ先物市場における8月27日時点のポジションは2万2987枚のネット買い越しとなり、前週から3,372枚増加しました。買いポジションが1,329枚増加し、売りポジションが2,043枚減少したことで、ネットの買い越し幅が拡大しました。

ただし、週末にかけて、プラチナ相場がさらに急騰していることから、ネットの買い越し幅が大幅に増加している可能性が高いものと思われます。最新のデータで投機筋の動向を確認したいところです。

プラチナ相場は、金相場の上昇に出遅れていましたが、ここにきて急激にその差を埋めるような展開にあります。おそらく、金相場との価格差が過去最大に拡大したことなどを材料視する買いが入ったことが急騰につながったものと考えられます。

プラチナ価格は長年、金価格に対して水準が高い状況が続いてきました。それは、年間の産出量が金の15分の1程度しかなく、希少性が高いことが背景にありました。しかし、近年では、ディーゼル車の販売台数の減少などを背景に、プラチナ価格は産出コストを下回るほどの低水準での推移が続くなど、低迷していました。

一方で金価格は安全資産としての買いなどで押し上げられ、両者の価格差は8月15日には684ドルと、過去最大の水準に広がりました。しかし、さすがに価格差が広がりすぎたとの判断から、投機筋や投資家が買いを入れ始めた可能性がありそうです。

また、近年は同じ白金族系メタルのパラジウム価格も上昇基調を強めており、プラチナとの価格差が拡大していました。需要面の背景がそれぞれ異なるため、今後も上昇基調が続くとは言い切れない面があります。

しかし、市場規模が比較的小さいこともあり、いったん上昇基調が強まると、しばらく強基調が続くことがあります。そのため、昨年初めの1,000ドル台を回復し、さら2016年8月につけた1,200ドル弱の水準を試す可能性も否定できません。

今は予断を持たずに、ファンダメンタルズ面以上にトレンドが継続するかを注視したほうが得策でしょう。また、調整した場合でも、節目の900ドルを維持できれば、再び上昇に勢いがつく可能性もありそうです。

円建てプラチナ相場も急騰しました。ドル建てプラチナ相場の上昇が押し上げにつながりました。節目の3,100円を超えてからの急伸ぶりには目を見張るものがあります。保有しているポジションは維持しながら、100円上昇するたびに買い増しを行うようなイメージで、上昇に乗る形でポジションを積み増すとよいと考えます。

調整した場合でも、3,200円でサポートされれば、再び上向く可能性がありそうです。ただし、3,200円割れではいったん利益を確定し、下値を確認することを優先したいと考えます。

【図表2】プラチナ 縦軸:円建てプラチナ/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

シルバー:高値更新の展開

シルバーも大きく値を上げました。金相場の堅調さを受けて、週初から直近高値を更新するなど堅調な値動きとなり、8月29日には18.65ドルまで上昇する場面がありました。週末30日は18.35ドルで取引を終えました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX銀先物市場における8月27日時点のポジションは、5万9852枚のネット買い越しとなり、前週から1万3138枚増加しました。買いポジションが7,501枚増加し、売りポジションが5,637枚減少したことで、ネットの買い越し幅が拡大しました。

週末にかけて高値を維持していることから、投機筋がさらに買い増ししている可能性がありそうです。週末発表のデータで確認したいところです。

銀相場は指摘していたように、いよいよ投機的な動きになってきました。これが銀相場の特徴です。いったん上昇に勢いがつくと、投機筋が買いポジションを積み上げながら、相場水準を押し上げることがあります。

これは、過去から銀市場をみている筆者にとっては、非常に懐かしさを覚える値動きです。世界には、このような値動きを利用して収益を上げようとする投資主体が、少なからず存在しています。

特に商品投資顧問(CTA)と呼ばれる先物市場を主体に投資を行うヘッジファンドなどにとって、今の銀市場は最高の収益獲得の場であるといえるでしょう。今はプラチナ市場にも参入し始めた可能性がありますが、このように金市場が堅調になると、同じ貴金属である銀やプラチナなどに彼らの買いが入ることで、相場が急伸することがあります。

これまでは銀の需要が工業用をメインとすることから、株安や米中貿易戦争の影響などが懸念され、上値が重くなるとの見方が大勢でした。しかし、金相場の急伸をきっかけに投機筋の買いを誘い、いまや出遅れ感が解消されつつあります。短期的には過熱感も出ていますので、調整リスクがありますが、17ドル台半ばを割り込まなければ、上昇基調は維持されていると判断してよいでしょう。

一方、一時は92倍に達していた金/銀レシオは、82倍台にまで低下してきました。しかし、それでもまだ、過去最高値からは小幅に低下したにすぎません。

その意味では、レシオの調整余地すなわち銀相場の相対的な上昇余地があるともいえそうです。いずれにしても、金相場が堅調に推移しているうちは、銀相場の堅調さも続くものと思われます。

円建て銀相場も一段高となりました。前週の高値の62円を大きく上回り、一時65円を超える場面がありましたが、これを維持できれば、さらに強い展開が想定されます。65円を明確に維持できるようであれば、66円を超えるなど高値を追随する形で買いを検討したいところです。

一方で、64円を割り込めば、調整基調が強まることが想定されます。その場合には、いったん手仕舞いとし、再び上向くかを確認したいところです。銀相場はボラティリティが高い傾向がありますので、下げ始めたときのスピードが速くなる可能性があります。下げた場合には、早めの対処を検討したいところです。

【図表3】シルバー 縦軸:円建てシルバー/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成