「米中貿易戦争」への懸念が市場を不安定にさせています。4月4日には米国の制裁関税に対する中国の報復措置を嫌気した売りで、ダウ平均は一時、前日比510ドル下落しました。しかし、米中間の交渉次第で貿易戦争は回避されるとの見方が徐々に広がり、230ドル高まで戻しました。さらに、6日早朝にはトランプ大統領が1,000億ドルの追加関税を検討する発言したとの報道で、時間外取引で400ドルを超える下げとなるなど、激しい値動きとなっています。それだけ、市場はこの材料を懸念しているといえます。それにしても、米国と中国の応酬にはすさまじいものがあります。トランプ米政権は通商法301条に基づき、高関税を課す品目の原案を公表し、情報通信機器や自動車、産業ロボットなど約1,300品目に25%の関税を適用するとしました。これに対して、中国は米国から輸入する大豆や自動車、航空機など合計106品目に25%の関税を上乗せすると発表し、さらに米国による中国の知的財産権侵害を理由とした貿易制裁への報復措置に関して世界貿易機関(WTO)にも提訴しました。中国が報復対象とした米国産品の2017年の輸入額は約500億ドルに上ります。

米中がそれぞれの制裁関税を発表する一方、交渉の余地を残す発言も聞かれます。中国の朱光耀財政次官は、「中国は貿易戦争を望まない」と、関税の実施日を改めて公表するとし、協議を通じた問題解決を目指すとしています。大豆、自動車、航空機はいずれも米国からの主要輸入品で、関税の上乗せは輸入価格の上昇を招き、中国の消費者に与える影響が大きいとみられています。特に大豆は、米国産の代替品をすぐに探すのは困難なはずですが、それでも中国側は制裁対象に入れることで、強硬な姿勢を示したといえます。中国商務省は「米国が国際的な義務に違反したことで、中国は緊急事態に陥った」と強く非難し、中国の利益を守るため、中国対外貿易法や国際法の原則などに従い、報復措置を決めたとしています。

このまま米中間の報復合戦がエスカレートすれば、世界貿易に悪影響が及び、ひいては順調な世界経済の拡大にも影響が出る恐れがあります。中国はトランプ政権発足後、貿易問題では一貫して低姿勢の対応を続けてきました。しかし、トランプ大統領が制裁の具体的な動きを見せると、一気に強硬姿勢に転じています。習近平政権が2期目に入り、権力基盤を極めて強固にしたことに加え、3月下旬に北京で習国家主席が金正恩朝鮮労働党委員長と会談し「北朝鮮カード」を手にしたことで、米中の力関係に変化が生じたことも、米国に対して強気になっているとみられます。北京筋は「北朝鮮問題と米中貿易摩擦はワンセットだ」としていますが、一方で北朝鮮問題の進展を見極めながら、米国と水面下で通商交渉を続けるでしょう。トランプ大統領も「われわれは中国と貿易戦争をしているのではない」としています。制裁開始まで60日の猶予がある点も重要です。つまり、交渉の余地を残しているわけです。この猶予は、米朝首脳会談の開催期限にも合致します。ロス米商務長官は「結果的に交渉という形で収束しても驚くべきことではない」としています。最終的に制裁規模は大幅に縮小され、問題は収束されるでしょう。お互いにメリットがないことを、わざわざやる必要はありません。この制裁合戦の裏側を理解しておきたいところです。米国市場は不安定な状況ですが、本質は何も変わっていません。来週以降、今年第1四半期の企業決算の発表が始まります。これを受けて、株価は戻し始めると考えています。

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江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「1ドル65円、日経平均9000円時代の到来」(ビジネス社)
「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)