先週のゴールド:米中貿易戦争の激化で急伸

金相場は上昇しました。主要国の景気が後退するかとの懸念が和らぎ、投資家のリスク選好が回復したことで、安全資産としての金需要が減退し、週初は下げました。しかし、その後は反発しています。

金融緩和への期待が強まり、米国債利回りが低下したことから買われ、1,500ドル台を回復しました。また、7月末の連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨への反応は限定的でした。

米ワイオミング州ジャクソンホールで開かれるシンポジウムに注目が集まる中、8月23日に行われる米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の講演内容に関心が集まりました。

しかし、講演当日に中国政府は米国の対中制裁関税への報復として、米国からの輸入品約750億ドル相当に、9月1日から5~10%の追加関税を課すと発表しました。さらに、1月から適用を見合わせていた自動車・同部品への対米報復関税も12月15日に再び導入し、最大25%の税率を上乗せするとしました。

これを受けて、トランプ大統領はツイッターに「きょうの午後、中国の関税に対応する」と投稿し、対抗措置を取ると警告しました。さらに、中国に進出する米企業に、拠点撤退や米国への生産移転を検討するよう求めました。

トランプ大統領は「中国を必要としていない。いない方がはるかにましだ」などと怒りをあらわにしました。これを受けて、一時プラス圏に浮上していた米国株が急落し、安全資産である金に買いが入り、1,526.10ドルで週末の取引を終えました。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は8月16日の843.41トンから23日には859.83トンに増加しました。投資家の金買いが継続していることがわかります。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX金先物市場での大口投機筋の8月20日時点のポジションは、29万9993枚のネット買い越しとなり、前週から9,903枚増加しました。買いポジションが6,071枚増加し、売りポジションが3,832枚減少しました。

金相場が下げ渋る中、投機筋は再び新規に買いポジションを増やす一方、売りポジションを減らしており、上昇に備えた動きを取っています。

円建て金相場は下落しました。ドル建て金相場は上昇しましたが、米ドル/円が円高方向に下落したため押し下げられました。

 

【図表1】先週のゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

今週のゴールド:高値更新の動きを想定

金相場は今後も高値圏で推移が続きそうです。先週の市場では、パウエルFRB議長の発言に注目が集まりました。9月の連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げへの期待が高まる中、政策の方向性を見極めようとする動きが強まっていました。

パウエル議長は、「景気拡大の持続へ適切に行動する」とし、追加利下げに踏み切る考えを示唆しました。市場が見込む次回9月のFOMCでの実施は明言せず、景気動向を見極める姿勢を強調しました。

パウエル議長は「米景気は好調」との認識を示しましたが、10年半ぶりの利下げを決めた7月末以降、「米中貿易摩擦、世界経済の減速などの波乱に見舞われた」とし、先行きへの警戒感を示しました。

また、低失業率が続いているにもかかわらずインフレ圧力が低迷し、景気が盛り上がりに欠ける状況にも言及しています。「リスク管理」の重要性を指摘し、景気悪化に先手を打つためには「予防的利下げが必要」としました。

ただし、追加利下げの時期には言及せず、「米経済の先行きと金融政策の道筋を評価するため情勢を注視する」としています。これは、FRB内の利下げ反対派に配慮したとみられています。

トランプ大統領は「FRBは何もしなかった」と、パウエル議長の講演内容に不満を表明しました。市場では9月のFOMCによる利下げをほぼ織り込んでおり、FRBは利下げを迫られる可能性が高いとの指摘もあります。

今回のパウエル議長の講演は市場の期待に応えたとはいえず、またFRB高官の中には利下げに否定的な見方を示す向きも少なくないため、今後の高官らの発言には注意が必要といえそうです。

一方、先週末は米中の報復関税合戦で大荒れとなりました。今後もこの材料が金相場を支えることになりそうです。

中国政府は米国による制裁関税「第4弾」への報復として、米国からの輸入品約750億ドル相当に対して、9月1日から最大10%の追加関税を課すとしました。トランプ大統領はこれに対してツイッターに「午後、中国の関税に対応するつもりだ」と書き込み、対抗措置を取ると警告しました。

これにより、米中の貿易摩擦が一段と激化しています。報復関税の対象は5,078品目で、10%もしくは5%の税率を上乗せします。米国の制裁関税導入の時期に合わせ、9月1日に1,717品目、12月15日に3,361品目と2回に分けて実施することになります。

