先週のゴールド:反発の展開

金相場は上昇しました。米中貿易協議が加速し、両国が3月27日ごろに首脳会談を開いて最終合意する可能性も伝えられる中、週初は続落し3月5日は一時1月25日以来の安値となる1,280.70ドルまで下げる場面がありました。

米中貿易協議への楽観からリスク選好ムードが広がったことで安全資産としての金の魅力が薄れ、上値の重い展開が続きました。2月の米ISM非製造業景況指数(NMI)が59.7と、前月の56.7から上昇したことも重石となっています。

中国の第13期全国人民代表大会(全人代)第2回会議が3月5日に開幕しました。李克強首相は政府活動報告で、経済成長の勢いの鈍化を受けて、2019年の経済成長率の目標を2年ぶりに引き下げ、6.0~6.5%と設定しました。

米中貿易協議については「引き続き進展させる。約束したことは真摯に履行し、自らの合法的な権益は断固として守り抜く」とし、協議への前向きな姿勢とともに安易に妥協しない意向を示しました。

一方、2019年の国防予算は前年比7.5%増の1兆1898億7600万元です。伸びは2018年の8.1%増に比べて低下しましたが、軍を重視する習近平国家主席の方針を反映し、今年も経済成長目標を上回りました。これらの発表に対する市場の反応は限定的でした。その後も5週間ぶりの安値近辺での推移が続きました。ただし、株価が徐々に不安定になる中、金相場は下げ渋りが顕著になりました。

過去2週間に発表されたユーロ圏の弱い経済指標を受け、欧州中央銀行(ECB)が7日の定例理事会で、2019年の域内成長率やインフレ見通しを引き下げ、利上げを2019年末まで先送りしたことで市場が不安定化し、金利が低下傾向になったことが下値を支えました。

週末8日には急伸しました。米雇用統計を受けてドルとリスク志向が圧迫されたことや、世界的な景気減速への懸念で買われ、一時1,300ドルの節目を上回る場面がありました。

米雇用統計では、2月の非農業部門雇用者数の伸びがわずか2万人にとどまりました。建設部門などでは減少しました。失業率は3.8%に低下し、賃金の伸びも前年同月比で3.4%と上昇しましたが、あまり材料視されませんでした。この結果、週間ベースでは0.4%高となりました。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は3月1日の772.46トンから766.59トンに小幅減少しました。これまで株式市場が堅調だったことから、投資家の買いは控えられています。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表したCOMEX金先物市場での大口投機筋の3月5日時点のポジションは8万8018枚の買い越しとなり、前週から4万7678枚縮小しました。買いポジションが3万4207枚減少し、売りポジションが1万3471枚増加しました。

円建て金相場は続落しました。ドル建て金相場は反発しましたが、為替相場がやや円高となったことが影響しました。

【図表1】先週のゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

今週のゴールド:反発基調が継続へ

金相場は底打ちから反発基調に入ると考えます。株式市場が不安定になっており、再び金市場への関心が高まる可能性があります。

2月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数の増加幅が大幅に減少しましたが、一方で失業率と賃金の伸びは顕著でした。ただし、生産性がすでに十分に高まっており、成長の余地が徐々に狭くなってきています。

米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクルも終盤に近付いており、米金利およびドルの上値も重くなりやすくなっています。非農業部門雇用者数については、今後上方修正される可能性があるものの、今回の統計でFRBが金融政策を変更することはないでしょう。

次回3月19・20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利は据え置かれる見通しです。一方、FRBが保有する資産の圧縮に関するスケジュールが発表される可能性があり、市場はその内容に注目しています。FRBのブレイナード理事が言明するように、利上げと資産圧縮は2重の意味で引き締めとなるため、当面はFRBが両者を同時に行うことはないでしょう。

その意味では、株価が回復したり、景気指標が改善した場合でも、利上げは棚上げし、まずは保有資産の圧縮を優先させるものと思われます。その場合、市場がこの政策に対してどのように反応するかを注視したいところです。ただし、基本的には市場にフレンドリーな対処をするものと考えられます。

