米国株は堅調さを維持しています。市場が懸念していた米中貿易戦争への懸念も徐々に織り込まれてきたようです。報道にもあるように、トランプ政権は9月17日に中国による知的財産権侵害に対抗した制裁関税の第3弾を今月9月24日に発動すると発表しました。中国からの輸入品2,000億ドル相当に10%の追加関税を課し、来年には25%に引き上げます。中国も直ちに米国製品600億ドル相当に対する報復関税措置の実施を表明しました。これまで米中両国は、双方からの500億ドル相当の輸入品にそれぞれ25%の追加関税を課す措置を2段階に分けて実施済みです。今回を含め、3回にわたる制裁で、米国が中国からの年間輸入実績の約半分に高関税を課すことになります。想定されていたとはいえ、異例の事態といえます。トランプ大統領は声明で、「中国が報復すれば、直ちに2,670億ドルを対象に加える」と言明し、中国からのすべての輸入品への制裁も辞さない構えを示し、対米貿易黒字の削減を強く迫っています。一方で、年末商戦を控え、輸入品の値上がりによる米消費者への影響に配慮し、当初の税率を抑えた格好です。トランプ大統領は、「米国政府には常に中国と協議を行う用意があり、いずれかの時点で中国と合意できるかもしれない」とし、交渉妥結の可能性に含みをもたせています。

トランプ政権が現在のような強気な姿勢に出ることができるのは、米国株が高いからです。株価が高いことで、個人消費が7割を占める米国内総生産(GDP)の拡大を支えることができます。米国の家計に占める金融資産(株式や債券、投資信託)の割合は5割を超えています。株価が下がると、米国経済は簡単に崩れます。このように、米国経済は株価と一体です。そして、株価が崩れるようなことになれば、現在のトランプ政権の強気な姿勢も転換せざるを得なくなります。輸入関税の引き上げは、企業の原料コストの上昇につながり、ひいては製品価格の上昇やインフレにつながります。その度合いを見極めながら外交を進める必要があるため、トランプ政権はきわめて難しい判断と決断を行っていることになります。とにかく、米国第一主義を大前提に、世界経済や国際情勢に強い影響力を発揮し、それを維持する必要があります。そのために、現在は関税という「武器」を使って交渉しているわけです。

このように、現在の市場を分析する上で、トランプ政権の意図を正しく理解することが重要です。中国を標的にしていることは明白です。いまは、軍事的な戦争を行うような時代ではありません。経済を動かして戦争を仕掛ける「経済戦争」の時代です。これは対トルコやイランの制裁でも確認できることです。通貨安にして、対象国をインフレにして疲弊させるのが、いまの戦争のやり方です。また、現在のトランプ政権の対中政策の裏には、中国による知的財産権侵害に対抗する意図に加え、北朝鮮対策もあります。不安定なところを抑えておきたいわけです。また、今後は中東情勢にも不安定化の動きが出てくるでしょう。ロシアの動きが気になります。中国との関係もありますので、今後は経済面に加え、久しぶりに中東情勢などの経済面以外の情勢不安が高まりそうです。そうなると、原油価格にも影響が出てきます。このような不安心理が高まる中で、トランプ政権は米国経済の拡大と株価下支えを目的に、さらに強権的な政策を実行し、それを受けて米国株はむしろ上昇基調を強めていくでしょう。現在の「米国の一国主義」は、株価を支えるうえで不可欠なスローガンであることを理解しておきたいところです。

 

 

 

守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「1ドル65円、日経平均9000円時代の到来」(ビジネス社)
「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)