また、1月から適用を見合わせていた、米国から輸入した自動車・同部品を対象とした報復関税も12月15日から再び導入します。最大25%の税率を上乗せする方針です。中国は報復関税について、「米国の一国主義、保護主義に迫られた対応だ」とする一方で、「協力が唯一の正しい選択」と強調し、交渉継続の意向を示しています。

米中は9月上旬にワシントンで閣僚級協議を再開する予定で、8月21日には次官級の電話協議を行っていました。ただし、トランプ大統領はこれまでも中国が対抗措置を取れば「究極の報復手段」で応じるとしており、交渉は先行きが見通せない状況です。

トランプ大統領は、中国の対抗関税にさらに対抗するため、中国の輸入品に追加で5%の関税を課すと明らかにしました。

ツイッターへの投稿でトランプ大統領は「残念なことに、これまでの政権は中国が公正かつバランスの取れた貿易を出し抜くことを許し、これが米国の納税者の負担となってきた」とし、「大統領としてもはや許すことはできない!」と強調しています。

トランプ大統領は、2,500億ドル相当の中国の輸入品に対する関税を現在の25%から30%に引き上げるとし、10月1日から適用するとしました。また、中国からの輸入品3,000億ドルに課す追加関税第4弾の税率を10%から15%に引き上げる方針です。

第4弾の発動時期は一部品目が9月1日からですが、全体の半分近くの品目は9月1日~12月15日に延期されています。

さらにトランプ大統領は、中国に進出する米国企業に事業拠点の撤退を求めるとともに、米国への生産移転を検討するよう命じました。制裁関税の応酬が激化することに備えて、「米国企業に対し、中国に代替する拠点を直ちに探し始めるようここに命じる」と強調し、さらに「中国から巨額の資金を盗み取られてきた」「中国を必要としていない。いない方がはるかにましだ」などと怒りをぶちまけました。

このように、中国が報復関税をかけてきたことに対して、トランプ大統領はこれを承服できないとの態度を明確に示しています。いよいよ本気になってきたといえそうです。

これまでは対話の可能性も残していましたが、今回のトランプ大統領の発言内容を見る限り、その方針は大きく転換したと考えられます。こうなると、世界経済や株式市場への影響は不可避となりそうな勢いです。

これまでは、株価が下げると、政策を緩める「トランププット」なるものが発動され、株価が戻すといったことが繰り返されてきました。しかし、今回のトランプ大統領の対応を見る限り、その方針は大きく転換した感があります。

こうなると、投資家の資金は株式市場から流出し、債券や金などの安全資産に向かいやすくなりそうです。週明けの金市場では、すでに直近高値を更新しています。

一方、注意が必要なのは、金相場のバリューです。金価格は米実質金利と密接につながっています。したがって、インフレ率の上昇が見込みにくい中、今後の金価格が上昇するには、名目金利が低下する必要があります。

簡単に言えば、市場金利ないしは債券利回りが低下しない限り、金相場の上昇は限定的になる可能性がある点には注意しておきたいところです。もっとも、金利があと1%程度低下すれば、金価格の理論値は1,700ドル近くにまで跳ね上がります。この点もぜひ念頭に入れておきたいところです。

当面は1,500ドルを下値に底堅い展開が続きそうです。引き続き、米中貿易戦争の行方に注目しておきたいところです。

円建て金相場は5,200円を超えて、5,300円を目指す可能性があります。円高基調が上値を抑えている可能性がありますが、ドル建て金相場が堅調に推移すれば、高値更新の可能性は十分にあると考えます。保有しているポジションを維持しながら、高値を超えてきたところで買い増しを検討したいところです。

ただし、5,100円を割り込んだ場合には、いったん利益を確定し、押し目を確認して買い直しを検討したいところです。その場合には、5,000円で下げ止まるかを確認したうえで、押し目買いのタイミングを探りたいところです。

プラチナ:底堅い展開

プラチナは上昇しました。前週までの下落の展開から一転して反発しました。週末23日には、金相場の上昇につれる形で上昇し、一時870ドルに迫る水準にまで上昇しました。週末は853ドルで引け、短期の上昇基調を維持しました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するNYMEXプラチナ先物市場における8月20日時点のポジションは1万9615枚のネット買い越しとなり、前週から2,061枚減少しました。買いポジションが451枚減少し、売りポジションが1,610枚増加したことで、ネットの買い越し幅が縮小しました。

