世界情勢への懸念が高まっています。これまでは「米中貿易戦争」への懸念が市場を不安定にさせていましたが、前週は米英仏がシリアを攻撃したことで、再び市場には不透明感が高まっています。さらにロシアへの経済制裁の影響が、株式市場や為替市場だけでなく、コモディティ市場に出始めています。これらの動きに対して、長期的に見れば過度に懸念する必要はないというのが私の従来からのスタンスですが、別の側面からすると、注目すべき材料であると考えています。

4月18日には米連邦準備制度理事会(FRB)が12地区の連銀景況報告(ベージュブック)を発表しました。そこでは、3月から4月初めの米国景気は「控えめから緩やかな拡大が継続した」と総括しました。この点はよいのですが、一方でトランプ政権による対中輸入制裁関税などの影響が、鉄鋼価格などに反映している事例が相次いで報告されました。全体的に順調な経済成長が継続し、景気の先行きを楽観する内容でしたが、一方でインフレが加速する可能性が高まることになります。米英仏によるシリアへの攻撃に関しては、中東情勢の不透明感につながる可能性があります。シリアは主要産油国ではありませんが、イランとの関係などを考えると、欧米6カ国とイランによる核合意からの米国の撤退リスクが原油高につながるとの連想が強まっており、実際にこれを材料に原油相場が押し上げられています。一方、ロシアへの経済制裁については、米国によるロシア・アルミニウム大手ルサールへの制裁措置を受けて、アルミ地金や原料であるアルミナの供給が滞る事態になっています。その結果、アルミ相場は5月初めにはトン当たり2,000ドルを割り込んでいましたが、わずか10日間で35%も上昇するなど、急騰しています。大手アルミ生産者の中には、可抗力条項を発動する方針を示す向きもあり、アルミ生産に支障が出る事態になっています。また、ロシアが主要生産国でもあるニッケルの価格も急伸するなど非鉄金属価格も上昇し、さらにガソリン車の自動車触媒の原料であるパラジウムもロシアの生産量が多いため急伸しています。

これらの状況は、いうまでもなくインフレを引き起こす可能性があることを示しています。これまでは、賃金の上昇が抑制される一方、長期金利がなかなか上昇しない状況が続きました。しかし、短期的なインフレ動向を示す短期金利は上昇しており、その結果、米2年債と10年債のイールドスプレッドは明確な形で縮小し始めています。それだけ、短期的なインフレリスクが高まっているといえます。特に米国の場合には、消費者物価指数(CPI)は原油相場との連動が高いことから、原油高は直接的にCPIの上昇につながります。無論、原油高は他のコモディティも含め、あらゆるものの生産コストの上昇につながります。これが一般国民の生活コストの上昇につながることは言うまでもありません。景気回復による賃金上昇を伴うインフレであれば、景気にはポジティブといえますが、それよりも原料高によるインフレ上昇はあまり歓迎されないかもしれません。そうであるとすれば、コモディティを購入するなどして、インフレヘッジを行う必要があります。市場はこれまで、トランプ政権の政策の不透明感など政治リスクを気にしてきました。しかし、私はトランプ政権の政策や外交成果が景気・経済にはポジティブに作用すると考えています。そのため、株式市場については心配ないとみています。ただし、上記のように、インフレリスクが高まっていることを正しく理解する一方で、金や原油などを購入してヘッジすることを検討するなど、適切な対処が必要と考えています。

 

江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「1ドル65円、日経平均9000円時代の到来」(ビジネス社)
「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)