一方、市場の関心は米中貿易協議の行方にも向かっています。両国の合意に関しては、トランプ政権からまちまちなシグナルが出ています。ただし、基本路線としては、米国側の主張を繰り返し、最終的に有利な合意にもっていこうとするでしょう。そのため、最終合意には時間がかかる可能性があり、これが市場心理を複雑にするものと思われます。

3月7日のECB理事会では、主要政策金利を据え置きました。また、危機後初となる利上げの時期を来年に先延ばしし、銀行向けの超長期の低利融資を再び実施すると発表しました。FRBを含む世界の主要中銀が利上げ休止姿勢を示す中、ECBも予想以上に踏み込んだ措置を決定したことになります。

今回の決定は、世界的な貿易戦争や英国のEU離脱の不確実性、イタリアの債務懸念が欧州全体の経済成長の重石になっていることが浮き彫りになりました。さらにECBは、政策金利に関するフォワードガイダンスを修正し、「主要政策金利は少なくとも今年末まで、また必要な間、現行水準にとどまると予想する」としました。

従来は「少なくとも2019年夏にかけて金利は現行水準にとどまる」としていました。さらに、期間2年の貸出条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)の第3弾(TLTRO-III)を9月から実施すると発表。7200億ユーロの現行の借り入れのロールオーバーを支援し、景気が減速局面にある中で信用収縮が起こるのを防ぐ方針を示しました。

この後さらに、経済成長率および消費者物価上昇率の見通しを下方修正しました。中銀がこのような弱気な見方に転じ、緩和的な姿勢に転換した場合、株式市場に安心感が広がり、投資家心理が改善して株価が上昇するケースが多いのですが、発表後は株価が下落したことから、投資家心理はややネガティブに作用し始めている可能性があります。

さらに、中国の2月の貿易統計で、輸出が前年同月比20.7%減、輸入が同5.2%減と、 対米貿易摩擦や国内の景気減速を背景に大きく落ち込んだことが明らかになりました。このような背景から、今後は世界景気に対する見方がネガティブになる可能性があります。そのため、金市場への関心が高まる可能性があります。

このような市場環境から、金相場は1,300ドルを超えると、1,315ドルを目指す展開が想定されます。また、売られすぎ感の解消が進む可能性があり、1,315ドルを超えるとさらに直近高値の1,346ドルを目指す動きになると考えます。

また、米実質金利からみた金相場の理論値は1,260ドル程度と考えられます。今後、インフレ率が高まる場合や、名目金利が低下する場合には、理論値が上昇することになり、これが潜在的な金相場の押し上げにつながる可能性があります。

円建て金相場も上昇基調が続くと考えます。4,800円を下回りましたので、目先は調整色が強まる可能性があります。ただし、ドル建て金相場の下げは限定的になれば、4,700円までの調整になる前に反発する可能性があります。まずは下値を確認し、反発の動きを利用して買いを検討したいところです。安値で保有している場合には手放さず、押し目買いのタイミングを計りたいところです。

プラチナ:大幅続落の展開

プラチナは大幅続落となりました。先週の急反落の流れを受ける形で下げ基調が続き、週末には一時806ドルまで値を下げました。ただし、金相場が急伸したことから下げ幅は限定的となり、辛うじて下げ渋って週末を終えました。週間ベースでは大幅安となりました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表した、NYMEXプラチナ先物市場における3月5日時点の大口投機筋のポジションは2万1463枚の買い越しとなり、前週から5,718枚増加しました。

買いポジションが3,866枚減少し、売りポジションが9,584枚減少したことで、買い越し幅が拡大しました。買い・売りポジションともに縮小しており、買い手は値を戻したことで利益確定売りを出す一方、売り手は損失覚悟の買い戻しを強いられたと考えられます。