このパターンは前週と同じです。ただし、週末にかけて上昇しており、ネットの買い越し幅が増加している可能性があります。最新のデータで投機筋の動向を確認したいところです。

プラチナ相場は、金相場の上昇になかなかついていくことができない展開が続いています。また、需要は自動車触媒向けなど工業用が多く、株価や景気動向に影響を受けやすいという側面もあり、現在の米中貿易戦争の影響も比較的受けやすいといえます。

しかし、金相場は1,500ドルを大きく超えて上昇したこともあり、同じ貴金属であるプラチナにも上昇期待が高まっているようです。

もっとも、ここからさらに水準を切り上げるには、やはり実需の増加が不可欠でしょう。この点に関しては、これまでも解説してきたように、高い期待は持ちづらいというのが実態です。

したがって、自動車販売関連のデータを意識しながらも、短期的には金相場との連動性を意識したうえで、プラチナ相場の動向を見てくことが肝要でしょう。

目先は850ドルが重要なサポートになっています。これを維持しながら、直近高値の880ドルを超えていくことができれば、900ドル超えも視野に入ってくるでしょう。ただし、850ドルを割り込んで、さらに835ドルを割り込んだ場合には、基調はかなり明確に下向きになる可能性がありますので注意したいところです。

円建てプラチナ相場は上昇。為替相場が円高基調でしたが、ドル建てプラチナ相場の上昇が押し上げにつながりました。節目の3,000円を維持しており、3,100円を超えた場合には上昇に勢いがつきそうです。その場合には、上昇に乗る形で買いを検討したいところです。もっとも、3,000円割れではいったんポジションを整理し、下値を確認したほうがよいでしょう。

【図表2】プラチナ 縦軸:円建てプラチナ/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

シルバー:高値圏での推移が継続

シルバーは上昇しました。金相場の堅調さを受けて、16.80ドルを維持しながら徐々に下値を切り上げ、週末には17.47ドルまで上昇しました。週末は17.39ドルで取引を終えました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX銀先物市場における8月20日時点のポジションは、4万6714枚のネット買い越しとなり、前週から7,445枚増加しました。買いポジションが1,533枚減少しましたが、売りポジションが8,978枚減少したことで、ネットの買い越し幅が拡大しました。週末に急伸していることから、買いポジションが増えているかを週末発表のデータで確認したいところです。

銀相場は高値を更新する勢いがあります。これまでは工業用需要がメインであるため、株安や米中貿易戦争の影響などが懸念され、上値が重くなるとの見方が大勢でした。しかし、金相場が急伸する中、出遅れ感が意識され、ようやく上昇に勢いがついてきました。

こうなると、銀相場は投機的な動きになりやすく、思わぬ高値が出ることもあります。もっとも、投機的な動きには急落もつきものです。今後は乱高下する可能性もありそうです。米中貿易戦争の影響を注視しながら、動向を見極めることになるでしょう。

一方、一時は92倍に達していた金/銀レシオは、一時87倍台で推移しています。銀相場は上昇していますが、それ以上に金相場が上昇しており、レシオの低下は見られていません。

これは、逆に言えば、金相場が堅調さを維持しているうちは、銀相場も強い動きが期待できることを示唆しているといえそうです。今後も金相場の動きを見ながら、高値更新の可能性を意識しておきたいところです。

目先の下値は17ドルでしょう。もっとも、18ドルを超えるような展開になれば、20ドル超えを目指す可能性もありそうです。

円建て銀相場は61円が重い展開となりました。もっとも、60円も堅く、堅調さを維持しています。円高基調が上値を抑えやすい構図は他の貴金属銘柄と同じです。ドル建て銀相場がどこまで水準を切り上げられるかが、今後の円建て銀相場の方向性を決めるといえそうです。

60円を下回った場合には、いったん手仕舞い売りが賢明でしょう。もっとも、61円を明確に超えた場合には、その流れに乗る形で買いを検討したいところです。

繰り返すように、銀相場はボラティリティが高い傾向がありますので、下げ始めたときのスピードが速くなる可能性があります。下げた場合には、早めの対処を検討したいところです。

【図表3】シルバー 縦軸:円建てシルバー/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成