米国株は先週に掛けて急落しました。前回の本欄が2月2日でしたが、この日は1月の米雇用統計の発表の日でした。賃金の伸びが大きかったことをきっかけに、インフレ懸念が強まったことで金利が上昇しました。この日を境に、米国株は急落から乱高下の動きに移行しました。この間、株価の変動を示すボラティリティが急伸し、VIX指数は6日には50.30まで上昇しました。急伸までは10~11台だったことを考えると、いかに株価の変動が大きかったかがわかります。ボラティリティが上昇すると、資産を維持するうえでリスクが高まるとの判断になります。こうなると、リスク許容度を図りながら運用する投資家は、価格の変動が大きくなった資産の割合を縮小せざるを得なくなります。このようにポートフォリオの調整を行うことで、売りがさらに売りを呼び、下落が加速するということが起きたわけです。

しかし、心配はいらないと考えています。S&P500採用企業の2017年第4四半期決算は、前年同期比14.7%の増益となる見通しです。また、今後4四半期(2018年第1~4四半期)の予想株価収益率(PER)は16.4倍となっており、株価調整の前の18倍の水準から大きく低下する見通しです。18倍台は過去から見ても高い水準であり、持続可能ではないといえますが、16倍台にまで下げていることは、将来の株価の上昇に可能性があるといえます。また、先週も紹介したように、1950年以降の67年間の中で、S&P500で1月の騰落率がプラスだったのは41回で、そのうち年間騰落率がマイナスだったのはわずか4回だけです。さらに、年初から5日連続で上昇したケースは43回で、そのうち年間騰落率がマイナスだった年は7回だけです。今年はこの二つのケースに当てはまります。近年にないほどの強気のシグナルが出ていることを念頭に入れておきたいところです。

米国の場合には、株価が上昇しないと景気は明らかに鈍化します。家計の金融生産に占める株式や投信、債券の割合が5割を超える米国では、金利上昇と株安は資産価値の縮小に直結します。こうなれば、個人消費が落ち込み、経済成長率が鈍化することになります。そのため、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを遅らせ、金利やドルを上昇しないように抑制してきたわけです。FRBの政策は「雇用の拡大とインフレの抑制」が大きな命題ですが、実際の政策判断において株価動向をきわめて重視しています。3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げはほぼ確実ですが、今後は相当慎重な政策運営が求められるでしょう。インフレ率が明確な形で上昇するなど、市場が納得する状況になるまで、利上げを見送る選択肢もあるでしょう。株高を維持するためには、ドル安にしておく必要があります。これは、トランプ政権のドル安政策とも方向性が一致します。政権が予算教書で示したインフラ投資などにより、今後は財政が悪化し、金利が上昇するためドル安になるとの見方もありますが、これは逆です。ただし、金利の上昇は株式市場や経済にはよくありません。とはいえ、長期金利はまだ3%を超えていませんし、2008年の金融危機前は5%台でした。さらに言えば、イールドスプレッドも縮小していません。短期金利が落ち着いており、インフレ率が上昇しない中で、FRBの利上げの根拠は極めて薄い状況です。これらから、景気拡大はあと1年半前後続き、株価も同様に上昇基調を維持するとの従来からの見方は変わりません。

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江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「1ドル65円、日経平均9000円時代の到来」(ビジネス社)
「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)