これまで堅調だったプラチナ相場の調整が顕著になっています。短期間で上昇した反動もあり、売りが出やすかったとも言えます。ただし、重要なサポートラインである810ドルをかろうじてサポートしており、下値を維持しています。

売られすぎ感も強まっていることから、反発に転じると825ドルを試すと考えられます。さらに825ドルを超えると、840ドル、さらに直近高値の876ドルを試す動きになると考えます。

一方、プラチナの国際調査機関ワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル(WPIC)は半期報告で、今年のプラチナ市場が少なくとも2013年以降で最大の供給超過になるとの見通しを示しています。

また、今年は68万オンスの供給超過となる見通しです。昨年は64万5000オンスの供給超過でした。今年のプラチナ消費は5%増の774万オンスの見通しで、消費の増加は2015年以来で初めてとなる見通しです。その理由を投資需要の拡大とみています。

ただし、南アフリカの鉱山で2017年から2018年にかけて施設の更新やメンテナンスの期間中に蓄積されていたプラチナが市場に放出されるため、供給は消費を若干上回るペースで増加する見通しです。また、産業用、自動車用、宝飾用の消費は減少する見通しです。ただし、自動車用の需要減少ペースは、鈍化が見込まれています。

プラチナとパラジウムは、自動車の排ガス触媒に利用されますが、プラチナはディーゼル車で利用されることが多いのが実態です。ディーゼル車は、フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題を受けて人気が低下しましたが、WPICによると、ディーゼル車の販売は安定に向かいつつあり、排ガス規制の強化がプラチナの需要を支える要因になるとみられています。このように、需給動向にも目を向けておきたいところです。

円建てプラチナ相場は大幅反落しました。ドル建てプラチナ相場の下落が影響しました。3,200円、3,100円と節目を割り込んだことで、基調は下向きになっています。そのため、まずは下値を確認するのが先決と考えます。そのうえで、3,100円を回復するなど基調の転換が確認できたうえで、買いを検討したいところです。いまは押し目買いは避け、下げ止まりの確認を優先したいところです。

【図表2】プラチナ 縦軸:円建てプラチナ/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成

シルバー:反発の展開

シルバーは反発しました。先週までの急落から小幅な下げ基調が続きましたが、徐々に下げ幅が小さくなる中、心理的な節目の15ドルを維持しました。さらに、週末に金相場が急伸したことから、これにつれる形で急反発し、週間ベースでは上昇しました。

CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX銀先物市場における3月5日時点の大口投機筋のポジションは3万2521枚の買い越しとなり、前週から2万5792枚減少しました。買いポジションが1万4017枚減少し、売りポジションが1万1775枚増加したことで、買い越し幅が縮小しました。

銀相場は金相場につれる展開が続いています。独自材料が不足しており、今後も金相場の動向を注目することになりそうです。もっとも、銀相場は15ドルの節目を割り込まずに反発しており、売られすぎ感も強く、目先は反発基調が続く可能性があります。

買い戻しが入れば、15.50~15.60ドル前後のレジスタンスを試すことが想定されます。これを抜けると直近高値の16.21ドルを試す可能性が高まりそうです。もっとも、これを上抜けるには株価の上昇など、外部要因のサポートが必要と考えます。

株価が崩れた場合、金相場はリスク回避的に買われることがありますが、銀相場は工業品需要がメインであり、下げやすいといえます。また、景気指標が悪化傾向を示した場合にも売られやすい傾向にあることは念頭に入れておきたいところです。

円建て銀相場は続落しました。節目の57円を割り込んだことで、売りが優勢となりました。辛うじて56円を維持しており、まずはこの水準を維持して反発するかを確認したいところです。そのうえで、ドル建て銀相場が反発基調を強めることができれば、57円への回復の動きも期待できます。

そのような動きになったことを確認したうえで、買いを検討したいところです。いまは下げ基調の中で押し目買いを行うより、上値を追う流れに乗るのが賢明と考えます。

【図表3】シルバー 縦軸:円建てシルバー/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成